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社外取締役はなぜ「企業価値向上」につながるの?

品川インターシティを南に下った、京浜運河を望む倉庫街にひっそりと佇むBARアバントには、毎週金曜日の夜になると常連が集まり、喧騒につつまれます。

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バーテンダー:森川さん、いらっしゃい。

森川:モギー、いつものワインで。

バーテンダー:春の限定品のポッキー出しておきますね。

森川さんは「経営情報の大衆化」をミッションにしているアバントという企業グループの社長さん。

バーテンダーのモギーが今日も限定ポッキーを用意していたので、いきなり盛り上がっているようです。

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ーー森川さん、この前はひどいじゃないですか。せっかくコーポレートガバナンスの話を聞く気になったのに。

森川:ごめん、モギー。続きを話そう。

ーー僕も「コーポレートガバナンス」について考えてみたんですが、どうしてもわからない部分があって。

森川:わかろうとすること自体がすごいよ。わからないことって?

ーーなんで「コーポレートガバナンス」をしっかりやると、企業が儲かったり、その価値が上がったりするんですか?

森川:基本の「キ」だけど、企業は大きく3つの市場に向き合っているんだ。

1つめは「製品・サービス市場」。

どんな企業だって何らかの製品やサービスを売って収益を得ている。その商品やサービスを介して顧客とコミュニケーションを続けていることで、製品が改善されたり、新しいサービスが開発されるよね。

それで企業が成長したり、製品やサービスが受け入れられずに淘汰されることもある。

2つめは「労働市場」。

日本は「人材の流動性」が低いと言われたりするけど、企業で働く人材も、賃金や「やりがい」などの要素で判断しながら、どの企業で働くかを考える。企業側も自社で活躍してくれる人材かどうかを見極めようと工夫している。

そのコミュニケーションが日本の労働環境を改善してきたんだよね。

ーーなるほど、なるほど。

3つめは「資本市場」。

株式会社、特に不特定多数の株主が存在する上場企業では、株主との対話が求められる。

それによって経営の透明性を高まり、説明責任を果たすことで企業価値を高められる可能性があるとされているんだよ。

ーーちょっとまってください、森川さん。

「経営の透明性」や「説明責任」が企業価値を高めるっていう話、正直ピンとこないですね。

けっきょく企業は長期で利益を生み出し続けるから、企業価値が上がるんじゃないんですか?

森川:モギー、なかなかいい質問じゃない。ちょっと説明しようか。

前回話したように、日本の上場企業というのは、ROEが非常に低い状態に置かれていたわけ。

ーー はい、ROEは、株主から預かった資本でどれだけ効率的に利益を生み出しているかという指標ですね。

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世界でも低い水準のROEでは企業価値は高まらない。1900兆円の個人金融資産を日本で運用するのにこれではだめだというのが、前回までのお話。

それで「コーポレートガバナンスコード」っていうものを決めて、資本効率を上げる経営をしていきましょうと、なったんだよね。

ーー そうだ、そうだった。

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森川:いま大きな流れとしては、東証のマーケットの再編がある。

2022年4月に東京証券取引所の市場再編の中で、東証一部がプライム市場になると言われていて、東証はそこに入る会社を厳選しようとしている。

ーーこれまでよりも審査基準がきびしくなるんですね。

うん、機関投資家が投資をするに足る会社の集団にしようとして、そこに入る企業のコーポレートガバナンスを強化していく方向を考えている。

その手段として、社外取締役をどのように機能させるかという論点になってきている。

ーー社外取締役はなんで「企業価値向上」につながるの?

