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リビジョンブロッカー第3話

○板蓋宮(いたぶきのみや)への道(朝)
   入鹿の行列に加わっているマリ。
   入鹿、マリを見ている。
入鹿「こんな奴いたか?」
マリM「バレたか?」
リビジョニスト1「ずっといました」
入鹿「そうか」
   ホッとするマリ。

○歴史教科書
   板蓋宮の写真が掲載されている。

○山(朝)
   板蓋宮が見える。
   歴史の教科書を見ている飴野。
飴野M「日本は、蘇我入鹿の国になるのか」
   ガサッと音がする。
飴野「?」
   飴野、振り返る。
   子猪がいる。
飴野M「かわゆい!」
   子猪の後ろから、筋骨隆々の親猪が現れる。
飴野「!」
   飴野、親猪に光線銃を向ける。
飴野M「親を殺したらあの子が……」
   親猪、突進して来る。
飴野M「ごめん!」
   飴野、光線銃を撃つ。
飴野M「撃っちゃった……」
   子猪、飴野に突進して来る。
飴野「!」
   飴野、子猪を撃つ。
   子猪、死ぬ。
飴野M「逃げようと思えば逃げれた。でも殺した。殺せるようになっちゃっ
 た、殺せるように……」
   板蓋宮を睨む飴野。

○板蓋宮・表(昼)
   剣を携えた入鹿を先頭に、手下たちと三人のリビジョニストがやって
   来る。リビジョニストの一人はマリ。
   俳優人(わざおぎひと)が立ちはだかる。
俳優人「これはこれは蘇我大臣(そがのおおおみ・入鹿のこと)。剣のお持ち
 込みは控えて頂きたいのですがぁ……」
マリM「これが俳優人」
入鹿「剣あっての力、力あっての俺。誰が渡すものか」
俳優人「お気持ちは分かりますが、皇極天皇(すめらみこと)の前でございま
 すゆえ」
   俳優人、クルクルっと舞ってサッと入鹿に両手を差し出す。
入鹿「天皇(おおきみ)の前だから何だと言うんだ?」
俳優人「お預けください。蘇我大臣はすでに立派な剣をお持ちではありませ
 んか」
   と入鹿の下半身を見る。
俳優人「それに比べて私の剣はナマクラ」
   と自分の下半身を見る。
マリM「まさかの下ネタ! 通じるわけない!」
入鹿「愉快な奴! よし、剣を預けよう」
マリM「通じるんかーい!」
   入鹿、俳優人に剣を渡す。
入鹿「その代わり、護衛を付ける」
俳優人「お一人でご出席ください」
   入鹿、俳優人の胸ぐらを掴んで凄む。
入鹿「注文が多いぞ」
俳優人「護衛は……ふ、二人まで!」
入鹿「よし。お前とお前、護衛しろ」
   入鹿、リビジョニスト1とマリを指す。
マリ・リビジョニスト1「はい!」
   リビジョニスト2、マリをジッと見つめる。
マリM「ジロジロ見るな!」

○板蓋宮・儀式の間(昼)
   すだれの向こうに、皇極天皇のシルエットが薄らと見える。
   石川、上表文を読んでいる。
   石川の後ろ座っているのは入鹿、使者たち、リビジョニスト1、マリ。
石川「さ、三韓のからの、み、貢物の内訳は……」
   
○同・同・柱の陰(昼)
   佐伯と葛城、剣を持っている。
   槍を持った中大兄と弓矢を持った鎌足もいる。

○同・儀式の間(昼)
   儀式が続いている。
石川「ま、まずは、こ、高句麗から……」
   石川、手が震え汗だく。
入鹿「どうした? 震えているぞ」
石川「緊張して……」
入鹿「違う。それは冷や汗だ」
石川「いいえ、暑くて……」
入鹿「最初は緊張と言っただろ?」
   石川、チラッと佐伯と葛城を見る。
   佐伯と葛城、視線をそらす。
入鹿「今、何を見た?」
石川「何も」
入鹿「何を見た?」
石川「何も!」
入鹿「見ただろ!?」
石川「は、早く斬って!」
入鹿「やはり謀りおったか!」
   入鹿、懐に隠していた短刀を出す。
マリ「させるか!」
   マリ、短刀を蹴り飛ばす。
入鹿「!」
   短刀は回転しながら飛んでゆき、貢物の箱に刺さる。
   箱から、バラバラッと大量のガラス玉が出る。
   入鹿、マリを睨みつけて、
入鹿「貴様ぁ……」
   中大兄、突入して来て槍を構える。
中大兄「早く斬れ!」
   鎌足、佐伯、葛城、ガクガク震えて動けない。

○同・表(昼)
   見張っている蘇我入鹿の手下たちとリビジョニスト2。
   手下、走って来る。
手下「ご報告! 向こうの草陰で、あなたと同じ格好をしている方が殺され
 たとの目撃情報あり!」
リビジョニスト2「ブロッカーが紛れ込んだか!」

