トレンドとインフルエンサー

マーケティングリサーチの企画書や報告書に使う用語を再考しているが、今回は「トレンド」を取り上げる。
書いている途中で最近は「あまり使われない用語?」と気づいたがとりあえず書き上げた。
データの連なりが示す方向性、傾向をトレンドという。時系列データ分析から、世の中の趨勢まで幅広い意味で使われる。
<トレンド分析>
データ分析手法にトレンド分析がある。データの連なり、つまり時系列を眺めて傾向を発見し、その方向性を見定める。それがトレンドであり、それを将来に伸ばせ(外挿)ば、将来予測が可能になる。
実際は移動平均を計算したりして、循環変動(季節変動など)と不規則変動(誤差)を計算し、傾向変動(トレンド)を明らかにする。
マーケティングリサーチでの時系列データはパネル調査が典型である。
四半期、半期、毎年のような一定のインターバルで実施するベンチマーク調査もある。パネル調査やベンチマークはサンプルサイズや質問文・選択肢を継続させる(変えない)ことが要請される。
一方のマーケティングリサーチは観測(調査)時点が1時点だけのクロスセクション(横断的)データがほとんどである。
<トレンドはリサーチの契機になる>
マーケティングは継続性を重視する。今月だけ大量に売れる製品よりも数年間安定的に売れる製品のほうがマーケティングしやすい。
マーケティングマネージャーはトレンドデータをチェックして、何らかの変化の予兆をつかもうとする。それをしないと市場のトレンドから外れた誤ったマーケティングを続けることになり、修正ができない。
この変化の予兆の予兆くらいをマネジャーが感じたときにマーケティングリサーチが発生する。変化の予兆の「見える化」が目的になる。
この場合、企画、調査票作成時にトレンドデータをクライアントと共有しておかないとよい成果に結びつかない。クライアント側は既知で共有済と思い込んでいる場合があるので「しつこく」お願いする必要がある。
<流行、生活思想、トレンド>
時系列・トレンド分析は狭義のトレンドであるが、世の中全体の傾向、流れをトレンドと表現することがある。
この主語が大きいトレンドは流行と生活思想に分けられる。
流行はファッションが典型で、趣味、生活スタイルなどで「仕掛ける」人はいてもいなくても生活者の自主的選択が大きな流れ、ブーム、トレンドを作ることがある。
一方の生活思想は国連、EU、政府、宗教・政治団体、マスコミなどある権威が言い出して世の中をその方向に流れさせようとする。
だから、理念が必要で、そのためイデオロギー化しやすく、さらには陰謀論につながる危険も大きい。
生活思想としてはSDGs・多様性、LGBTQ、脱炭素など主語が極めて大きいものとていねいな生活、推し、など穏やかのものがある。
これらの用語はリサーチの分析レポートではなるべく使わないか、使う場合はクライアントの承認を得るようにすべきである。
<トレンドとインフルエンサー>
インターネットとスマホの普及が現在のマーケットの大きな特徴である。
いつでもどこからでも個人がインターネット。にアクセスできる状況ができている。ひところ、ネットワークの大きなハブを押さえればブームが起こせるという論があった。マルコムグラッドウェルのティッピングポイント論はハブを掴むと言い換えられると考えている。
ところが、ダンカンワッツがYahooのデータを分析したところ、ある特定の情報が特定のハブで大きな流れ(流行、ブーム)を作ることは観察できなかったということである。
インフルエンサーマーケティングはこのネットワークのハブを活用するが、ネットワーク全体に広がるようなハブ(インフルエンサー)は存在しないし、できないということである。
それよりもテレビCMのようにランダムネットワークの平均値に収束する性質を利用したほうがトレンドやブームは作りやすいのではないだろうか。
インターネットはスケールフリーネットワークなのでマーケティング的にコントロールできない。
インターネットはワールドワイドを標榜するが、影響はローカルに限定されるのかもしれない。

バラバシ『新ネットワーク思考』


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