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madainai
【歌集】桜の枝をへし折って
全10回の歌会で詠まれた、2505首の中から100首を厳選しました。
短歌が好きな方も、馴染みのない方も楽しんでいただけたらと思います。
楽しみは独り占めしちゃいけないから 地球は周り 季節も巡る
美空…
春
膨らんでいくのが楽しくそのまんま弾けた蕾のような初恋
そよ風に君がウインクした4月感じたことない 想いが走った
雑草が幅を利かせる空き地では蕾の私が1番かわいい
山手線 本当は9番線だけど君といたくて 11番線
まずは、そう 桜の枝をへし折って無言で手渡し これが愛なの
この風は春風と呼ぶ 君がいた季節を延ばす権限がある
夜桜が 儚く散りゆく 午前2時そっと掬って 君に渡した
夏
あの夏に 父に連れられ来た浜で 見つけてはしゃいだ なぞのかいがら
スイカ割り ふらふら歩く 君の姿 ゆらゆら揺れる 僕の心が
好きだよが入道雲に吸い込まれセミも鳴かない8月の午後
歩を止めて 2人見上げる 天の川 ひとつになって 流されていく
人の願いを託される星たちは そんなの知らず燃え尽きていく
縁日で君が齧ったりんご飴みたいに欠けた月を見ている
「好きだよ」の飴で作った綿菓子を君に渡さず食べきっちゃった
夏に死があるならいつか 吹く風に「秋もいいな」と言われた日かな
秋
この匂いが好きなんだ 盲目の翁は匂いで本を呑むという
茜さす 九月の夕焼け その筋は やがて僕らが 行く道標
マスクの下 無音の告白衝動を 流行り病と言ってくれるな
いつもより 傾いている オレンジに 今日はビールでも 買ってこうかな
月の裏は見えないんだよと君が言う それなら君も月みたいだね
満ちた月はこれ以上満たされないのだと 余白の無さが醜く思えた
告白の砕けた塵から目を逸らし逃げた1号車にも秋が来る
冬
くたびれたスーツを纏った憂鬱を動かすビル風今日は立冬
全人類平等に雪も降る 冷たい雨よりほんのり優しい
屋根 君に一番近いこの場所で君が落とした埃を拾った
涼しげな 夜風を纏う 黒髪が やけに眩しい 澄んだ星空
初詣 並ぶ学徒に 梅の香を運ぶ風吹く 冬の太宰府
マフラーが隠した君の口元は どんな言葉を紡いでいたの?
粉雪が 君の頭に 積もるから 君に触れてる 雪に嫉妬する
僕の初恋を見届けた雪だるま 春が来たから溶けてしまった
友達初恋人行
友達発恋人行のこの列車 特急よりも各停がいい
メトロノームは200
透き通るような光が僕の眼に入った時から君に堕ちてて。
家庭科の授業で糸を通せない助けてくれたあの女の子
電波より思いの方が早いらしい 好きの二文字を送れずに消す
放課後に 校庭へ届く旋律は ドリブルコースを楽譜に変えた
君の前心の糸が張りつめた分だけ綺麗な音が出たらな
「さよなら」が1兆字ならこの時が永遠になる下駄箱の前
好きだよと一言つぶやくだけなのにメトロノームは200を刻む
エジソンがこの声の震えや心臓の鼓動まで届けようとしなくてよかった
テレパシーで会話ができる未来でもあなたの前で乾く口腔
乾き切る口で伝えた好きですは君に潤いを与えただろうか
アイスクリン
鼻息の匂いを感じたこの距離は母以来だと十七の夜
好意さえ伝えられないこの舌を 君の口に滑り込ませる
路地裏に潜んで夜明けを待つことも恋と呼ぶならそれはうれしい
毒入りと 食べる前から 分かってた 夢の中で 君を待つしらゆき
アイスクリン 食べてそのまま キスをした 期限付きの愛 蝉の賛美歌
死ぬ前の その一瞬まで ぼくと居て ぼくの死顔を 写真に撮ってよ
運命論信じる君は流れてる桃以外の物全て見逃す
あまつゆのイルミネーション
胸躍る 昂り抑え あなた待ち 時計の針が遅く見える
あまつゆの イルミネーション 名もなき花 待つってこんなに 楽しいんだね
「今着いたとこ」と微笑んで言う 詐欺師の指先は赤く染って
北風に飛ばされないよう掴むから仕方ないでしょ! 恋人繋ぎ
音を奪い街を真白に染めた空が「あとはうまくやれよ」と微笑む
目の前に広がる夜景の片隅に 一歩下がって君を含める
今ここで僕が君を抱きしめれば電球たちは背景になる
土曜日は毎週あなたに会えるから青から赤に文字が変わるの。
甘いものは別腹と言い続けた君の身体に出来た小宇宙
背伸びしてブラックなんて頼むから 知ってて頼んだパフェを差し出す
水槽が 小さいとこだけ 回りたい あなたとの距離 近くなるから
香水が しっかり香る この近さ 他の子には 教えちゃダメだよ
灯り消え バレないように キスをした 震える君と 計画停電
5年間 隠し続けた この思い 夢の中なら 全部言えるよ
デカ近鉄 太JR 長メトロ ダサ新幹線 ほろ苦阪急
二次創作はお好きにどうぞ
やっと君が笑った時に鈍い音を立てて止まった通勤快速
世紀末 電話をかけても誰も出ず暗闇だけが僕に寄り添う
最初の日と同じ笑顔をするために コーヒーの底に「またね」を沈める
画面向き「よく歌ったんだ」微笑んだ君の真隣に恋慕の残像
打ち切りの君と私の物語 二次創作はお好きにどうぞ
叶わない恋は空へと投げ捨てる 声に形がなくてよかった
最後まで 使うはずだった 赤い糸 一年分だけ 残りは捨てた
1万のいいねをもらった君は今 私の愛で満足するの?
