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儲けの型は4種類だけ。『三位一体の経営』で会社を分析する方法

「パソコンばかり見ていて目がつかれたよ」

「運河の川面でも見て目を休めたらどうですか」

「柄シャツの店長のツーブロックも涼しげですしね」

品川インターシティを南に下った京浜運河を望む倉庫街にひっそりと佇むBARアバントには、毎週金曜日の夜になると常連が集まり、喧騒につつまれます。

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バーテンダー:森川さん、いらっしゃい。

森川:オリンピック終わっちゃったねえ、サーフィンの五十嵐カノアくんのあのクルって回る技、すごかったよ」

バーテンダー:確かに、森川さん、山登りはするけど海はどうなんですか?

森川:海も好きだよ、最近はみさきにハマってるね。

バーテンダー:懐かしい、南葛SCのゴールデンコンビですね。

森川:それは、キャプテン翼の岬 太郎だね。

森川さんは「経営情報の大衆化」をミッションにしているアバントという企業グループの社長さん。バーテンダーのモギーとたわいもない話で盛り上がっています。

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森川:みさきっていうのは、「みさき投資株式会社」のこと。この本にハマってるんだよね。

ーーマンガの話じゃなかったんですね。

森川:俺が話したいのはみさき投資の中神さんが書いた『三位一体の経営』※1の話。

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この「三位一体」というのは、「経営者、従業員、投資家が企業価値を長期で成長させることで、みなが幸せになること」なんだよ。

実は、もともとうちは「事業の成長、社員の成長、企業価値の向上」をチャレンジの基礎としてKPIを設定していたし、「経営情報の大衆化」を経営理念にしてるから、すごく近い思想をもっているんだよ。

ーーきっと中神さんはキャプテン翼のファンじゃないですか?

森川:(無視)えーっと、今日はね、この本のなかで使われてる考え方を使ってモギーにコンサルしてあげようかと思って。

ーーいつもポッキーとプリッツをサービスしているんだから、いいのを頼みますよ。

森川:とても簡単でね。事業の差別化要因と利益率の関係で事業を4つに分類して、自社を分析するんだよ。こんな感じね。

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『三位一体の経営』より引用

縦軸の差別化の要素っていうのは、「利益を生み出すための違い」のこと。BARの経営でいうと、飲み物の美味しさ、フードメニューの豊富さ、接客などのサービス、価格、立地など、いろいろな要素がある。

ただ、飲食店というのは単純に規模を大きくしただけで利益も伸びるというものじゃないよね。サービスがいいことで人気の店も、多店舗展開をしてだめになるパターンも多い。

だから横軸の規模の大きさと優位性の間に関係はあるか?という要素は小さい。だから飲食店の事業というのは(2)の分散型事業ということになる。

ーーなるほど、わかりやすいですね。でもここから次に何をやっていけばいいんですかね?

森川:それも「儲けの出方」によってだいたい決まってるんだよ。いろいろなビジネス書で、自分の事業の特性を知って、成功確率の高いアクションプランを積み重ねていくことが大切。それがこの図にまとまってる。

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『三位一体の経営』より引用

規模の経済が効かないってことは、小さな単位の事業を丁寧に収益管理していくことが大切だから日時決算を習慣にすることがまず大切。

それと、差別化要因が多いってことは、競合他社の動向に目を配りながら、メニューを見直す、顧客のターゲットを見直す、店舗のデザインなどの流行に敏感になるなど、多くの打ち手に関心を持ちながら機動的に経営することが大切だよ。

ーーやっぱりそうですか。私も『バーラジオのカクテルブック』を研究してますからね。それと森川さんの好きなポッキーの新情報も任せてください。

森川:ただね、飲食店っていうのはすごく多様な業態があるでしょ。

ーーそうですね。

森川:だから、経営者の創意工夫で「規模型事業」に進化させている事例もあるんだよね。例えば規模の経済をセントラルキッチンで実現したファミリーレストラン業態とか。

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ーーそうか、でも私のコピーロボットのようなバーテンダーが10人いて、10店舗の立地を探して、規模の経済を追求するの、疲れちゃうから僕はこの店を居心地のいい場所にしていきますよ。

