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AIのべりすと怪文書『三国志警察24時』

 ここは三国志警察署捜査一課、李儒刑事だ。
「なんで俺がこんな目に……」
 李儒は今年で三十六歳になるが、独身である。子供の頃から勉学に励み、成績は優秀だったのだが、何をやっても上手くいかず、気が付けば三十代後半になっていた。
 顔立ちも良く、背も高いのに、何故か女性と縁がないのだ。職場の同僚や部下には美人も多いし、紹介してくれると言ってくれる女性もいるのだが、どうにも上手くいかない。
 そもそも自分はモテない方ではないと思う。だが、なぜかいい雰囲気になる前にふられてしまうのだ。
 多分、呂布と言う男を捕らえた功績があるはずなのに、その手柄を全て横取りされてしまっているせいだろう。
「これも全部、あの男が悪いんだ」
 李儒はそう言うと、目の前の男を見据える。
「なぁ? そう思うよな?」
「……え?」
 そこには後輩の郭嘉がいた。
「あー、郭嘉か。何してんの、こんな所で?」
「それはこっちの台詞ですよ。仕事サボって何やってんですか、先輩?」
「仕事ならもう終わったよ。今はちょっと休憩中なんだ」
「へぇ、珍しい事もあるもんですね。それで、何してんですか?」
「ん? だから休憩だって言ったろ?」
「いや、そうじゃなくて。この人誰ですか?」
 郭嘉は李儒の後ろに隠れている呂布を指して尋ねる。
「ああ、こいつはね、呂布奉先だよ」
「知ってますけど。なんでそんな有名人と一緒にいるのか聞いてんですよ」
「うん、まあ、色々あってさ。僕がこいつの身柄を引き受けたんだよ」
「へぇ、そうなんすか。じゃあ頑張って下さい」
 そう言って郭嘉は立ち去った。

 呂布は李儒に対して怯えていたが、郭嘉に対してはどこか安心感を持っていたらしい。
「……お前ら、どういう関係なわけ?」
 李儒は呆れた様に呟く。
「ところでさ、あいつ捕まえなくて良いのかい? 天下の大罪人、董卓を殺した大悪党なんだろ?」
「……え? 俺の事を捕まえに来たんじゃなかったんですか?」
「いや、違うよ。僕はただ休憩してただけ。君がここに居るなんて知らなかったし」
「そうなんですか? 俺はてっきり董卓軍の武将達はみんな捕まったと思ってました」
「うーん、それなんだけどねぇ……」
 李儒は困った様な表情を浮かべるが、呂布の方はそれどころではなかった。
「とにかく助けてくれ! このままだと殺される!」
「殺されないよ。君はまだ何もしていないんだから」
「でも、『男性募集』だなんて詐欺ポスターに引っかかって、大金を騙し取られたんだぞ。これは立派な犯罪じゃないか!」
「……えっと、君、まだ騙されてるの?」
 李儒の言葉に、呂布は首を傾げる。
「え? どういう事です?」
「その『男性募集』って、実は君みたいな被害者が続出していたんだよ」

 それは、いわゆる「ハイソ」「セレブ」と呼ばれるほど社会的地位や経済力などが高い「美魔女」たちの相手をするという触れ込みで、男性たちを騙して大金を搾取するというえげつない詐欺だった。しかも、被害に遭った男たちのほとんどが権力者であり、中には皇帝にまで及ぶ事件もあった。
 もちろんその手の事件は珍しくない。特に権力者ともなれば金払いも良いため、被害に遭う者も多かったのだが、今回の場合は規模が大きかった。
 最初は数人から始まったはずの被害はあっという間に拡大し、今では数十人が被害に遭っている。その犯人として指名手配されていたのが、呂布なのだ。
「え? 俺が?」
「そうだよ。あのポスター、元々は洛陽の高級住宅街にあったんだ。そこに貼られていたものを剥がしたんでしょ?」