桃源郷にきびすを返す
5,6が 抜け落ちたまま新巻が増え続けていく本棚の色
あの星が世界を終わりに導いてくれるのでしょう?そうだと言って
5冊目の後悔を書き終えた頃 1冊目の君はしおれてしまった
ぶちまける缶コーヒーと憎しみのどちらが強く川を濁すか
泣き路往き 去る時を知り 居ぬ君は 桃源郷へと きびすを返す
大切な日常を切り取る
『写真は大切な日常を切り取る』日常が消え、その意味を知る
「もういっこ」
叱られて拗ねてもぐった掛け布団 命の布が 膨らみ、へこむ
産む方も 生まれる方も ふたりとも 泣いているのに ふたり幸せ
色褪せた 十九の父の 見る先は 褪せない父と 十九の息子
「もういっこ」ねだる私を宥める母 撫でるその手も嬉しかった
黒鍵を使わず渡る通学路 1日2度のソロコンサート
肉ちっちゃ うわあ 肉ちっちゃいなこれ 貴殿、粉塊(ふんかい)に改名されよ
なんでもはないけどなにかはあるでしょう ないものねだりをしない限りは
夜に泳ぐ
Dメジャーを最後に鳴らして熱狂を空に返して夜が生きだす
ゆっくりと車道を歩く月の下 昼のルールはここまで来ない
闇夜 川面に映るのは真の自分 黒は最も純粋な色
水鏡に映る満月この奥に世界はあるの?石を投げ込む
深夜まで働いた人宛の放送終了後に光る虹
白浜のあなたがこんなに眩しくても私はきっと夜に泳ぐの
深夜2時、頬を撫でてくぬるい風 知らない言語を言う室外機
道端の 潰れた箱の 中身には 誰の休息が 入っていたの
新宿に鋭い風
新宿に鋭い風の声がして0.2秒街が黙った
どこへでも延びいくはずのあの路線は 都心で私を 秒針にした
人はみな多様を受容と見せかけて 成れの果てなど興味無いだけ
尊厳を持った蛙が干からびる前に死のうと車道に飛び出す
「夢みたい」煌々と目を輝かす 夢が何かを知らぬ者共
灰色の日々を灰色と言う事でそれは絵になる題名になる
あとがき
2022年春先からオーストラリアに留学するという事になり、なんとなく「サラダ記念日」を買ってもっていきました。人生で初めて読むプロの短歌はとても面白く、本当に失礼ながら「31文字なら俺でも作れるんじゃね?」と考えるようになりました。
そのあと大学の同じ寮に住んでいた子をめちゃめちゃ好きになってしまい、頭がおかしくなった僕は別れ際に渡したラブレターに短歌を48首載せました。フラれました。
上記の100首は皆いわゆる「短歌初心者」に分類される人たちによって詠まれています。
先ほどの話をTwitterのアイドルオタクたちにしたところ割と面白がってくれて、それから毎週オンラインで彼らと歌会をやるようになっていきました。今までオンライン大喜利をするために使っていたサイトでお題を出して投票していく形です。大喜利のノリで出して言っている節があるので、一晩に525首も生まれた回もありました。その初回が10月だったので、この歌集を「初心者が最初の2か月でどんな短歌を詠むのかの記録」と捉えることもできます。
短歌ブームが来たと言われて久しいですが、これからも僕の中だけでも、短歌の炎を一過性のものにしないように頑張って燃料をつぎ込み続けたいと思っております。
紙の本も作ろうと思っておりますので、出来上がった際は是非。
では最後にもう一首どうぞ。
(文責:多部未華子)
手に張った氷の融点いつだって六度四分で君の平熱
【撰者一覧】
赫
得るもの2
神田
多部未華子
野口衣織
広島
【編集】
タギモエ
屋根裏Walker
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