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感覚ポーカー 〜直感と雰囲気でぶん殴る〜


はじめに

皆さんはホールデムをプレイするときどんなことを考えていますか?一生懸命計算している人、勉強して覚えた戦略をがんばって思い出している人、なんとなくいけそうな雰囲気を感じてブラフする人、様々なプレイスタイルがあると思います。このうち理論的なプレイについては様々な書籍や記事で解説されていますから、あえて「じゃあ感覚でプレイするならどうしたらいいの?」という記事を書いてみようと思います。

理論武装した感覚は強い

感覚ポーカーをするにあたって最も重要なことは「理論を学ぶこと」だと考えています。いや本末転倒やないかーい、って?いえいえ、なぜなら理論武装した感覚ポーカーは強いからです。理論ポーカーの中の面倒くさい部分を全て感覚ですっ飛ばしてしまえば理論と全く同じ戦略が瞬時に得られますし、もともとの感覚が鋭ければその得られた戦略を相手に合わせて適切に調整できます。すなわち、ポーカー理論のうち一番面倒くさい部分を学べば、理論プレイヤーからしたら高精度な戦略を瞬時に組み上げるうえにアジャストまでしてくる手強い相手になり、それに打ち勝つためには相手よりも精密な戦略を組むか相手のミスを頑張って探すしかなくなります。
したがってこの記事では最小限なにを勉強してどこの感覚をつかめばよいかについて、1つの考え方を紹介したいと思います。

GTO戦略を3要素で理解する

感覚ポーカーをするなら細かな理論は全く必要ないのでいっそ極端に簡略化してしまいましょう。GTO戦略を、以下の3要素からなると捉えます。

  • バリューブラフ比

  • ブロッカー

  • ボードカバレッジ

バリューブラフ比は「フロップならバリュー1:ブラフ2、ターンはバリュー1:ブラフ1、リバーはバリュー2:ブラフ1」だけ覚えておけばいいです。こだわるならリバーだけ頑張って理論を学んでベットサイズごとのブラフ率を覚えておいてもいいです。
ブロッカーは「自分がこのへん持ってるってことは相手困ってるだろうな〜」くらいな感覚でいいです。
実はこの2要素だけでだいたいなんとかなりますが、実際にソリューションを見ると微妙に変なことをしていたりします。そういった場合になぜそんなことをするのかを考えると、たいてい「ああ、ターンやリバーで○○が落ちたときに自分が困るからか」となります。そういうのをカッコよく言うとボードカバレッジと言うそうです。

そして、GTO戦略を見るときは特に以下に注意して、これらを感覚で掴めるようになるまで勉強しましょう。

  • フロップの場合、チェックレイズレンジのバリュー下限とベット額

  • ターン/リバーの場合、各ラインの各ベットレンジのバリュー下限とベット額

これらを感覚で掴めるようになると、「バリュー下限とベット額を考える→バリューのコンボ数を感覚で数え上げる→必要なブラフコンボ数を計算する→自分のハンドを見て、ブラフの優先度(だいたいブロッカーで決まる)的に自分のハンドがブラフレンジに入りそうかを感覚で判断する→ソリューションを開き、自分の感覚が合っていたかを確認し、間違っていた場合どこの感覚がズレていたかを確認する」という流れで勉強できるようになります。

この方法は一応理論ポーカーでも使えますが、この流れのうち「バリューのコンボ数を数え上げる」と「自分のレンジ内のハンドをブラフ優先度順に振り分けて、自分のハンドがブラフレンジに入るかを判断する」ところでものすごく時間がかかってしまうため、あまり実用的ではありません。その実用的でないはずの方法を感覚でぶん殴ることで実用化してしまおうというのがこの記事の趣旨になります。

具体例その1 UTG vs BB SRP Ks9s4c 2d

では、具体的な状況でこの流れに従ってみて、どういった感覚をつかめば良いかを見ていきましょう。
100BBキャッシュゲームのUTG vs BB SRP Ks9s4c 2dを考えてみましょう。慣れていないと文字では分かりにくいと思うので、画像も貼っておきます。