「それは確かにそうだけど……まさかあれだけで?」
「そう。だから君は無罪放免って事で、解放されるはずだよ」
「そ、そうなのか?」
「まあ、ちょっと待っててよ。今、上に確認取るから」
 李儒はそう言うと、携帯を取り出す。
「はい、李儒です。例の件、無事に解決しました。今そちらに向かいます」
 李儒はそう言うと電話を切る。
「上って事は、やっぱり警察のトップって偉いさんなんだろ?」
「まあ、そうかな。一応、僕はこの国のトップでもあるし」
「……はい?」
 李儒の答えに、呂布だけでなく張遼も驚いていた。
「そんな驚くほどの事でもないよ。僕は元々文官志望だったし、何より曹操と違って武力は無いからね。こうして権力争いに参加しない代わりに、他の誰かに利用される事も無かったって訳だ」
「それはつまり、先輩を利用すれば簡単に天下を手に出来ると言う事に?」
「いや、それは無理。曹操とか劉備クラスになると、ちょっと手に負えないよ。僕なんかじゃ逆立ちしても勝てないし、そもそも戦いたくない」
 李儒は苦笑いしながら言う。
「でも、それならどうしてこんな所で休憩してたんですか?」
「ん? ああ、それはほら、僕はこう見えても忙しい身だからさ。今日はたまたま時間が出来たから休憩してただけだよ」
 李儒はそう言いながら立ち上がる。
「とりあえず、董卓の残党狩りは終わったみたいだし、僕らは引き上げるよ。君には色々と聞きたい事もあるけど、今は急ぐ用事があるんだ」
 李儒は呂布を連れて歩き出す。
「あ、先輩、どこに行くんですか?」
「だから、急ぎの用事だって言ったろ」
 李儒は郭嘉の手を振り払うと、そのまま呂布を伴ってその場を去る。

 李儒が呂布を引き連れてやって来たのは、漢王朝の宮廷であった。董卓軍によって都は焼かれ、多くの高官達と共に呂布はその命を失ったはずだったのだが、李儒はそんな事は全く気にせず呂布を連れ歩く。
 宮廷の入り口では、警備兵が二人立っていた。
「お勤めご苦労様です」
 李儒は笑顔で言う。
「李儒殿、どうされました?」
「いえ、この者を引き渡しに来たのです」
 李儒の言葉を聞いて、呂布は驚いた。
「え? 俺ですか?」
「そう。君だよ。この人、董卓軍の将軍の一人だったんだけど、何かの間違いで指名手配されてたらしいよ」
「え? そうなんですか?」
「いや、違うんですけど……」
 呂布は否定しようとするが、李儒がそれを遮る。
「うんうん、分かる。気持ちは良くわかるよ。いきなり指名手配されたなんて言われて、すぐには信じられないよね。でも大丈夫。ここに来ればきっと分かってもらえるから」
 李儒に促されるまま、呂布は宮廷の中へと入っていく。
 呂布の姿を見た瞬間に警護の兵士達は驚きの声を上げ、そして一斉に膝をつく。
「こいつぁたまげたな! 呂布の旦那じゃないっすか!」
「え? なんで? え? ええぇ? どういう事? え?」
「落ち着いて下さい、呂布将軍。我々は貴公の無実を信じております」
「いや、俺は別に何もしてないんだけど……」
「何を言ってるんだい。君は洛陽の街を破壊し尽くしたじゃないか」
「いや、あれは街を壊したのは確かだけど、俺はやってません!」
 呂布は懸命に訴えるものの、誰も信じてくれなかった。
「とにかく、ここはもう良いよ。後の事は彼らに任せよう」
 李儒は呂布を促して、その場を離れる。
「あの、本当に良かったんでしょうか?」
「んー、まあ、仕方ないんじゃないかな? みんな、君がやったと思ってるし」
「え? 何でですか? あの時、洛陽にいたのは俺だけじゃないですよ?」
 呂布は不思議に思い尋ねるが、李儒も首を傾げる。
