ストラス

ストラスちゃん幸せになってというSS『普通に特別な、大嫌いな私』

メギド72さいかわメギド(当社調べ)のストラスちゃんがどうすれば幸せになれるかを真剣に考えました。
設定の捏造と妄想・ご都合主義な解釈が含まれます。閲覧は自己責任でお願いします。

―― ☆ ――

 全身が鉛のように重い。今にも地面に倒れ伏しそうだけど、槍を支えに何とか持ちこたえる。もう嫌だ。どうして私がこんな目に遭わなきゃいけないの。私は普通のヴィータらしく平穏に暮らしたかったのに。どうして。
「ストラス! 頼む!」
 そんな私に、ソロモンさんからフォトンが回される。こんなにぼろぼろなのに私を使うなんて。本当にあの人容赦ないんだから。それでもフォトンが渡されると、ほんの少し力が湧いてくる。はあ。私、いいように使われてるなあ。
「やぁっ!」
 気力を振り絞り、何度も何度も攻撃を繰り返した敵の弱点を叩く。一点に攻撃を集め続けた結果、硬かった装甲が砕け柔らかい部位が露出していた。確かな手応えを感じる。相手だって限界が近いはずだ。あと少しで勝てる。敵を倒せる。そう思った途端、戦闘意欲がぐんと湧いてきてしまう。
「ソロモンさん、私にフォトンを回してください!」
「分かった!」
 この戦闘を通して私には十分なフォトンが溜まっていた。今だ、と私は真の姿を開放する。
「普通じゃない力、使いたくないけど!」

