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【ショートコント100】1→10

1.死に際

バキューン!!

ビルの屋上に銃声が鳴り響いた。
血の噴き出す腹を抑え、一人の刑事が仰向けに倒れている。
「ちくしょう…やられちまった…俺もあと数分の命か……いつ死んでもいいと思ってこの仕事やってきたが、今思い返すと、やってみたい事、まだまだあったなあ…くそ…」
刑事はよろよろと立ち上がり、命からがら階段を降りていく。

10分後、原宿の竹下通りにて。
クリスマスツリー用の電飾を身体に巻き付けてタピオカミルクティーを飲みスケボーで走る男が現れた。

「人生サイコー!!!!!」


2.兄の不倫

「あの、お兄さん!私は別にね、あなたを殴ろうとか、そういう事で来てるんじゃないんですよ!話をしようって言ってるんです!出て来てくれないですかね?

うちの妻もね、何も答えてくれないんですよ。私はただ事実を知りたいだけなんです。その事実によって私も対応を考えないといけない」



兄が人妻と不倫をしていたのだそうだ。

それが向こうの夫にバレた様で、その夫が毎日うちにやって来る事になった。今日も兄の部屋の前で正座をし、懲りずに延々語りかけている。

「毎日毎日ご苦労さんです」

「あ、弟さん。お兄さんは私が来てない時もずっとこの部屋に閉じ籠もっているんですか?」

「そうですね。結構精神的に病んじゃってるみたいで」

「それはいけない!お兄さん!あなたの為にも出てくるべきです!全部話して楽になりましょう」

…………………………

兄の部屋からは何の返答もない。

「今日はカルボナーラで試してみますか?」

「…あの、本当にそんな、動物おびき出すみたいな方法で上手くいくんですかね?」

「大丈夫ですよ。兄はカルボナーラが大好物なんです」

「じゃあ、分かりました」

10分後。

「お兄さん!あなたの好きなカルボナーラを作りましたよ!どうか出て来て下さい!きっと美味しいですよ、是非召し上がって下さい!」

…………………………

「駄目みたいですね」

「結局駄目なんじゃないですか!なんなんですか!昨日はビーフシチュー、一昨日はおでん、その前はたこ焼きだって言って、私たこ焼き機までわざわざ買って来ましたよね!?できたてじゃないと駄目だって言うから!」

「そんなに大きな声出さないで、兄が怯えちゃいますよ。まあそのカルボナーラはせっかく作って頂いたんだ、責任持って僕が食べましょう」

「分かりました。…そういえば、昨日までキッチンに置いてあったたこ焼き機は何処に行ったんです?」

「ああ、あれね。あれから何回か使ったんですけど、やっぱ銀だこの方が旨いなと思って、メルカリで売っちゃいましたよ」

「なんで売っちゃうんですか!お兄さんを誘い出す為の道具でしょう?それに私が買った物だ!」

「ほらまた大きい声出す〜。兄は大きい声出す人が恐いんですから、静かにして下さいよ」

「ああ、すいません…」

「あ、そういえば兄貴、Netflix登録したいって言ってたな!」

「Netflix?」

「でもうちはリビングにしかテレビないから、Netflix登録したら絶対出てきますよ!」

「わ、私が毎月お金払うんですか!?」

「そうなっちゃいますね〜」

「もう…分かりましたよ!テレビで観るんですよね、この家Fire TV Stickはあるんですか?」

「無いですね。因みにWi-Fiも通ってないです」

「じゃあ私がFire TV Stickも買って、Wi-Fiも繋げって言うんですか!?」

「そうなっちゃいますね〜」


3.ゼリー

あーははははー!ついに買ってしまったぞー!

ふってふってゼリー!!

これを30回振ると中のゼリーがちょうど良く崩れて飲めるゼリーになるらしいぞ。これは楽しみだ。

中学時代の修学旅行もめちゃくちゃ楽しみだったが、これはもしかするとそれを凌駕する楽しみかも知れん。


さあ振るぞー!!