「うーん、何でだろうねぇ? あの時はみんな必死になって消火活動とかしてたはずなのに、今考えるとおかしいんだよ」
「そう言えば、あの時消火に当たっていた人達って、誰一人見ませんでしたよ?」
「あ、やっぱり?」
 李儒は苦笑いする。
「まあ、そういう事だから諦めて。それより、急いでいるんじゃなかったかな?」
「そうですね。早く戻らないと、また張遼に怒られてしまいます」
「張遼?」
 李儒は眉を寄せる。
「張遼って言うと、もしかして君の同僚の事かな?」
「あ、そうです。張遼文遠。今頃は張遼も兵を集めて、反董卓連合に備えていると思いますよ」
「ふむ。張遼と言えば、曹操も高く評価していた人物だね」
「はい。文武両道にして冷静沈着、勇猛果敢でありながら緻密な戦略眼を持つ武将です」

 その頃、『男性募集』詐欺の犯人グループを捕らえていたのが、その張遼である。
「曹操は袁紹を牽制するため、袁術と手を組んだ。そうなると、曹操にとって最大の障害になるのは劉備、関羽、張飛の三兄弟。その中でも一番厄介なのは、やはり劉備かな」
 李儒はそう言うが、呂布は首を振る。
「劉備には、すでに劉表という後ろ盾があるでしょう? 荊州の太守、荊州刺史の劉表は劉備との仲も良いみたいだし、劉備の義弟でもある関羽、張飛とも親交が深い。もしここで劉備が反旗を翻したら、荊州の豪族たちが『男性募集』詐欺の被害者になってしまうかもしれませんよ」
「あ、それはあるかも」
 李儒は笑っている。
「となると、劉備は簡単には動かせない。むしろ警戒すべき相手は、関羽、張飛、それに呂布将軍と馬騰将軍くらいか」
「あの、李儒さん。俺の事も忘れないで下さいよ」
「ああ、ごめんごめん。君の場合、今は董卓軍の残党狩りで忙しいもんね。でも、君にもちゃんとした部下がいるんでしょ?」
「そりゃいますけど、董卓軍の残党狩りは終わったので、『男性募集』詐欺グループの残党を狩ろうとしてたところです」
「それじゃあ丁度いい。呂布将軍には、引き続きこの仕事を任せる事にするよ」
「え? 俺がですか? 俺よりもっと適任者がいたと思うんですけど」
「いやいや、君以外にいないよ。僕が推薦してあげるから、頑張って」
 李儒はそう言いながら、呂布の手を握る。
「いや、ちょっと待って下さい。俺、まだ引き受けた訳では……」
「ほら、急がないと。早くしないと、また董卓の残党に襲われるかもしれないよ」
「わ、わかりました」
 李儒に押されるように、呂布はその場を去る。

「さて、これで僕の役目は終わり。あとは上手くいく事を祈るだけだな」
 李儒は小さく呟く。
「李儒様」
 そこにやって来たのは、文官風の青年だった。
「これは荀爽殿ではありませんか。どうされました?」
「いえいえ、私は特に用事があったわけでもありません。たまたま通りかかっただけです」
「そうでしたか。それでしたら、お茶でもいかがですか? ちょうど一息入れようと思っていたところなので」
「いえいえ、お構いなく。これから私も急ぎますので」
「左様ですか? 残念ですね」
 李儒は特に気にする事もなく答える。
「ところで、先ほど呂布将軍とお会いしましたよ」
「呂布将軍と?」
「ええ。なんでも反董卓連合軍が『男性募集』詐欺グループを討伐しようとしているらしく、その準備をしているとか」
「なるほど。それは好都合」
「はい?」
「あ、何でもないですよ。こちらの話です」
 李儒は笑顔で誤魔化すと、荀爽に尋ねる。
「ところで荀爽殿、呂布将軍の事は何か分かりました?」
「呂布奉先ですか? 確か、西涼の出身で高順と言う武将と一緒に行動していたはずですが、その後は行方知れずだと聞いております」
「そうですか。ありがとうございます」