森川:そうそう、それが一番。よく「出来物と中小企業は大きくなると潰れる」っていわれるのは、分散型企業の性質を理解しないで拡大しようとしているからなんだよ。

ーー僕のリスクテイクはAmazonでプレミア価格がついていた『バーラジオのカクテルブック』8,000円ですからね。かなり投資効率が高いですよ。

森川:例えば、うちの事業でも連結会計事業、ビジネス・インテリジェンス事業、ビジネスアウトソーシング事業とあるけど、それぞれ、特化型事業、分散型事業、分散型事業と定義してる。

連結会計事業は財務情報を経営判断に使える情報にするためのシステムの開発や運用、コンサルなんかをしてる。

ビジネス・インテリジェンス事業は社内外のデータを整理・統合して分析し、経営の意思決定に役立つようにするソリューションを提供する事業。ビジネス・アウトソーシング事業は決算業務などをアウトソースしてもらって受注する事業。

ーーなるほど、やっと森川さんが何やってるのか理解しましたよ。事業をいくつか持っている会社がこのフレームワークを使って自社のことを理解するのはわかりやすいですね。

だけど森川さん、上場企業は常に企業価値をあげていかないといけないんですよね。分散型事業をどうするんですか?

森川:するどい機関投資家のような質問。モヒート、もう一杯ちょうだい。分散型というのは、成長すると利益率が下がる特徴があったよね。一方で特化型というのは、一見規模の利益がなさそうなんだけど、顧客や展開地域、あるいは商品の数や種類が増加してもコストが増えない特徴がある。

大衆薬メーカーの事例が特化型事業として『三位一体の経営』では取り上げられているけど、これは大衆薬の商品の種類を増やしても、販売チャネルがドラッグストアという取引先に集中するから、規模の経済が効きにくい医薬品業界でも、規模の経済が働いているんだよね。

ーーほうほう、なるほど。では、分散型事業を特化型事業に移行することができるってことですか?

森川:そう。だから利益率の高い分散型事業を創出することと、それを規模の経済の効く特化型事業に移行させるという2段階を考えてる。

ーーじゃあBARも規模の経済が効く可能性あるかな?

森川:でも、BARの経営者が、規模を大きくしようとしたら人を育てるしかない。だからベンチャーキャピタルや銀行も企業のなにを見るかっていうと、社長も含めた人が育っているかを見るわけ。

ここに尽きるんだけど、人材を大量に育て続けるシステムを持っている企業というのはBARにはないよね。多分、飲食業界なら、一時期のマクドナルドやロイヤルホストは人を育てる仕組みで規模型事業になっていたんだと思うよ。

うちは、分散型事業の子会社で専門職としての経営者をたくさんつくっていきたいと考えている。ガバナンスの面で考えても自律的な経営者予備軍を社内にたくさん抱えている状態は、投資家にとっても経営にとってもハッピーじゃないかな。

ーーそりゃ、社員も経営者予備軍として成長できればハッピーですもんね。まさに森川さんのハッピーセット。

森川:いや、無理にマクドナルドにつなげなくていいから。

ーーところで、森川さんの会社はうまく特化型事業に移行できそうですか?

森川:上場企業というのは常に成長を宿命付けられているものなのだ。その道程は遠く厳しい。

地球から14万8千光年離れた大マゼラン星雲サンザー太陽系の第8番惑星ガミラス※2こそ今、地球を滅亡に追いやろうとしている悪魔の星なのだ!

ーー突然『宇宙戦艦ヤマト』でごまかさないでください。

森川:ちょっとハッピーセット食べたくなっちゃったから。お腹いっぱいにしてイスカンダルを目指すよ。

(続く)

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京浜運河を望むBARアバントでバーテンダーの経営相談にのっている男がいたら、それは森川かもしれません。「コーポレート・ガバナンスのイスカンダル」は遠く、厳しい道のりです。いつか約束の地にたどりつくことを祈って。『BARアバントの夜』隔週金曜日更新です。
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※1: みさき投資株式会社、中神康議著。経営にも携わる「働く株主」として語る福利で企業価値を向上させる現代における最良の経営理論書のひとつ。

※2: 宇宙戦艦ヤマトが地球を放射能汚染から救い出す「コスモクリーナー」の設計図を取りに行く星。デスラー総統率いるガミラス帝国に支配されている。



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