○同・儀式の間(昼)
   マリと中大兄が対峙しているのは、入鹿とリビジョニスト1。
   鎌足、佐伯、葛城、ガクガク震えて動けない。
   リビジョニスト1、光線銃をマリに向ける。
   マリも光線銃をリビジョニスト1に向ける。
   ドゥシュン! マリとリビジョニスト1、同時に光線銃を撃つ。
   ドタッ! リビジョニスト1だけが倒れて、蒸発する。
マリ「誰が斬る役目だっけ?」
中大兄「えっと……」
   リビジョニスト2、飛び込んで来て、中大兄にタックル。
中大兄「!?」
   中大兄、槍を手放す。
   槍が、マリの足元の床に刺さる。
   マリ、槍を抜いて入鹿を刺そうとする。
マリ「アンタの思い通りにはさせな……」
   マリ、ピタッと手を止める。
   リビジョニスト2に光線銃を向けられてしまったのだ。
リビジョニスト2「武器を置け」
   マリ、槍と光線銃を置いて両手を上げる。
マリ「アンタが国を治めちゃいけないの」
入鹿「俺が治める国を見た。まるでそんな言い草だな」
マリ「そんな未来、見えない」
入鹿「誰にも未来など見えない。だが俺だけには見える。我が一族が、この
 国を治める未来が!」
   入鹿、リビジョニスト2から光線銃を奪って、マリの額にあてる。
マリ「未来は変えさせない、変えちゃいけない」
入鹿「未来は作るんだ。この手で!」
   入鹿、グッと引き金を引こうとする。
マリM「終わった……」
   ドゥシュン! 入鹿の手首に光線が当たり、もげ、宙を舞う。
入鹿「!」
   光線銃の発射元は飴野。片手に光線銃、片手に教科書を持って立って
   いる。
   マリ、宙を舞う入鹿の手から光線銃を奪い、リビジョニスト2を撃
   つ。
   リビジョニスト2、倒れて蒸発する。
マリ「誰が斬るんだっけ?」
   佐伯と葛城、手を挙げる。
マリ「はばかりなく」
   入鹿を取り囲む佐伯と葛城。
   入鹿、手首を失くした腕を、すだれの向こうの皇極天皇に向ける。
入鹿「おおきみぃ! 私に何の罪があると言うのです!? この者たちにお
 裁きを!」
マリ「血の海になるよ。出てな」
飴野「俺は見届ける。ヒマロを殺した奴の最期を」
マリ「ダーメ」
飴野「でも……」
   マリ、光線銃のグリップで飴野の後頭部を叩く。ゴツン。
   飴野、気絶する。
   気絶した飴野の顔の前に、入鹿の首が転がって来る。
マリ「645年、乙巳の変、リビジョン阻止」

○同・表(午後)
   雨が降っている。
   ワームホールの前に立っている飴野とマリ。
飴野「俺、人殺しの仲間として教科書に載るの?」
マリ「載らない。この時代に鍵をかけると、彼らの記憶から私たちは消え
 る。アンタの記憶からも私は消える……入って」
飴野「いいのかな? マトジさんとツグメちゃんをあのままにして」
マリ「そう言えば、貢物の中にガラス玉があったね。この時代、ガラス玉っ
 て貴重なんだろーなー」
飴野「(ハッとして)待ってて!」
   飴野、走り去る。
   呆れて息をつくマリ。フーッ。

○蘇我蝦夷の館・大広間(夜)
   結灯台(むすびとうだい)の火が、木彫りの仏像を照らしている。
   蘇我蝦夷、仏像の前に置かれた入鹿の首を見ている。
蝦夷「現世はこれにて終わるが、輪廻を巡って、来世、必ずやこの国を手に
 入れてやる!」
   蝦夷、結灯台の三脚を倒す。
   火が燃え広がる。

○同・外観(夜)
   館が燃えている。
   中大兄と鎌足、火を見ている。

○板蓋宮・表(夜)
   ワームホールの前に立っているマリ。
   飴野、やって来る。
マリ「用は済んだ?」
飴野「助けたい人がいるんだ。その日に連れてって欲しい」
マリ「ダメ」
飴野「頼む!」
マリ「過去は変えられないし変えちゃいけない。甘んじて受け入れるもの。
 たとえそれが大規模自然災害でも大虐殺でも……原爆投下でも」
飴野「そんな……」
マリ「入れ!」
   飴野をワームホールに放り込むマリ。

○竪穴式住居・中(夜)
   ヒマロの死体の前で泣いているマトジ。
   ツグメ、袋を持って来て、
ツグメ「お外にあった」
マトジ「?」
   マトジ、袋を開けると……
   中にはビー玉。
   ハッとするマトジ。

○同・外(夜)
   出て来るマトジ。空を見上げる。
   星が輝いている。
   涙を流して笑うマトジ。

○通学路・歩道(2030年・夜)
   ワームホールが開いて、飴野が落下して来る。
飴野「いたっ!」
   道路を見が左側通行に戻っている。
   バッグの中から歴史の教科書が落ちる。
   飴野、教科書を拾う。
飴野「?」

○教科書
   『遺跡から発見されたガラス玉』とあり、ビー玉の写真が掲載されてい
   る。

○川岸(夜)
   やって来る飴野。ジッと川を見つめてから、空を見上げる。
   星が輝いている。

○岩戸中学校・三年一組(日替わり・朝)
   生徒たち、着席している。
   飴野の視線の先には……
   ビー玉が敷き詰められた金魚鉢。
   美佐とマリが、黒板の前に立っている。
美佐「自己紹介して」
マリ「隣町から来た幕田マリです、よろしく」
   生徒たち、拍手。
美佐「そこの空いてる席に座って」
マリ「はーい」
   飴野の隣に座るマリ。
マリ「よっ、飴野」
飴野「え? どうしての俺の名前を……あれ? 君、どこかで……」
マリM「やっぱ完全に忘れたわけじゃないか」
マリ「飴野、わりと使えるからパートナーにしてあげる」
飴野「へ?」
マリ「嫌だなぁ、日本担当。ま、ドイツ担当よりマシだけど」
飴野「?」
   怪訝そうにマリを見る飴野。
(つづく)


#創作大賞2024 #漫画原作部門

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