森川:これまでは「企業価値向上」よりも、社外取締役の数をどう増やすか、という「形式」にフォーカスしていたのが実情だったけど、2015年以来、それについては一定の成果が出てきた。

だから、今度は会社法を改正して義務化までしようとしている。この義務化の流れは、さかのぼれば日本が戦争に負けて、アメリカの占領政策に起源があるのかもね。

なんで戦争を起こしたのか考えると、やはりチェックが効いていない、と。意思決定者を誰がチェックしているのかという話に近い。

ーー「軍部の暴走」ってやつですね。

森川:日本っていう国では歴史的に「トップ」が意思決定プロセスで単なる「お飾り」になる現象がよく起こっているんだよ。

ーーあ、最近のニュースでも。。。では、意思決定者に意思決定させるのが、「コーポレート・ガバナンス」の肝なわけですか。

森川:意思決定者と権限の所在を一致させることによって、業績に対する責任を追及する機能を設けなければいけないという視点でのガバナンス。監督機能や監査機能を入れていくこと。

つまり、業績が上げられない経営者には退場してもらう。そのことで経営者への牽制と進化を促すんだ。

ーー退場させられちゃうんですね!上場企業の社長も楽じゃないな。

会社に対してどのようにガバナンス機能を持たせるかという意味では、戦後の財閥解体などの経済改革では、社外取締役をちゃんと入れたかったらしい。

だけど経済界から猛反対に遭い、1951年に始まった公認会計士による監査制度にとどまっていた。それが日本のコーポレートガバナンスなんだよ。

70年かけて、今回の会社法改正でやっと社外取締役の義務化ができた。このような大きな流れがあるんだね。

ーー流れを聞くと、社外取締役の義務化の意味がわかる。結果がでなければ辞めてもらうことで、企業の進化を促す仕組みなんですね。

森川:そう。個人的な感想としては「人間、ちゃんとし続けるのは大変だよ」ということだと思う。

ーー僕はガバナンスまったく効いていないですから、ゆるゆるですよ(笑)

森川:優秀な人も永遠に優秀ではないし、社長というポジションについてしまうと、自分で辞任できる人もほとんどいないのが重要な点だね。

それは長い歴史のなかで証明されてきた。私の根っこにある思想は、「未来の自分は信じられない」という考え方。

だから、経営者の能力や会社の課題を、投資家の代理として提言してくれる人たちの集団と付き合っていくのは大切なんだ。

ーーなるほど。ただ実際の経営の場面には、カリスマ的な創業経営者が、すごいリスクを取ってうまくいく場合もありますよね。

森川:おっと、今日はなかなか鋭いじゃない。そうそう。

例えば、ナイキのフィル・ナイトさんがタイガー・ウッズとの契約をしたとき、京セラの稲盛さんが第二電電に参入したとき、ソニーが金融、映画や音楽、テレビゲームに参入したときも創業メンバーや創業家が大きな役割を果たしているね。

ーー創業経営者の自由を奪うのが本当にいいことなんですか?

森川:クリエイティビティのとらえ方だと思うんだよ。ビートルズのジョンやポールやジョージって、創作上の対立もあったと思うけど、結局ビートルズ時代のセールスをソロになってから超えていない。

ーーたしかに!

森川:経営はクリエーションだから、違う意見や才能をもつ社外取締役がいる環境は、しんどいけど役立つと思うよ。相当しんどいんだけどね。

ーー森川さん、「しんどい」を2回、いいましたね。そうとうしんどいんですね。

森川:金曜の夜はしんどい感がすごいんだよ。基本的に人と関わると俺のボディ・バッテリー※は下がるからね。

経営者の仕事のほとんどが人と関わること。だからもう、金曜の夜は産卵後の鮭だよ。

ーー産卵後の死んだ鮭はヒグマも食わないらしいですよ。まずいから。

次回に続く

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京浜運河を望むBARアバントで熱心に横山光輝の『徳川家康』を読んでいる人を見つけたら、それは森川かもしれません。「コーポレートガバナンスの理想」は遠く、厳しい道のりです。いつか約束の地にたどりつくことを祈って。『BARアバントの夜』隔週金曜日更新です。

※ボディ・バッテリーとは森川が愛用するGarmin社製のスマートウォッチが独自に計測する体調管理のための指標。

語り手 株式会社アバント 代表取締役社長 グループCEO 森川 徹治
編集協力/コルクラボギルド(文・角野信彦、編集・頼母木俊輔)

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アバントは連結会計関連事業、ビジネス・インテリジェンス事業およびアウトソーシング事業を展開し、経営情報を意思決定に役立つ「未来の地図に変えていく」ことを通じてお客様の価値創造に貢献しています。Bar AvantはグループCEO森川がコーポレートガバナンスについて語る場です。