『ヴィータ大量失踪事件』プロローグ
「で、話ってのは何だ?」
アジトに戻ってやっと一段落、思い思いに羽を伸ばしていた面々だが翌日の朝にはまた呼び出されていた。済まなさそうに謝るソロモンに対し、そんなことは構わん、とブネが話を進める。
「それが、王都から調査依頼が来たんだ」
「へえ、シバから」
バルバトスの表情から笑みが消え、一気に真剣な顔つきとなる。
「なになに!? キノコの調査ならあたしがあたしが!」
「そんなわけないでしょ」
見当はずれの期待をするシャックスを、ウェパルは冷たく押し止める。
「幻獣退治か!? だったら俺たちに任せろってんだ! な、アニキ!」
モラクスは早くも鼻息が荒い。
「それが、そう簡単な話ってわけじゃなさそうなんだ」
ソロモンはシバからの書簡らしきものを取り出しつつ言う。
「えっと、簡単に言えば、ある町で大量のヴィータが行方不明になっているらしくて」
「大量ってどれくらいだ?」
「数十人単位らしい」
モラクスの問いかけに答えると、ガープが顔をしかめる。
「それと俺たちに何の関係がある」
「そうね。その程度でいちいち駆り出されてたらキリがないわ。私たちは便利屋じゃないんだから」
うんざりした顔のウェパルにソロモンは、それが、と弱い語調で反論する。
「町の周囲で幻獣が目撃されているらしいんだ」
幻獣、の言葉に皆の目つきが変わる。
「一気にきな臭くなってきたな」
「それで私たちに調査依頼が来た、というわけですね! これ以上ヴィータを犠牲にするわけにはいきません。早く出発しましょう、ソロモン王!」
マルコシアスも鼻息を荒げる。そんな中、待て、とバルバトスは冷静だ。
「違和感があるな。さっきキミはヴィータが『行方不明』って言ったかい? 殺されている、だとかではなくて?」
「そうなんだ。ヴィータたちはあくまで行方不明。生きているかどうかは分からないけど、少なくとも死体は一切見つかっていない」
「ソイツは妙だな」
「素直に考えればヴィータの失踪は幻獣に関係がある。そう見るべきだけど、その辺の情報はないのかい、ソロモン?」
「ごめん、そこまでは分からない」
ソロモンは少し顔を伏せる。
「だけど、失踪と幻獣が無関係とも思えないんだ」
「それは間違いねえだろうな」
ブネは顔をしかめる。
「失踪してるように見えるだけで、実際は連れ去られて殺されてると見ていいだろう。問題は、なぜそんなことをしているか、だ」
幻獣がヴィータを襲うのは、フォトンを奪うために他ならない。それならどこで殺そうと同じで、わざわざ連れ去る理由はないはずだ。
「何かきな臭いものを感じます。やはりメギドラルの陰謀ですか!」
「可能性はあると思う。シバはその辺も含めて調査してくれってさ」
なるほど、としばし考え込む一同。
「で、行くの?」
「メギドラルが絡んでる可能性が示唆されている以上、俺たちは行かざるを得ないんじゃないかな」
「同感だ。芽は小さい内に摘んどくべきだってな」
ウェパルの問いに、バルバトスとブネが即答する。
「他のみんなも、それでいいか?」
「俺はいつだってアニキについてくぜ!」
「構わん」
「ヴィータを助けるためですから。大賛成です!」
「仕方ないわね。早い内に対処する方が結果的に楽だっていうのには同意だし」
「あたしも賛成賛成!」
全員がすぐに同意してくれる。ソロモンは改めて頭を下げる。
「みんな、ありがとう!」
翌朝に決まった出発に備え、皆それぞれに準備を始める。ずっと旅を続けてはいるがいつまで経っても慣れるものではない。どこか不安を抱えたまま、出発の朝はすぐにやってくる。
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