 李儒は礼を言うと、荀爽はその場を去って行く。
「……ふぅん。西涼の出身、ねぇ」
 李儒は一人、意味ありげに呟いた。

「えぇっ!? 呂布将軍って、そんな事やってたんすか?」
「うん。まあ、もう済んだ事だから。それより、張遼も大変だね。こんなに早く兵を集めてるってことは、袁紹軍と戦うつもりなんだろう?」
「はい。ですが、袁紹軍と当たるにしても、もう少し戦力を整えてからにしたかったのですが」
 張遼は溜息混じりに言う。
 袁紹軍は『男性募集』詐欺グループの討伐に兵を集めているらしい。
 張遼も董卓軍に加わっていたとは言え、あくまでも客将である。董卓亡き後、その庇護下にいる必要も無いのだが、呂布は張遼に対して協力する姿勢を見せている。董卓暗殺未遂事件の際に、張遼の機転によって救われた事もあった為、呂布としては張遼を見捨てる事は出来なかった。しかし、張遼は袁紹軍の動きを察知するなり、すぐに兵を率いて迎撃の準備を始めたのだ。
「張遼、俺はお前の実力を信じてるからな。袁紹軍が攻めてくるなら、返り討ちにしてくれよ」
 呂布は張遼に向かって言うが、張遼は困った様に眉を寄せていた。
「そう言う事では無いんですが……」
「え、違うのか?」
「はい。今回の場合、我々が動くより先に袁紹軍が動いたのが問題なんです。おそらく袁術と手を組んだ『男性募集』詐欺グループの仕業でしょう」
 張遼は苦々しげに言う。
「それって、つまり袁紹軍の狙いってのは『男性募集』詐欺グループが狙っている人物の身柄って事になるんじゃないのかな?」
「おそらく。それにしても、何故今になって動き出したのでしょうか?」
「やはり、黄巾賊の残党が絡んでいると見るべきじゃないか?」
「確かに。董卓軍の残党狩りは一区切りついたとは言っても、まだまだ残党は残っている。それに、俺達も董卓軍の残党狩りを行っていた訳だし」
「だとすると、この情報は曹操の耳に入れておいた方がいいかもな」
「そうですね。曹操であれば、すでに知っているかもしれませんが」
 呂布と張遼は、互いにうなずき合う。
「それじゃあ、俺達はそろそろ行きます。くれぐれも気をつけて下さい」
「ああ。そちらこそ、無理はしないように」
 呂布はそう言いながら、軽く手を振って見送る。
「呂布将軍、行ってしまわれましたか」
 そこへやって来たのは、丁原だった。
「ええ。相変わらず忙しそうな方ですよ」
「いやいや、天下無双の武将と謳われたお人です。忙しいくらいでなければ、釣り合いが取れぬというもの」
 丁原は嬉しそうに言う。
「それで、ご主人様はこれからどうされるので?」
「どう、と言うのは?」
「呂布将軍の様に、どこかへ仕官なさるのですか? それともこの辺りで旗揚げしてみるなど、いかがですか?」
「いえいえ、私の様な者では、とても」
「そうですか。私はてっきり、呂布将軍について行かれるものと思っていましたが」
「私がですか? とんでもない。私はこの城で、奥州藤原氏のミイラのように余生を過ごすつもりです」
「そうでしたか。まあ、将軍には将軍のお考えがあるのですね」
「もちろんですとも」
 呂布は笑顔で答えると、丁原は満足したように去って行った。

「さるお方の御命令により、これより『男性募集』詐欺グループのアジトを襲撃する」
「何だって!?」
「おい、急げ! 早くしないと逃げられちまうぞ!」
「待ってくれよー」
 突然、陳宮の指示で慌ただしく出陣の準備を始める兵士達を見て、呂布は驚いていた。
「あの、これは一体?」
「貴様の出る幕ではない。下がっていろ」
 陳宮は冷たく突き放すが、呂布は食い下がる。
「いや、でも何かあったんですよね? それは董卓軍残党とか、反董卓連合軍とかですか? だとしたら、俺にも何か出来る事があると思いますけど」
