ひとりのおしゃべり

我々は、FGIの最適な対象者人数は1グループ「4人」であることを突き止めた。(モデレーター入れて1グループ5人)
長いモデレーター体験、マジカルナンバー4±1(コーワン2001)、視覚性ワーキングメモリー容量は4個が限度、親密な会話集団の限界人数(ダンバー)などの知見を総合することで、対象者人数は「4人」が最適と結論づけた。今回はインタビューではない、自然な「おしゃべり」と人数について考える。
<内言:ひとりのおしゃべり>
心のなかで声を出さずにしゃべるということはだれでも日常的に体験している。
これは内言と呼ばれ、相手がいる場合もいない場面でも内言は起こる。
例えば、交渉ごとなどのときは、外言(声を出してしゃべる)とは違う内容を心のなかでしゃべっている。「いくらくらい値引きすれば契約するんだよ、あんたは?」と内言しながら「これが精一杯の勉強なんですよ」などとしゃべっている(外言)状況である。
ひとりごとは相手がいない場合の内言だが、声に出してしまうので内言ではなく、外言になる。声に出せない、言語化できない独り言が内言といえる。『おしゃべりな脳の研究』によると脳は常にだれかとうるさくおしゃべりを続けているらしい。
<ひとりのおしゃべり・内言・思考>
自分ひとりで考え事するときもこの内言を使っている。内言は周囲の雑音に邪魔されることなく集中して思考できる利点がある。
一方、内言は論理に飛躍が多く脈絡も乱れてすぐに止まってしまうことが多い。ひとりの考え事の多くは、最初のテーマとかけ離れた地点に行ってしまったり、「堂々巡り」に陥っていることに気づいて中止される。
もちろん、我々は言語を使って思考するが、内言による思考は言語化以前の言葉を使って思考しているのではないだろうか?
定性調査では、事前打ち合わせやインタビューフローを作成しているときに内言が自然発生している。
インタビューになれば、しゃべったり、聞いたりしているときに「次の質問は何だっけ?」というような内言があらわれている。
一方、対象者も発言しながら「早く終わってほしいな、もう!」というような内言を発している。
<おしゃべり・会話>
おしゃべり・会話は2人以上の参加で成立すると考えるのが普通である。人類は自己表現とコミュニケーションのためにコトバを発明したとされている。自己表現のための踊りや歌から生まれた説、コミュニケーションのためのジェスチャーゲームから生まれた説、毛づくろい(親密さの表現)から生まれた説、など言語起源論は多岐に渡るが、おしゃべり・会話が言語習得の第一歩である。(文字の発明は別ルート)
会話の分析から、我々は、話者交替のタイミング、1秒以上の沈黙の意味、今からしゃべるよとの信号「アー、うー」の使い方、流れを修復する「は?、え?」の発話などのスキルは教育されなくても習得している。
ふたりのおしゃべり・会話は、定性調査で言うと1on1インタビューに相当すると考えがちだが、実はリエゾンインタビューがそれにあたる。
リエゾンインタビューとは対象者2人が自然な会話をする様子をモデレータが観察・分析する方法論である。(時々、介入するが)
リエゾンインタビューは「質問者と回答者の分離を解消する機能」を持っているのである。これを研究することでFGIのモデレーション方法に革新を起こす可能性がある。
マーケティングインタビューでおしゃべり・会話をもっと活用したい。
  *『会話の科学 え?』:ニック・エンフィールド


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