いちにーさんしーよんしーごーななはちきゅーじゅー、じゅーご、じゅうはち、ごーよんさんにー、いちにー、にじゅうごー、にじゅうごー、にじゅうごー、にじゅうごー、ななはちきゅー、いちにーさんー、じゅういち、じゅうに、じゅうさん、ろくななろくはちろくきゅう、じゅういち、じゅうに、じゅうさん、ななはちきゅー、にじゅうごー、にじゅうごー、にじゅうごー、にじゅうごー、にじゅうごー、にじゅうごー、にじゅうごー、にじゅうごー、にじゅうごー、にじゅうごー、、


全然飲めねえじゃねえか!!!!!!!!


全然飲めねえぞ!どうなってんだこれ!


あ!ひこーき!!!!(ゼリーを捨てて空に手を振る)


4.中島

おーい!磯野ー!



なんだー、中島かー。



おい、磯野、あの花、枯れたってよ…



………そっか。


5.診察室にて

今日はどうされました?
はい、頭痛が酷い?倦怠感やら微熱もあるような無いような。
まあ病気かどうかは分からないけども、とりあえず来てみたと。
ちなみに頭痛はいつからですか?
はいはい、ビッグホーンと頭突きの喧嘩してからと。
ああ病気ですねえ。
はい、思ってたのと違かったけど、思ってたよりも病気でした。
自分の身体大切にして下さいね。この社会で生きていく上で動物と決闘する必要無いですから。あとなんで相手の戦い方に合わせちゃうんですか。
そうですねえ、じゃあお薬出しましょう。
うちにある刺激の強い薬トップ15全部出すんで、朝昼晩ブラックニッカで流し込んで下さい。
一回脳をぶち壊しましょう。
そっからまた日本の教育を受け直してもらって、再構築するって感じで。はい、じゃあこれ持って隣の薬局行って来て。


6.お見合い

お見合いなんて、全然乗り気じゃなかった。
大体僕は友達とだって目を見て話す事ができないのに、知らない女の人と二人で会って、あわよくば結婚しろだなんて…

「あ、あの…」お見合い相手の大林さんが口を開いた。

「は、はい!」

「実は私…こういうの凄い苦手で…その…お母さんが勝手に…」

「あ……そうだったんですね」

「あ、違うんです!このお見合いに乗り気じゃないとかじゃなくて、その、人見知りで…」

「いや、分かります。僕もです。人の目見て喋れないし、でもそういうの分かってくれる人は少ないから、失礼な奴って思われてるんだろうなとか、勝手に被害妄想して、それでもっと苦しくなって…すいませんよく分かんないですよね」