「董卓軍残党? そんな連中がいれば、我らの邪魔になるだけだ。だが安心しろ。今回は反董卓連合の方だ。まあ、こちらはゴキブリホイホイならぬ詐欺師ホイホイを用意してあるから心配するな」
「だとしても、その詐欺グループを潰せばいいだけなんじゃないんですか?」
「だから言っているだろう。我々の出る幕はない。我々は詐欺師を殲滅するだけで良い」
「それなら尚更、戦力は多い方が良いはず。もし袁紹軍が相手ならば、詐欺師どもにキン肉バスターを仕掛ける事になるかもしれないですし」
「……キン肉バスター?」
「はい。相手を逆さまに抱え上げて、股間を膝蹴りする必殺技です」
「いや、その説明は必要ないな」
「えっ!? 必要無い!?」
 呂布の説明を聞いて、陳宮は呆れ顔で言う。
「貴様のその無駄な正義感は評価に値するが、今の我々にとっての最優先事項は董卓軍残党を始末する事であって、詐欺師退治ではない。それに、袁紹軍が相手なら呂布奉先ではなく、華雄の方が適任だ」
「ガビーン!!」
「……何を落ち込んでいるのだ、こいつは」
 陳宮は不思議そうにしている。
「しかし、本当に袁紹が攻めてくるのか?」
 丁原は疑問を口にする。
「可能性は高いと思われます。『男性募集』詐欺グループは袁紹軍の目を欺く為にも、大々的に宣伝しているでしょう。それなのに、いつまでも動かない袁紹軍に業を煮やした可能性があります。もしくは、すでに袁紹軍に情報が漏れていて、それを口実にこちらに攻め入るつもりかもしれませんが」
「なに、袁紹が?」
「おそらく。おそらくですが、袁術軍はこの動きに合わせて『男性募集』詐欺グループ討伐の兵を上げるかもしれません」
「ふむ。だとすると、この動きは罠と言う事か」
「はい。ただ、我々も迂闊に手を出す事は出来ません。まずは呂布殿と合流し、共に行動すべきかと」
「そうだな。よし、すぐに呂布将軍の所へ向かうぞ」
 丁原と張遼は急ぎ準備を整え、呂布の元へ駆けつけようとする。
「ご主人様!」
 そこへやって来たのは、丁原の従者である李儒だった。
「どうした、李儒。まさか呂布将軍が危ない状況なのか?」
「呂布将軍が『男性募集』詐欺グループに襲われている、という報告が入っています」
「何だと? 何故そんな事に?」
「どうやら、曹操の耳に入れた方が良いと思った情報を知らせたところ、呂布将軍はそれを丁原様にお伝えしようとしたのですが、丁原様はその情報を信じず呂布将軍を連れて行こうとしたので、呂布将軍も同行する事にしたようです」
「……」
 丁原も陳宮も、言葉を失っていた。
「それでは、私は呂布将軍達を助けに行ってまいります」
「いや、待て。李儒、お前も一緒に来てくれ」
「ご主人様?」
「呂布将軍が襲われているというのであれば、私も行った方がいいだろう」
「いえ、ご主人様のお手を煩わせる様な事では無いと思いますが」
「では、呂布将軍の手助けをして、この恩を売りつけるのも良いではないか」
「ああ、なるほど」

 その頃、『男性募集』詐欺グループのリーダー、張曼成は焦っていた。
「ど、どういう事だ! 何故、呂布が来るんだ!」
「落ち着いて下さい、リーダー! 呂布と言えば天下無双の武将。こんな事もあろうかと、こちらには人質がいるではありませんか!」
「そ、そうだった! おい、そこの女! 死にたくなければ大人しくしていろ!」
 張曼成は女性を一人捕まえると、首筋に剣を当てて脅す。
「うわーん! 殺されるー!」
 女性はわざとらしく泣き叫ぶ。
「馬鹿野郎! もっと声を色っぽくしろよ!」
「す、すいやせん、兄貴!」
「まあいい。これであの男は手出し出来ないはずだ。今のうちに逃げるぞ」
