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共同経営者が辞めるときに、残る側が知っておくべきこと

顧問弁護士がどのように企業をサポートしているか知っていただくため、スタートアップ・ベンチャーでよく見られるさまざまな悩みに対して、法的見解と「企業側」が注意すべきことを解説します。今回のテーマは「共同経営者が辞めるとき」です。

共同経営者が辞める時によくあるトラブルとは?

Apple、Google、Microsoftなど、世界の名だたる企業をみても、チームで共同創業し成功している事例は枚挙に暇がありません。他方で、当初の共同経営者が、例えば会社が上場するまで会社に残り続けるといった保証はどこにもありません。

例えば、事業についての考え方の違いや会社のフェーズごとに求められる適性、あるいは家庭の事情や病気等による本人の健康状態など、創業後に生じるさまざまな事情によって、共同経営者が会社を離れざるを得ない場合があります。

このように、共同経営者が会社を辞めることとなった場合には、会社の株式その他持分の散逸、知的財産権やノウハウの流出、社員の引き抜き、競合する事業の開始など、さまざまな問題が生じます。引き続き会社に残るメンバーや会社にとって、このような共同経営者が会社を辞める場合への備えの重要性は明らかでしょう。

その中でも特に問題になりやすく、また重要性が高いのは持分の問題、多くのケースでは株式の問題です。

共同経営者が株式を一定保有しながら辞める時の注意点

会社を創業するときに、共同経営者が株式を一定割合保有していることは珍しくありません。

特にスタートアップで「創業当初から十分な利益が出ていて役員報酬や配当で還元される」というケースはまれです。多くの場合、IPOやM&Aといった機会にキャピタルゲイン(保有する株式を売却して利益を得ること)によって、経済的なリターンを期待します。

また、通常、株主は議決権を有しており、会社の重要な意思決定に関与する権限を有します。そして、一定割合の株式を保有する共同創業者が、その株式を保有したまま会社を辞めた場合、さまざまな問題が生じ得ます。

具体的には、次のような問題です。

  • 連絡が取りづらくなって意思決定のスピードが落ちる可能性があること

  • 保有割合に応じて、さまざまな株主総会決議が否決されてしまう可能性があること(株式を3分の1超を保有していれば特別決議を否決でき、2分の1以上を保有していれば普通決議を否決できます)

  • そのほか、株主の地位に基づいて取締役会議事録閲覧謄写請求権や会計帳簿閲覧請求権などが行使されたり、株主総会決議の招集通知やその添付資料によって、会社の経営に関する一定の情報が取得されてしまう可能性があること

  • さらに、共同創業者が不幸にも亡くなってしまった場合には、相続人が株式を保有することとなり、会社の事情を知らない者が会社運営に関与するようになること

  • 会社を辞めたあとに企業価値向上の恩恵を株価の上昇を通じて享受し続けることで、残存メンバーのモチベ―ションを損なうこと

残った側はもちろん会社経営を継続していく必要がありますので、こうした問題について対処していく必要があります。

解決に役立つのは「創業者株主間契約」

共同経営者が株式を保有したまま会社を辞める場合の解決策には、議決権の有無に関する種類株式を発行したり、(お亡くなりになった場合の備えとして)相続人に対する株式の売渡請求を設定したりする方法などがありますが、実務的には「創業者株主間契約」という契約の利用が進んでいます。

創業者株主間契約とは?

紙幅の関係上、創業者株主間契約の各条項についての詳細説明まではできませんが、例えば以下のような内容が含まれています。

①役員、顧問及び従業員の地位をいずれも喪失した場合や契約違反があった場合、その他一定の場合に、会社に残る他の契約当事者の請求により、保有する株式の全部又は一部を指定された者に譲渡すべきこと

② ①の場合の譲渡価額又はその決定方法

③ 相続が発生した場合に、会社に残る他の契約当事者が相続人に対して①と同様の請求ができること

④ 譲渡手続きへの協力義務

⑤ 引き続き株式を保有できることとする条件やその割合(「べスティング」と呼ばれます)

⑥ べスティングが機能した場合にも、M&Aの際に買収先に株式譲渡等することを、会社に残る他の契約当事者が請求できること(「ドラッグ・アロング」と呼ばれます)

⑦ べスティングが機能した場合に、会社に残る他の契約当事者に対して、株主総会の議決権行使を委任すること

⑧ 秘密保持義務

⑨ 競業避止義務

各条項の詳細や設計する際の工夫については、また改めて取り上げてみたいと思います。

創業者株主間契約を締結すべきタイミングは?

この創業者株主間契約書を締結すべきタイミングは、やはり、創業時が望ましいです。

なぜなら、関係性が良好な間の方が比較的円滑に締結できるためです。さらに、事業の進捗によって企業価値が向上すると譲渡価額などの条件交渉が難しくなってくる可能性も考えられます。

加えて、ベンチャーキャピタルなどからの出資を受けた後のタイミングになると、その承諾が必要になるという理由もあります。

創業者株主間契約を用いる場合の注意点

実際に創業者株主間を用いて株式譲渡を請求する場合にも注意点があります。

具体的には、

  • 譲り受けるのが当該会社か他の法人かあるいは個人かで生じる税負担の内容が大きく異なってきます。

  • 当該会社が買い取る際には、自己株式取得にかかる手続きや財源規制の要件等の確認が必須となります。

そのため、創業者株主間契約書は作成及び締結のタイミングだけでなく、運用の場面においても弁護士や税理など各専門家との連携が不可欠でしょう。

以上

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西尾公伸 / Authense法律事務所 Managing Director

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