「…分かります。凄い分かります。小島さんもそういう人なら安心しました。似た者同士なら、弱いところも見せ合える様な気がします」

「え…」

終始俯いて話していたけれど、その一瞬顔を上げると大林さんも同じ瞬間顔を上げていて、目が合った。

「あ、すいません!」焦って目を逸らす僕。

「え、なんで謝るんですか」

「いや、その…」

「…………」

「…………」

「…あの、よかったら、仲良くなりたいです」

「ぼ、僕もです…大林さんなら…仲良くなれそうかもって…」

「その大林さんって、辞めませんか?」

「え?」

「私聞いた事あるんです。さん付けで呼んでるといつまでも距離が縮まらないから、早いうちからあだ名とか付けるといいって」

「そうなんですね。でも、あだ名ってどういうところから考えるんですかね」

「そっか、まずはお互いの特徴を知らないと。えっと、じゃあ、何か趣味とかありますか?」

「趣味は…映画鑑賞ですかね」

「私も映画好きです。じゃあ、一番最近観たのは?」



一年後、真夏のビーチで僕は白いワンピースの彼女を追いかけていた。


「ねえ、つかまえて!」

「待ってよー!」

「もっと早く!じゃないと私いなくなっちゃうよ!」

「待ってってば〜!」

「つかまえて!小島桐島部活辞めるってよ!」

「待てよー!大林アウトレイジ最終章ー!」

「ねえ!お父様がね!小島桐島部活辞めるってよなら結婚認めてくれるってよ!」

「え!本当かい!?ついに僕達夫婦になれるんだね!僕達の新章が始まるんだよ大林アウトレイジ最終章!」

「好きよ!小島桐島部活辞めるってよー!」

「僕だって大林アウトレイジ最終章が大好きだー!」


7.ナンバーズ

真っ暗な部屋に独り立ち尽くし、窓から差し込む月明かりで、俺は手紙を読み始める。


「お前がこの手紙を読んでいるという事は、私はもうこの世にはいないという事だな。事態は最悪に向かっている。

7人のナンバーズを集めるのだ。きっと彼等はお前と共に戦ってくれる。そしてお前だけに抜く事を許された伝説の剣で、魔王にとどめを刺すのだ。

それでは、健闘を祈る。こんな宿命をお前に背負わせてしまって本当にすまない」


俺は今夜、父の書斎で偶々この手紙を見つけた。まさか俺の知らない内に、こんな手紙を書いていたなんて…

俺は書斎を出て、廊下を渡り、リビングのドアを開ける。


「ねえ親父、7人のナンバーズってなに?」


「なんでまだ生きてる時に見つけちゃうの!」


8.続く

とあるビル、廊下の突き当たり。
話している男と、それをメモしている男。

「結構女優さんが男性器の事、おちんちんって言うじゃん。でも、これ俺だけかな?俺が実際出会ってきた女性達は結構もう、ちんこ!って、結構はっきり言うのよ。
だからもうその時点でリアルじゃなくて冷めんのね。でも!でも!今どきの女優さん皆可愛いから、そりゃあんな可愛い子達が、カメラ目線でおちんちん!って言ってたら興奮する自分もいるんですよ。これが二律背反という言葉の意味かと!俺は、初めて思ったのね、その時に俺は。間違ってるかもしれないけど」

5分前

汗だくで走ってくる男と、その男を追って来た男。
「くそっ!行き止まりか!」
「観念しろ、何処に行っても無駄だ。このペン型スイッチを押せば、お前の首に埋め込まれた爆弾は爆発する」
「ちくしょう…」
「お前に、俺の趣味を教えてやろうか?」
「趣味?」
「ああ、俺は、俺に殺される奴が泣き叫びながら最後になんて言うのかが毎回楽しみでね。その最後の言葉をメモするのが好きなのさ」
「サイコ野郎…!」
「家族への愛を叫ぶ奴もいれば、必死に命乞いする奴もいるよ。さあ、お前の最後の言葉を聞かせてくれ」
「あのこれ、この前AV見てる時に思った事なんだけど…」

5年後

「でも!ちんちんだと馬鹿過ぎるの!流石にそこまでいくと興醒めで、エロにもちょうどのバランスってあって」
「おいやめろお!!!!!」
「えっ……」
「………12時だ、昼休憩入れるぞ」
「ああ、今日は富士そばにするか」
「もう飽きた」


9.内見

客「結構綺麗な家ですね〜」
不動産屋「ここはおすすめですよ。1L3DKですから」
客「ほぼ厨房じゃないですか」


10.ナンバーズ 完

あの手紙を見つけてから一年後、親父はやっぱりちゃんと他界した。

俺は待ってましたと言わんばかりに旅に出て7人のナンバーズを味方につけ、魔王との戦いに挑んだ。

本来なら親父の死後に手紙を見つけ「なんでこんなものを書き残したんだよ!7人のナンバーズってなんだよ!伝説の剣ってなんだよ!教えてくれよ、親父ーー!!」みたいに翻弄しながら旅に出る筈だったのであろうが、その辺りの謎は生前強引に聞き出していたので、何事もスムーズに進んだ。

道すがら、攻略本読みながらドラクエやってた幼少期の気持ちが何度もフラッシュバックした。
そしてついに俺は、魔王の心臓に伝説の剣を突き刺してやったのだ。


魔王は倒れ…

「これで終わりだと思うな。俺はお前も、お前の一族も、全てを呪ってやる。俺が死んでも俺の呪いの力は生き続ける…

そして俺とお前の戦いは、お前の息子や孫、何代にも渡り続いていくのだ…
最後に勝つのは…この魔王である事を忘れるな…」
そう言い残し消滅した。


「魔王のやつ、最後になにやら妙な事を言っていたな」

「きっと脅しで言っただけさ。だって魔王は死んだじゃないか。それなのに今更何ができるって言うんだ!なあ勇者、お前もそう思うよな!?」

「ああ…そうだな…」その直後、俺の携帯電話に着信があった。「もしもし、お母さんか。どうしたの…?え、ラッキーが……」

「何かあったのか?ラッキーってなんだ?」

「勇者が実家で飼ってる犬の名前だよ…」

「ラッキーが………子供生んだの!?イェイ!!」

俺はナンバーズ達と飛び跳ねてガッツポーズをした。

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