Ks9s4c 2d

フロップで1/3potサイズのCBを打ち、BBがコールした後としましょう。UTG側のバリュー下限とベット額は何でしょうか?UTGオープンに対するBBコールなので、BBコールレンジはそれなりに強いと考えられます。従ってこちらのバリュー下限も高く、だいたいKQくらいではないでしょうか。そしてベット額も高く、ポットの180%くらいではないでしょうか。

さて、バリューのコンボ数を数えてみましょう。今は勉強中なので丁寧に数え上げますが、ここをきちんと勉強することで感覚を掴み、実戦中は感覚でゴリ押しましょう
バリューハンドは弱い順にKQ/AK/AA/K9s/44(頻度50%)/99/KKとなります。いまUTGなのでK2sや22はレンジ外であり、44もプリフロップで頻度オープンなことに注意してください。厳密には各ハンドのCB頻度などもありますが、そこはざっくり行きましょう。KQはボードにKsが出ていることから残り3枚のKと4枚のQの組み合わせで12コンボ、以下同様にAK(12コンボ)/ AA(6)/ K9s(3)/ 44(1.5)/ 99(3)/ KK(3)で合計40.5コンボになります。

ターンのバリューブラフ比は1:1なので、必要ブラフコンボ数も40.5コンボになります。さて、どういったハンドでブラフしたらよいでしょうか?まず、相手がコールしそうなオフスートハンドを考えてみましょう。このボードだとKQoとKJoあたりでしょうね。ということは、こちらがQかJを持っていると相手がKQo/KJoを持っている可能性が下がり、相手は困っていそうです。次に、相手がコールしそうなドローハンドを考えてみましょう。こちらが打つのは180%potベットですから、弱いフラドロではきっと苦しく、Aハイフラドロや53sのオープンエンドの気合一発コールくらいしかなさそうですね。まとめるとこちらがQ, J, Asや5, 3あるいは何かしらのスペードを持っていると相手がコールできるハンドを持っている可能性が下がります。

さて、こちらのレンジをざっくり66+/ ATo+/ A2s+/ KJo+/ K7s+/ Q9s+/ J9s+/ T9s/ 55-33(頻度50%)/ 98s,87s,76s,65s,54s(頻度33%)として、ブラフレンジを構築していきましょう。もちろん実戦中はあまり深く考えずに「こっちのブラフはQ, J, Asとか5, 3, スペードとかでしそうだなー。バリュー下限がこのへんだからブラフはこれくらいで、感覚的にこのハンドはブラフレンジに入りそう/入らなさそうだなー」と、全て感覚で捉えます。慣れたら「うーん、雰囲気的にたぶんブラフ!」と直感で打っても良いです。
ブラフ優先度が特に高そうなQ,J,Asを持っているハンドは何があるでしょうか?そのままQJs(4コンボ), AQo(3コンボ), AJo(3コンボ)がありますね。ほかにもQTs(4コンボ), JTs(4コンボ), AsQs〜As3s(As9sとAs4sを除くと8コンボ)あたりが良さそうですね。一部のAQなどはチェックレンジに残してもよさそうですが、このあたりのハンドは概ね高頻度でブラフしてよさそうです。これらで合計26コンボなので、まだ打てますね。
5,3等も含めてほかにブラフ候補を探してみると、A5s(スペードは上で数えているので+2), A3s(2), 33(3), 54s(1), 65s(1)あたりがあります。これらを加えて合計35コンボ、目標の40.5コンボにだいぶ近づいたので、あとはヤケクソ気味に何かしらぶっ放したら良さそうだとわかります。相手の22のセットを抑えているA2s(3)などが候補になりそうですね。

