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Bubble Factorの影響の見積もり方法について


はじめに

ポーカーのトーナメントにおいてBubble Factor(以下BF)が戦略に極めて大きな影響を与えることはよく知られた事実であるが、戦略の変化を定性的に記述したものは数多く存在するもののBFと戦略の関係性を定量的に記述した文献はあまりないと思われる。本稿では、ICM近似式を通じてBFが具体的にいくつのときどの程度戦略が変化するのかの見積もりを試みる。

BFとICM近似式

ICM近似式によれば、チップ量をプライズ期待値に変換する関数は、

$$
E(X) \approx P_0 + \frac{(P_1-P_0)X}{\frac{P_1-\overline{P}}{\overline{P}-P_0}\overline{S}+X}
$$

と書かれる。ここで$${\overline{S}}$$は自身を除いて算出したアベレージスタック、すなわち$${T}$$をトーナメント全体の総チップ量、$${N}$$を現在の参加人数として$${\overline{S}=\frac{T-X}{N-1}}$$である。従って

$$
A=\frac{\frac{P_1-\overline{P}}{\overline{P}-P_0}T}{N-1-\frac{P_1-\overline{P}}{\overline{P}-P_0}},\\
B=\frac{(P_1-P_0)}{1-\frac{P_1-\overline{P}}{(\overline{P}-P_0)(N-1)}}
$$

として、$${E(X) \approx P_0 + B\frac{X}{A+X}}$$と書ける。

BFと$${A}$$の関係を考える。現在のスタックを$${S}$$、自分を少しカバーしている相手から受けるBubble Factorを$${\text{BF}}$$とすると、BFの定義から$${\text{BF} = \frac{\frac{S}{A+S}}{\frac{2S}{A+2S}-\frac{S}{A+S}}}$$、これを解いて

$$
A=\frac{2S}{\text{BF}-1}
$$

となる。これらの関係式を用いることでBFからAを求めたり、プライズストラクチャーからBFを求めることができる。以降、この関係式を用いてBFから戦略の変化を見積もる。

BFとプリフロップ戦略

一般にBFが高くなるとオープンレンジ及びBBコールレンジは共に狭くなることが知られている。具体的にどの程度狭くなるかを見積もる方法を考える。

いま、Chip EVで計算したプリフロップソリューションと各ハンドのオープンEV/BBコールEVがわかっているとする(これはGTO Wizardなどで確認できる)。あるハンドのオープンEV/BBコールEVを$${e}$$、そのハンドの期待される勝率を$${w}$$、期待される平均チップ変動量を$${C}$$とすると、$${e = wC - (1 - w)C}$$、すなわち$${w=\frac{e+C}{2C}}$$である。ここで、BFの影響を受けても期待される勝率および平均チップ変動量がほとんど変わらないとすると、そのハンドのBF影響下でのアクションEVを$${E}$$, 自身のスタックを$${S}$$として$${E=wE(S+C)+(1-w)E(S-C)-E(S)}$$と書かれる。$${w = \frac{e+C}{2C}}$$および$${E(X)=\frac{X}{A+X}}$$から

$$
E = \frac{1}{A+S-C}(\frac{e+C}{A+S+C}-\frac{C}{A+S})
$$

すなわち$${E>0 \Leftrightarrow e>\frac{C^2}{A+S}}$$。ここで、経験的に$${C=\sqrt{S}}$$とすると、BFとAの関係から$${E>0 \Leftrightarrow e>\frac{\text{BF}-1}{\text{BF}+1}}$$となる。

例えば、Chip EVのソリューションにおいてはBTNのオープンに対してBBは全てのスーテッドハンドを降りないことはよく知られた事実であるが、降りるようになるBFはいくつであろうか。Eff. 40BBのソリューションを見ると72sのEVが0.14なので、$${0.14<\frac{\text{BF}-1}{\text{BF}+1}}$$から$${\text{BF}>1.33}$$となる。

以上の計算から、次のような見積もりが得られる。
プリフロップ戦略について、おおよそBFが1.33あたりからBFの影響が現れはじめ、Chip EVのソリューションでEVが$${\frac{\text{BF}-1}{\text{BF}+1}}$$以下のハンドは捨ててもよい。

BFとリバー戦略(ポラーなレンジをもつとき)

次に、ポストフロップにBFが与える影響を考える。フロップおよびターンの戦略に与える影響は割愛し、ここではリバー戦略に限定する。例外的な状況を除き、リバーにおけるお互いのレンジは「一方がポラーなレンジを有している」「お互いに似たような強さのレンジを有する」に大別されるであろう。

一方がポラーなレンジを有している場合を考える。下記記事

で示した通り、BF影響下ではポラーなレンジを有していたとしてもオールインが必ずしもEVを最大化するとは限らず、スタックを少し残してベットすることがある。

例えば実際に生じうる状況としてSPR=2.5のとき最適ベットサイズがスタックの85%となるBFを計算するとBF=1.46、80%となるBFはBF=1.53である。SPR=2のとき最適ベットサイズがスタックの90%となるBFは1.50であり、SPR=1.5のとき最適ベットサイズがスタックの90%となるBFは1.62である。

これらの事実から、以下のように見積もってよいだろうと考えられる。
ポラーなレンジを有するリバー戦略について、おおよそBFが1.5あたりからBFの影響が現れはじめ、スタックをある程度残すのが最適になる(具体的な最適ベットサイズは上述記事参照)。

BFとリバー戦略(リニアなレンジをもつとき)

最後にお互いに似たような強さのレンジを有する場合を考える。
[0,1]-gameをもとに、OOPにチェックフォールドとチェックコールのみを許し、IPに1種類のベットサイズのみ許して計算する。すると最適ベットサイズはポットサイズによらず、自身のスタックを$${S}$$としておよそ

$$
\frac{\text{BF}+1}{6\text{BF}-4}S
$$

となり、特にBF=1.1程度でも顕著にベットサイズが下がる。

ただし、OOPにレイズを許してソルバーを回すとIP側のベットサイズが上がるようであり、実験的にはポットの$${\frac{1}{\text{BF}}}$$倍程度のベットサイズが好まれるようである。

この実験的事実から、次のような見積もりを提案する。
リニアなレンジを有するリバー戦略について、おおよそBFが1.25あたりからBFの影響が現れはじめ、ベットサイズはポットの$${\frac{1}{\text{BF}}}$$倍程度が好まれる。

まとめ

BFと戦略の変化をまとめると以下のようになる。

  • BF 1.25あたりからリニアなレンジを有するときのリバー戦略が変化し、ベットサイズがポットの$${\frac{1}{\text{BF}}}$$倍程度になる。

  • BF 1.33あたりからプリフロップの戦略が変化し、Chip EVのソリューションでEVが$${\frac{\text{BF}-1}{\text{BF}+1}}$$以下のハンドを捨てるようになる。

  • BF 1.5あたりからポラーなレンジを有するときのリバー戦略が変化し、スタックをある程度残すのが最適になる。

なお、一方が他方を大きくカバーしているときなどはこの限りではないことに注意する。

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