 薄い布団の上で目覚めた。見慣れない風景に一瞬たじろいだけど、すぐに戦闘のことを思い出した。確か、私が最後にメギドの力を使ってトドメを刺したはず……。
「うっ」
 体を起こそうとしてあちこちに激痛が走る。私の体は普通のヴィータよりも回復が早いみたいだけど、それでも追いつかないほどの傷を受けたのだろうか。腕は痣と生傷だらけになっていた。あーあ。こんなの普通の女の子じゃない。
「ストラス、起きたのか! 大丈夫か!?」
 同じ部屋にいたソロモンさんが私の方を振り向く。体は痛むけれど大きな怪我はなさそうで、きっと数日もすれば元通りなのだろう。私の体なら。
「はい、なんとか」
「本当か、顔色が良くないように見えるけど……」
 心配そうに覗き込んでくるソロモンさんを見て、急に怒りが抑えられなくなった。
「当たり前じゃないですか! 誰のせいでこんな……!」
 そもそもソロモンさんが私を見つけたりしなければ。指輪との契約なんてしたくなかったのに。平穏な日常を過ごしたかったのに。なんで私が戦わなきゃいけないの。
「ご、ごめん、ストラス」
 ソロモンさんは慌てたように私に謝る。
「ストラスが戦いたくないのは分かってるつもりだ。だけど、ヴァイガルドを守るために、どうしてもストラスの力が必要なんだ」
「分かってますそんなこと!」
 そう、分かっている。ソロモンさんだって嫌がらせで私を呼んでいるわけじゃない。この人はいい人なのは分かっている。だから召喚に応じたのだ。だから私の怒りは八つ当たりでしかない。分かっている。でも、そんな理性じゃこの感情を抑えられない。
「分かってます。でも私、こんな力要らなかった! 普通に暮らしたかった」
 ぽとりと、涙が溢れ落ちた。こんなにぼろぼろになるまで戦って、体のあちこちに傷を作って、そんな生活したくなかった。この痛みも嫌。数日経てば治ってしまう強靭な体も、ヴィータ離れした戦闘力も、メギドの力も、全部全部嫌だ。大嫌いだ。ヴァイガルドに追放されて、これで戦わなくて済むと思ったのに。どうして私がこんな目に。ヴァイガルドを守るため、平穏な日常を守るために戦っているはずなのに、敵は一向にいなくならないし私はますます強くなって普通からかけ離れていく。こんなの話が違う。
 だけど。そう思ってはいても。この前の戦闘で私は、あの幻獣にトドメを刺したいと思った。だからあんなにぼろぼろでもフォトンを要求した。攻撃したい、殺したいという欲求に抗えなかった。それは私がヴィータじゃないことの証。頭でどう思っていたって、私はメギドなんだ。戦闘に対する本質的な欲求がきっとどこかにあるんだ。私はどう頑張ったって普通のヴィータにはなれないんだ。それも――分かっている。
「うう……」
 溢れ出る涙が止まらない。私は幸せになんてなれないという事実を突きつけられているようで、唯一の望みが否定されているかのようで。
「……なあ、ストラス。少し聞いてくれないか」
 ソロモンさんがいつもよりもかしこまった声で言う。私が彼を見上げて頷くと、私の隣に座り優しく話しかけてくる。
「『普通』じゃなくても『特別』ならいいんだろ?」
「ど、どうしてそれを……」
 ソロモンさんには言ったことがないはず。
「シバが教えてくれたんだ。ストラスが落ち込んでるみたいだから励ましてやれって。俺、そういうの、察し悪いからさ、シバに言われるまで気づけなかった。ごめんな、ストラス」
 そうだったんだ。私は首を振る。私のことを気遣ってくれる人がいたことが嬉しかった。
「そんな俺に今更こんなこと言われても嬉しくないかもしれないけど、俺は、ストラスは普通の女の子だと思う」
 その言葉には、ただの慰めとは違う響きが感じられた。
「みんなのために、一生懸命に頑張ってくれているところとか、健気な女の子そのものじゃないか。それに――」
 ソロモンさんはそこで言葉を切って、照れたように視線を逸らす。
「普通の女の子の生活ってさ。例えば結婚して、ご飯を作ったり子供を産んで育てたり、そういうものだと思う。美味しいご飯が作れたり、洗濯や掃除が得意だったり、そういうのって、その人達それぞれが身につけた『特別』な能力だと思うんだ。それを、大切な人のために使ってる。そういうことじゃないかな」
 ソロモンさんはそこで一息つくと、立ち上がって私に背を向ける。
「その『特別』な能力が、ストラスにとっては戦闘の強さだったり、メギドの力だったりするって、そうは考えられないかな。だとすれば、今ストラスがこうやって戦ってくれていることは、普通の女の子と何一つ変わらない。そうじゃないか?」
 特別。その単語が、私の心にすとんと落ちた。
「大切な人のために頑張ることは『普通』だろ? そして、頑張る時に、自分の能力を生かそうとすることも『普通』じゃないかな。だから……」
 ソロモンさんが急に言葉を止めた。私が後ろから腰に抱きついたからだ。
「ありがとう、ございます。ソロモンさん……!」
「ストラス……」
 さっきまでよりも激しく涙が溢れ出る。だけどそれは、さっきまでとは違う涙。
「ごめんなさい。あと少しだけ、こうさせてもらえませんか」
 頷いたソロモンさんを、私は更に強く抱きしめた。

 しばらくそのままでいて、やっと私は落ち着いた。ソロモンさんから離れ、ぐしゃぐしゃになった顔を乱暴に拭う。
「ありがとうございます。今の私のこと、受け入れられそうな気がしてきました」
「うん。ストラスが元気になったのならよかった。俺も嬉しいよ」
 微笑むソロモンさん。さておき、私には一つ聞いておかなければならないことがある。
「ところでさっきの話ですけど。私の『大切な人』って、ソロモンさんのことを想定していました?」
「へ? いや、そ、それは……、ほら、ストラスはヴァイガルドを守るために戦っているわけだからさ、守りたい人、沢山いるだろ? そういう人を指したつもりで……」
 ソロモンさんの言葉を遮り、はあ、と私はため息をつく。
「まったく、本当にあなたってヘタレなんですね。シバ様の言う通りでした」
「ちょっと!? シバの奴、一体何の話してんの!?」
 慌てるソロモンさんが面白くて、思わず私は吹き出してしまう。
「ふふ、秘密です」
 私は笑顔で言う。
「普通の女の子には、隠し事の一つや二つ、あるものですから」


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