それではソリューションを見てみましょう。GTO Baseを見ると、以下のような戦略が示されます。

Ks9s4c 2dのソリューション

このうち150%potベットのレンジは以下のようになっています。

Ks9s4c 2d bet 150%

これと、先ほど予想したベットレンジを比較してみましょう。

予想戦略

バリューブラフ比とブロッカーだけを考えて穴埋めしただけなのに、かなりGTO戦略に近いものが得られていることがお分かりいただけるでしょうか?さらに、予想戦略とGTO戦略を比較することで
KK:相手のコールレンジの大半がKヒットなのにKを抑えすぎていてバリューが取れないので、チェックしてスロープレイする
AQo/AJo/ATo:Qs/Js/Tsなどもブロッカーとして使えるので混ぜる
A8s/A7s/A6s:ヤケクソに使われるっぽい?
AsQs/AsJs/AsTs:リバーでスペードが落ちたときにチェック後の自分が困るから、これらはチェックに混ぜる(ボードカバレッジ
と、GTO戦略の意図をなんとなく理解することができます。

このような勉強を繰り返すことで「このボードはバリュー数が少なそうだから、ここまでブラフしなさそう」「このボードは○○を持っていることが重要だから、それ以外はほとんどブラフしなさそう」「こちらのレンジが広くてブラフ優先度の高いハンドが他にいくらでもあるから、ブロッカーは優秀だけどこのハンドはブラフしなさそう」といったことを感覚で掴めるようになります。

ポーカーの勉強とは必ずしも暗記ではなく、特に感覚ポーカーにおいてはこういった実戦中にやるのが面倒な部分を事前に反復練習しておいて感覚を掴んでおくことも重要であると考えています。どうせ最終的に感覚でぶん殴るのであれば、いっそめちゃくちゃ面倒くさい部分を感覚ですっ飛ばしてしまうのが効率的ですよね?だからこそ感覚ポーカーではこのような最も面倒な部分を普段の勉強として行い、その勉強で得られた感覚を実戦に活かすのが良いと考えています。

具体例その2 BTN vs BB SRP Ah8d4s Tc

さて、では次の具体例では実際にレンジが広い場合を見てみましょう。BTN vs BB SRPで、ボードはこれです。

Ah8d4s Tc

こちらもフロップで1/3potサイズのCBを打ち、BBがコールした後としましょう。バリュー下限は何でしょうか?先ほどと違いBTN vs BBですから、AJくらいになりそうですね。また、ベット額は180%で良いでしょう。
AAはチェックとすると、バリューはAJ(12)/ AQ(12)/ AK(12)/ T8s(2)/ A4s(2)/ A8(9)/ AT(9)/ 44(3)/ 88(3)/ TT(3)の67コンボでしょうか。ターンなので、目標ブラフコンボ数は67で良いでしょう。

BB KTo/QTo/JToはほとんどCBに対して降りているでしょうから、BBがコールするオフスートハンドはAXo全般でしょうか。また、ドローはJ9s/97sあたりでしょうか。ですからブラフ優先度は9, J, 7, 6以下となりそうです。

こちらのレンジを22+/ A7o+/ A2s+/ K8o+/ K2s+/ Q9o+/ Q2s+/ J9o+/ J4s+/ T9o+/ T6s+/ 96s+/ 86s+/ 75s+/ 65s/ 54sからKK-JJ/ KQ/ KJ/ KTs/ K9sを抜いたものとしましょう。優先度の高そうなハンドを並べていくとK9o(12)/ Q9(16)/ J9(16)/ 97s(4)/ 96s(4)/ KJ(16)/ QJ(16)/ J7s(4)/ J6s(4)/ J5s(4)/ Q7s(4)/ 76s(4)/ 75s(4)/ 65s(4)あたりでしょうか。これらを全て合わせると112コンボ、とんでもないブラフ過多になってしまいました!ここから削っていきましょう。まず、KJとK9oはさすがに打たなくていいのではないでしょうか。次に、ドローハンドだけ抜き出していきましょう。ドローハンドはQ9(16)/ J9(16)/ 97s(4)/ 96s(4)/ QJ(16)/ J7s(4)/ 76s(4)/ 75s(4)/ 65s(4)であり、合わせて72コンボです。これらを75%頻度で打つことにすれば54コンボになります。
(2024/7/24追記:計算ミスの修正ついでにブラフ頻度を80%から75%に変更しました。人間が80%頻度の再現をするのは難しいですが、75%であれば50%を2回まわせばよく、50%頻度の乱数は身の回りにたくさんあるので75%頻度なら比較的再現しやすいであろうという判断です)