「へい」
 その時、突然扉が開かれ一人の男が入ってくる。
「待てい!!」
「誰だ!?」
 突然現れた真っ赤な六尺ふんどし一丁という潔い姿の大男に、詐欺グループのメンバーたちは度肝を抜かれた。言わずと知れた呂布奉先である。
「天に代わって悪を討つ、正義の味方。人呼んで、流星の……」
「邪魔だ、帰れ」
 陳宮は冷たく言う。
「ちょっと、最後まで言わせてくださいよ」
「そんなもの聞いている暇など無い」
 呂布は無視されたまま、部屋の中央まで進み出る。
「さて、悪党ども。この俺が来たからにはもう観念しろ。俺の名は呂布。泣く子も黙る呂布奉先とは俺の事。命の惜しく無い奴からかかってこい!」
「呂布だと!?」
「馬鹿な、どうしてここに!?」
「早く逃げろ!」
 張曼成とその弟分達は慌てて逃げ出すが、陳宮の策によってすでに出口は塞がれていた。
「フッ、貴様らの悪事もここまでだ」
 陳宮は余裕たっぷりで、高笑いしながら言う。
「ひぃっ!」
 陳宮の姿を見た瞬間、詐欺グループの連中は悲鳴を上げて腰を抜かした。
「……何ですか、その反応?」
 陳宮も予想外だったのか、眉間にシワを寄せている。
「こ、これは董卓軍四天王の一人、陳宮公台将軍! なぜ、このような所に?」
「いや、俺は董卓軍じゃないし」
「呂布将軍、あなたはこの場を動かないでいただきたい。この者達は全て私が責任を持って始末しますので」
「始末って、殺すんですか?」
「当然でしょう」
「でも、それじゃあ強盗とかと同じですよね?」
「呂布将軍。この者共は詐欺と言う大罪を犯した極悪人。情けをかけてはなりません。むしろこの場で首を跳ねて、見せしめとするべきです」
「いや、まずは逮捕しよう。三国志警察として、この詐欺師たちを野放しにするわけにはいかない」
「え? 呂布さん、三国志警察の人だったんですか? それは初耳ですけど」
「いや、だから違うんだけど」
「では、呂布将軍が犯罪者を捕まえてくれるのですね。では、お願い致します」
「ああ、任せておけ」
 呂布はそう言って詐欺グループの前に立ち、剣を抜いて構える。
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 俺たちは何も悪い事はしていないぞ! ただ『男性募集』しているだけだ!」
 詐欺グループのリーダーである張曼成は必死になって訴える。
「お前らはただ『男性募集』と触れ回っていただけだろう? それだけならまだしも、お前らはそれを袁紹軍の耳に入れようとしただろう? それが犯罪行為なんだぞ」
「いや、でも、それを言ったのは弟の方であって、俺ではない」
「言い訳無用。悪事千里を走る、と言う言葉を知らないのか」
 呂布がそう言うと、陳宮が一歩前に出る。
「ご主人様、ここは私に任せて下さい」
「大丈夫なのか?」
「ご心配なく」
 陳宮は自信満々でうさぎの糞を詐欺グループのメンバーたちに投げつける。
「うわっ! 汚ねぇ!」
「気をつけろ! 目に入った!」
「ちくしょう! 目に染みる!」
「うわぁ、俺にもかかった!」
「ふざけんな! なんて事してくれんだよ!」 
「あああああ、畜生! 目が痛くて開けられない!」
「おい、誰か何とかしろよ!」
「ああ、クソ! 見えない!」
「ちょっと待て、お前! お前だよ! お前!」
「ああ、もう! うるせぇ! 見えなくて分からないんだ」
 呂布と陳宮はその隙をついて、『男性募集』詐欺グループを逮捕した。

 こうして、華北で猛威を振るった(?)『男性募集』詐欺グループたちは鎮圧された。
「さすがは呂布将軍。見事な手際でした」
「いや、それほどでもないさ」
