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Rストラスキャラストの感想

このストーリーにタイトルをつけるなら、『普通の物語』をおいて他にありません。
(ネタバレしかないので一応注意)


・回想

冒頭はメギドラル時代の回想です。
マグナ・レギオに襲われ、仕方なく反撃するとついやりすぎちゃって倒してしまい、そのせいで敵に援軍を呼ばれさらに戦いが続くという悪循環。
これは「恨みも勝ち目もないのにどうして戦うの」と彼女が言う通り、誰も得をしない戦いです。
どうして戦うのか、その答えはストーリー後半で示される通り、それがマグナ・レギオにとっての「普通」だから、ただそれだけです。

その後のことは描かれてませんがおそらく、ストラスは戦わなくて済む方法として負けを認めて、その結果(とはいえ誰も彼女を殺せなかったため、次善の選択肢として)追放されたのではないでしょうか。
転生してヴィータになれたことは、ある意味では彼女の勝利のようにも見えますが、それはまた話が別です。

メギドラルにおいて彼女の考えは普通ではなかったわけですが、そのせいでマグナ・レギオに目をつけられ、望まぬ戦いを強いられた挙げ句追放刑という罰まで受けることになりました。
結果プロフ文で書かれているように、「『普通』でないことがバレれば周囲に迫害されることになるのではないか」と考えるようになり、普通を求めるようになったのでしょう。

つまりメギドラルを追われたのは「自分が周りと違ったから」で、だから周りと同じ=普通を求めるようになったわけです。
(以前の考察で深読みしすぎていたのが恥ずかしい……)


・普通代表と異端代表

現在に戻ると、リリィとマーサとお茶をしている場面。
彼女たちは一貫して「普通の女の子」代表として描かれているんですが(たぶん)、ストラスがそんな彼女たちと今でも(『その交渉は和平のために』時点で彼女らは卒業間近だったため、騎士団に入ってしばらくした今ではもう学校を卒業しているはず)仲良くできているのはとても嬉しかったです。
彼女たちは「卒業後、とりあえず家の手伝いをする」と言っていましたが、きっとこの時代この世界ではそれが普通なのではないでしょうか。働く女性はきっと少数派でしょう。
そんな彼女たちからすれば、騎士団に入って(しかもマスエフェクト名によれば「紅一点」)活躍しているストラスが友達なのは誇らしいでしょうし、応援したくもなるでしょう。騎士になったストラスは異端(以下「普通じゃない」ことを「異端」と表現します)にしても、こうした関係性はいたって普通ですよね。

また、騎士団の先輩ファイもまた普通の存在として描かれているように思えます。
普通の日常を守るため、普通じゃないものを徹底的に排除するという考えを持っていますが、これは(騎士としては)普通であることがストーリー後半でわかります。

一方で、不良少年や犯罪組織のボスは異端の存在として描かれています。そして「ああいう人たちばかりに好かれる」ストラスもまた異端というわけです。

・ストラスとファイの対比

そして彼らに対する接し方が、ストラスとファイとで正反対になっています。
不良少年に対して「根は悪い子じゃないんだろうけど」と考えるストラスは、彼らのような異端の存在も普通にはなれるかもしれないと言います。
つまりストラスは、他人の中に「普通」を見つけようとしています。

一方ファイは不良少年に「勉強したって、大半は落伍者になって人様に迷惑をかけるゴミになる」「だったら早いうちに芽を摘んでおいたほうがマシだ」とかなり厳しい言葉をぶつけます。
一見ひどい言い草ですが、早いうちに芽を摘まなかった結果が過去に失ってきた友人や同僚というわけですし、そうであるなら、そうならないよう芽を摘むというのは騎士として理にかなった行動です。
ここからわかるように、ファイは他人に「異端」を見つけ出そうとしているわけです。