他にブラフ候補となるハンドはあるでしょうか?ブロッカーの良いハンドもドローハンドもあらかた打ち切ってしまった後は、ボトムヒットがドローのように扱われることが多く、その次はヤケクソ気味に4以下のローポケットが使われることが多いです。これは恐らくボトムヒットは5アウツでツーペアに昇格し、ちょっと弱いけどちょっと引きやすいガットショットとみなせるからかなと思います。ブラフ優先度は9, J, 7, 6以下でしたから、J4s(3)と54s(3)を入れて、次にQ4s(3)、その次に22(6)と33(6)を入れることにしましょう。J4sと54sはドロー扱いで75%頻度で入れることにして、Q4s/22/33は全て入れるとブラフコンボ数超過してしまうため50%頻度で入れることにすれば合計66コンボとなり、ほぼ目標通りになります。

ブラフコンボ数が届いたのでソリューションを見てみましょう。

Ah8d4s Tcのソリューション
Ah8d4s Tc bet 150%
予想戦略

いかがでしょうか。バリューブラフ比とブロッカーを考えて、ドローがあるものを拾い上げただけなのに、またもやソリューションに近い戦略が得られました。

また、予想戦略とGTO戦略の差は以下の通りです。
バリューブラフ比:GTO的には1:1では足りず、1:1.2くらいブラフがほしいらしい(+10コンボ程度)
64s:想定レンジ外のハンド
96s:チェックレンジにあるドローが少なすぎるせいか、ここをチェックに入れるらしい(ボードカバレッジ?)
K3s, K2s, Q3s, Q2s:ヤケクソ気味にこのあたりでピュアブラフするらしい
この通りヤケクソっぽいレンジが意外と広く、UTG vs BBと違いBTN vs BBではこういったところも感覚で掴めると良さそうです。

勉強熱心な読者はぜひこれと同じ状況でターンカードをKdに変えたとき戦略がどう変化するか考えてみてください。また、Khではどうなるでしょうか。

勉強方法

上述の例のように、面倒くさい部分を感覚でやってしまえばバリュー下限とベット額からなんとなくベットレンジが構成できることがわかりました。この感覚を身に付けるためには、以下のような勉強方法が良いと考えています。

  1. シチュエーションを決める(SRPと3BPではかなり感覚が違うため、最初はSRP固定がおすすめ。また、BMCB/ディレイCB/プローブベットはバリュー下限の感覚が少し難しいため、チェックレイズ/ダブルバレル/トリプルバレルから勉強するのがおすすめ。そして、必ずオリジナルレイザーのポジションをランダムに変更する

  2. ランダムなボードを用意する

  3. ボードを見て、バリュー下限とベット額を考える

  4. バリューコンボ数を数え、必要ブラフコンボ数を出す←面倒くさいけどがんばる

  5. ブロッカーを考え、ブラフレンジを構築する←すごく面倒くさいけどがんばる

  6. ソリューションを開き、予想戦略とGTO戦略を比較しフィードバックする

  7. ソリューションを開いたついでに同じポジションの別のラインのバリュー下限とベット額を確認する(ディレイCBなど)

これを毎日1フロップ行えば、3ヶ月程度でSRPについてCB以外の感覚が掴めると思います。また+3ヶ月で3BPの感覚も掴めるかと思います。CBに関してはフロップトレーナーという素晴らしいアプリがありますので、あれをぶん回せば良いと思います。

参考までに、この方法で身に付けた感覚で筆者自身が1万ハンドほど感覚ポーカーをしたところ、ターンのバリューブラフ比が52.4:47.6、リバーのバリューブラフ比が63.8:36.2になりました。また、判断にかかった時間は平均4秒でした。初中級者レベルのテーブルならこの早さと正確性があれば十分戦えるのではないでしょうか。
筆者にはセンスがないので上手なアジャストなどはできませんが、逆に言えばセンスのない筆者でも短期間でなんとなくGTOっぽいプレイができるようになったので、これから学ぶ人達の参考になればと思いこの記事を書き残しておきます。

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