 陳宮に褒められて、呂布は鼻の下を伸ばしている。
「それにしても、まさかこんな所で陳宮殿に会えるとは思ってもみませんでしたよ」
「まったく、私は会いたくなかったのだがな」
 陳宮は苦々しく言う。
「しかし、陳宮殿は何故ここに?」
「徐州で曹操殿と会談があったのでな。その時、曹操殿から呂布将軍の事を聞いたのだ。呂布将軍は天下無双の武将であるにも関わらず、漢の忠臣でもある人物だと。この度の戦では多くの者が呂布将軍を頼っている事も。もし呂布将軍に会う機会があれば、是非とも助けて欲しいと言われていたので、その申し出を受ける事にしたまでだ」
「なるほど。それで俺を助けてくれたんですね」
「まあ、そういう事になるな」
 陳宮は渋々と認める。
「ところで陳宮、呂布将軍とはどういう関係なのだ?」
 李儒は興味深げに尋ねる。
「陳宮は以前、董卓軍に所属していた時に同じ軍師だったんですよ」
「え? そうなのですか? 陳宮と言えば董卓軍四天王の一人で、あの『反董卓連合』戦でも活躍した軍師の一人では無いですか。その軍師が同じ軍にいたのですか?」
「いや、俺は四天王じゃないし」
「四天王は他に賈詡と王允がいるのですが、二人とも董卓軍から追われた身なので、今は董卓軍にはいません。そして俺は董卓軍から追い出されました」
「そう言えば、呂布将軍は董卓軍にいながら一度も戦場に出たことが無かったとか」
「え? そうだっけ?」
「呂布将軍。あなたは董卓軍の面子を潰すような事を何度もしてきたでしょう?」
「そんな事あったっけ?」
「例えば、黄巾の乱の時に袁術の所に援軍に行った時とか、魏続が反乱を起こした時に真っ先に討伐に向かったのは呂布将軍だったとか、侯成が呂布将軍の身代わりになって死んだとか」
 すると、やはり董卓軍の残党が『男性募集』詐欺グループの黒幕だったらしく、張曼成とその弟分達は詐欺グループの一味として逮捕された。
 これで『男性募集』詐欺は解決したが、この詐欺グループの資金源になっていた人夫派遣業の方は張曼成の弟分の郭図が勝手にやっていた事であり、張曼成本人は知らなかったらしい。郭図は詐欺グループと一緒に捕まったが、その罪は重い。
 呂布としては、張曼成には同情する。
 張曼成は陳宮を見るなり震え上がっていたので、呂布が代わりに話を聞く事になった。
「張曼成。お前には聞きたい事がある」
「は、はいぃっ!」
 張曼成は怯えきっている。
「お前はこの辺り一帯で『男性募集』をしていたようだが、お前は何のために『男性募集』をしているのだ? 金のためか?」
「いえ、違います! 俺達の目的はただ一つ! 女不足の解消です」
「女不足? 何の事だ?」
「俺達のグループは『男性募集』をする事で、女性との接点を作っています。そうする事で女性との縁を作る事が出来るだけでなく、仕事にありつく為に必要な人脈を広げる事が出来、より働き口を見つける事が可能になるのです。また、それによって結婚相手を見つけやすくします」
「……ふむ」
 陳宮は納得していないようだったが、とりあえず相槌を打つ。
「それに、男だけの集団ではどうしても異性に対する欲望が生まれてしまい、それを抑える事が困難になります。そこで、こうして男女の出会いの場を作り、お互いの同意を得た上で性欲を解消する場を提供すれば、それはお互いに良い影響を与える事となるはずなんです」
「ほう、なかなか興味深い考え方だな」
 陳宮は感心している。
「だが、お前らには詐欺という大犯罪を犯しているではないか」
「そ、そこなんです! 俺達が訴えられたら負けるのは分かってるんで、何とか穏便にして頂きたく!」
「お前らはそれで良くても、被害者はどうなるのだ? 騙された方はたまったものじゃないだろう」