そしてストラスは追い詰めた犯罪者を目の前に、自分の甘さ、ファイの正しさを実感してしまいます。
(ナイフを隠し持っていた男を前に「あの人、私を殺そうとしたんだ ファイ先輩がいなかったら今ごろ――」「私があの人を殺していたかもしれない」と、自分が死ぬことを一切考慮していないところがなんとも彼女らしいポイントですが)
ファイの言葉通りに普通を守るには、目の前の人間や出来事が普通なのかを疑い続ける必要があるわけで、異端であるなら、その可能性があるなら排除して、それが騎士の普通で。そしてそれは、嫌いだったメギドラルの日常と変わらないようにも見えて。

・騎士の「普通」

でもそれは確実に違います。
騎士には「守りたいものを守る」ためという目的があるからです。
上述したように、ファイが極端と言っていい程に異端を排除しようとするのは、そうしなかった、できなかったことで死んだ同僚や友人がいるからです。
身近な人を亡くす経験すらも騎士にとっては「普通」。その代わりに守りたいものを守る。それこそが「騎士の『普通』」。
外から見れば「異端」だけど、騎士にとっては「普通」。
ストラスはそれを知り、そして普通が絶対的な概念ではなく、人や立場によって異なる、相対性なものだと気づくわけです。

そして「追放前よりも大それた考え方をしていた」と言うストラスですが、その意味はどうも難解です。
あまり自信がないので詳しくは述べませんが、
追放前はマグナ・レギオ(≒メギドラル)の普通と相容れず、彼女自身は普通の外側にいたのに対し、
現在では、彼女は騎士の普通の内側にいるわけです。
「大それた」と言うのは、こういうところを踏まえてのことじゃないでしょうか。

・騎士とストラス

騎士の仕事に対し、リリィとマーサは「向いてるよ」「ストラスらしい」「いい仕事に巡り会えたんだね」と何度か言っていますが、それは「普通」にこだわる彼女だから「普通」を守る仕事が向いていることと、守るために必要な力を実際に持っているといったところに加え、もう一つ大きな理由があるように思います。

ファイにボロクソ言われた不良少年たちがそれに反論せず怒りもせず、ただただそれを受け入れていたこと。
彼らは自分が異端であることをわかっていて、普通の騎士には排除されて当然だと理解しているわけです。
それでもストラスとは普通に話すし、彼女の言葉に従って学校に行ったりもします。
組織のボスも彼女の前では「『普通』の老人」になれたと言います。

もしかしたらストラスは、異端の中に普通を見つけることで、異端を普通に戻せるような、そんな存在なのではないでしょうか。
ファイのような普通の騎士には、異端を排除することでしか「普通」を守ることができませんでした。
でもストラスなら、異端を普通に戻すという形でも「普通」を守ることができるのかもしれません。ファイに学んだ「騎士としての普通」を踏まえた上で、もっと先に行けるのかもしれません。
だとすれば、騎士の仕事は彼女にとって天職と言っても過言ではないでしょう。


・ラストシーン

そして最後。
またリリィ・マーサと食事をするシーンです。
組織のボスを捕まえるという「異端」な働きを見せ、リリィたちに「物語みたい」と言われたストラス。ですがボスは極悪人などではなく、普通のおじいさんで、普通の人だった。
これは物語なんかじゃないわけです。
物語じゃないなら何か。そう、「普通」なんです。
ここまでの話は全部「騎士の普通」なのです。

そしてストーリーは、ストラスがナンパされかけたところで、ナンパした側のチンピラがビビって逃げ出すというシーンで終わります。
「やっぱ普通じゃないわ」と言うリリィたち。このやり取りは「やっぱ」という言葉が示しているように、今までに何度も行われてきたもので。
つまり、これはストラスたちにとって「普通」の会話なのです。

このストーリーは(回想を別とすれば)リリィ・マーサとのシーンで始まり、彼女たちとのシーンで終わります。
彼女たちが普通の存在として描かれていることは最初にも述べました。

つまりこのストーリーは普通で始まり、普通を描き、普通で終わる物語なのです。

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