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『ハルファスとストラスの庭仕事』

 今日はおるすばん。
 ゆっくり休んでくれ。ソロモンさんにはそう言われたけど、何をしたらいいのかわからない。困ったな。私はアジトの椅子に座って、ぼーっと辺りを見渡す。
 すると窓に視線を向けた一瞬、外に何か動くものが見えた。見覚えのあるものな気がする。気になって窓をじっと見ると、その答えがわかった。オレンジを基調とした、ストラスさんの服が風にひらひらしていたのだ。どうやら外で武器を振り回しているみたい。……武器?
「もしかして、戦闘かな」
 大変だ。見たところストラスさんは一人きり。私も行ったほうがいいかな。どうしよう。
「私も戦う」
 私がここにいる理由は一つ。戦うためだ。なら行かなきゃ。私は武器を持ってアジトの外に出る。
「あ、ハルファスちゃん!」
 外に出て走っていくと、ストラスさんが気づいてくれた。私は辺りを警戒しながら、ストラスさんに近づいていく。見通しのよい草原、だが敵の姿は見当たらない。
「ストラスさん、敵は?」
「敵?」
 ストラスさんは小首をかしげる。
「だって、それ」
 私は武器を指差す。ストラスさんはしばらくきょとんとしたままだったが、少ししてああ、と笑う。
「違うの、戦ってるわけじゃないわ。私の武器は庭仕事もできるのよ」
 戦闘じゃなかったんだ。武器を地面に置いて、ストラスさんに聞き返す。
「にわしごと?」
「そう。今はお野菜を作ってるの!」
「わあー、お野菜! おいしいの?」
 おいしいものは好き。それは私にもはっきり分かっている。
「きっと美味しいわ! そうだ。ハルファスちゃん、今時間ある? それとも他にしなきゃいけないことあるかな?」
「うーん、することは、ない」
「本当!? じゃあさ、一緒にやろうよ!」
「うん、じゃあ、そうする」
「やったあ!」
 言われるままに頷くと、ストラスさんは少し大げさに喜んでくれた。
「私、どうすればいい?」
 私は武器を振りかぶり聞く。ストラスさんみたいに、地面にぶつければいいのだろうか。
「ちょ、ちょっと待って。ハルファスちゃんの武器は使わない方がいいわ」
「そう……?」
 また武器を下ろす。その後、ストラスさんの指示に従ってスコップで土をかき混ぜていった。最初は硬かったはずの土が、だんだん柔らかくなっていくのがおもしろい。
「よし、こんなものかしら」
 ストラスさんは武器を地面に突き刺すと、ぱんぱん、と手や服の土を払う。
「もうおわり?」
「ううん、まだあるわよ」
 ストラスさんは近くに置いてあった箱を指差す。その中には、黒い小さな入れ物がたくさん並んでいた。近寄って覗いてみると、ひとつひとつに土が入れられていて、真ん中からは小さな草が生えていた。
「これはね、野菜の芽。赤ちゃんなの。これから大きくなるから、もっと広いところに移し替えてあげるのよ」
 私は不思議そうな顔をしていたのだろうか、そんな風にストラスさんが教えてくれた。私は入れ物の一つを手に取る。
「どうしたらいい?」
「芽を抜いて、今耕した土に埋め直してあげて。根っこがちぎれないように、そーっと優しく、ね」
「わかった」
 私はしゃがんで、小さな芽をつまむ。これが野菜になるなんてふしぎだ。ストラスさんも隣にしゃがんで見守ってくれる。
「優しく抜く……あっ(攻撃力1400)」
「あはは、ちぎれちゃったね。見てて。私がお手本を見せてあげるわ」
 ストラスさんは笑って、入れ物を手にする。
「優しくつまんで、こうゆっくり……あっ(攻撃力1167)」
「……」
 私とストラスさんは顔を見合わせて、そして笑った。
「駄目だわ。私たち、こういう繊細なのは向いてないみたい」

 ☆

 その後やってきたグシオンちゃんにグシオンパンチをしてもらい、攻撃力が下がったおかげで無事2人は野菜の芽を移し替えることができましたとさ。おしまい。

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