「確かに被害に遭った男性たちの中には、その事で怒りを募らせている者もいる事は承知しています。しかし、それでも俺達はこうしなければ生きていく事が出来ないのです。どうかご理解を」
「陳宮、どう思う?」
 呂布は陳宮に尋ねる。
「私は詐欺などと言う下衆な行為を許すつもりはない。逮捕するしかないな」
 陳宮は冷たく言い放つ。
「いや、待って下さいよ。ここは寛大な処置とやらをお願い出来ませんか? こう見えて俺達は地元では顔役なんで、ここで俺達に死なれると困るんですよ」
「黙れ。犯罪者の都合などで考慮してやる義理は無い」
「そこをなんとか」
「黙れと言っている」
「……はい」
 張曼成は陳宮の迫力に押されて、それ以上何も言えなかった。
「陳宮、ちょっと厳しすぎないか?」
「いいえ、まだまだ甘いくらいですよ。こんな者達は極刑に処すべきなんです」
 呂布は陳宮に尋ねるが、陳宮の答えは冷たいものだった。
「まあ、陳宮の言う事も一理ある。張曼成、あんたには悪いが俺も陳宮殿の意見に賛成なんだ」
 こうして、『男性募集』詐欺グループたちは全員逮捕となった。

『反董卓連合』との戦いも終わり、呂布軍は解散する事になった。
 もちろん、呂布自身は引き続き徐州城に留まる事になるのだが、他の武将達はそれぞれ自分の領地に戻る事になる。
 まずは劉備と関羽と張飛。
「呂布将軍、私達は徐州のお世話になる事にしました」
「え? そうなんだ。でも、曹操殿は許してくれるかな?」
「大丈夫です。孟徳はきっと喜んでくれますから」
 劉備の言葉は確信を持って言えるようで、呂布は不思議だった。
「俺のところは、徐州じゃなくて益州だけどね」
「徐州は広いからなぁ」
 劉備は苦笑いしながら張飛に向かって言う。
「兄者、そんな事を言ったら益州の皆さんに失礼だぞ」
 関羽は相変わらずである。
「呂布将軍。俺はもう将軍じゃないんだけど」
「将軍は将軍だから、将軍なのだよ」
 張遼はいつも通りだが、やはり少し違和感がある。
「徐州は広く豊かだし、呂布将軍の武勇があれば誰も文句は言わないさ。何より美人が多いらしいぜ」
 高順は楽しそうである。
「お前達、遊びに行くんじゃ無いんだぞ」
 徐栄が呆れたように言う。
「そうそう、お前達は呂布将軍の軍師として、呂布将軍の手足となって働くんだよ。遊んでいる暇なんか無いんだろうねぇ」
 李粛も相変わらずである。
「それでは呂布将軍、お元気で」
「ああ、みんなも気をつけて」
 呂布は皆を見送ると、徐州城内に入る。そこには華雄がいた。
「ようこそ、徐州へ」
 華雄は頭を下げる。
「華雄将軍、これからよろしく頼む」
「こちらこそ、よろしくお願い致します」
 呂布は改めて、自分がいかに頼りなく、周りに助けられていたのかを思い知った。
「呂布将軍、どうかなさいましたか?」
「いや、何でも無い。それより、何か用があったのではないのですか?」
「いえ、特にこれと言った用事ではありませんが、呂布将軍がこの城を出られる前に一度ゆっくり話したいと思っていましたので」
「そう言えば、華雄将軍とはこうしてゆっくりと話す機会がありませんでしたね」
「はい。私にとって、あなたとの出会いは本当に大きな転機となりました。その事は、とても感謝しています」
「いや、それは俺の方ですよ。俺の方が、助けられてばかりだったんですから」
「そんな事はありませんよ。私が今、こうやってここにいる事が出来るのは呂布将軍のおかげです」
「……それは、俺も同じですよ」
 呂布は微笑む。

『三国志警察24時』(完結)

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