『ヴィータ大量失踪事件』第1話
一覧はこちら ↓
―――――――――――――――――――――――――――――――――
「見えてきたぞ、あれが例の町だ!」
ソロモンが指す道の先、多くの建物が並んでいた。遠目に見る限りでは王都には遠く及ばないものの、それなりに大きな町に見える。
「けっこうデカい町じゃん? 美味い肉にありつけそうだぜ!」
「ちょっと。目的が違うでしょ」
「分かってるって。でもどーせ食うなら美味いもんの方がいいだろ!」
緊張感のない会話を続ける一同だったが、前を見張っていたガープが声を張り上げる。
「待て、ヴィータ! 馬を止めろ!」
「何だ!?」
ソロモンが慌てて手綱を引くと、ガープが前を向いたまま言う。
「幻獣がいるぞ、それもかなりの数だ!」
「本当ですか!?」
馬車から降りた一同は絶句する。町の周囲、到るところに幻獣がいるのだ。その数、数十は下らないだろうか。
「ひえー、ゲンゲンがいっぱいだ」
まだ距離はある分幻獣たちはこちらに気づく様子はない。とは言え。
「町の外でこれだけだと!? 一体中はどうなってんだ!」
ブネは焦る。それもそのはず、大きな町はすなわちそれだけ大きなフォトンスポットであることを意味し、そしてフォトンを求める幻獣はフォトンスポットに惹かれる。外に幻獣がいれば当然中にも、場合によっては外以上の数、いるはずと考えるのが合理的だ。
「この量はまずい、早く町に入ろう!」
「全部を相手にするのは無理ね。最短距離を突っ切るわよ」
言うが早いかウェパルが走り出す。町への道を遮る幻獣だけを倒し、一刻でも早く町へ入ろうと言う考えだ。
「バルバトス、馬車は頼めるか!?」
「了解だ」
「俺が攻撃を防ぐ、お前たちで道を作れ!」
「任せろ! アニキ、支援頼むぜ!」
「ああ、行くぞみんな!」
即座に役割を分担し、ウェパルを追いかけるように走り出す。幻獣がこちらに気づくが早いか、先頭を走るウェパルの槍が襲いかかった。怯んだところをモラクスが追撃しとどめを刺すと、周囲の幻獣はマルコシアスが遠距離攻撃で威嚇し、纏まったところをブネが大剣で薙ぎ払う。守りはガープに一任し、皆が自由に敵を切り裂いていく。手の回らない幻獣はシャックスが足止めし、その間に誰かが間に合って叩き伏せる。手慣れた連携で幻獣をいなし、町の中を目指し突撃する。
「道が開いたぜ!」
モラクスが叫ぶ。その声の通り、幻獣の群れの間、町への細い一本道が見える。
「広げるぞ!」
ブネが大剣で切り込み、さらに幻獣を押しやっていく。
「行けるか!?」
「任せてくれ」
バルバトスはソロモンに笑顔で答える。
「よし、じゃあ突っ切るぞ!」
その声を合図に馬車は一気に加速する。馬車は地上で走るソロモンたちを追随し、幻獣の間を切り裂くように進むとそのまま群れを置き去りにしていった。
「よし! みんな無事か!?」
「はい、皆も荷物も問題ありません!」
「にしても、手応えのねえ奴らだったな」
モラクスが少しつまらなさそうに言う。
「それは、……よくないかもしれないね」
バルバトスは違った理由で顔を曇らせる。理解できずどゆこと? と聞くシャックスに、バルバトスは頭に手を当て物憂げに続ける。
「幻獣たちもエネルギー不足、つまりフォトン不足なのかもしれない」
「ってことは……」
「町のフォトンやヴィータたちが危ないかもしれないってことか」
「まずいな、急ごう!」
ソロモンの声を待つまでもなく、一行は足を緩めず町の中へ走り込んだ。
- TAP TO NEXT –
(→ 第2話)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?