対幻想を解明する
10年くらい前からだろうか、n=1分析の有効性が言われ、実例も多く出て来るようになった。たったひとりの分析が一般性を持つわけがないという統計理論からの非難は完全に無視である。ここで、n=2分析、リエゾンインタビューの可能性をさぐる。
<神は細部に宿り給う、またはフラクタル>
n=1分析の正統性を保証しようという理論はない。実施してみて「使える」ことがわかったから使い続けるということである。
文学、芸術の世界ではある作品ひとつがその時代を象徴したり、代表することはあるが、マーケティングは文学ではない(その要素はあるが)。
その芸術、建築の世界で「神は細部に宿り給う」と言われることがある。どんなに末端の、取るに足りない細部にも神の意思は実現している。
だから、細部(n=1)を掘り下げることで世界(全体)の構造が理解できるということになる。これはn=1分析の正統性を援護している。
さらに市場や消費者意識はフラクタル構造であるとの仮説を考える。フラクタルとは自己相似形と言われ、複雑な全体構造もどんな微細な部分の構造に全体像が現れることで、細部、つまり個人が持つ構造を解明すれば、全体構造を解明したことになるという考え方である。
<n=1は個人幻想、n=2は対幻想>
インタビューには1on1、ペア(ネクサス)、グループがあり、1人、2人、3人以上と対象者の数が違う。n=1分析は1on1であり、ペアインタビューは2人を対象にする。
インタビューとは対象が持つ「幻想」に迫るもので決して事実や現実ではない。
行動観察は対象者の「現実」を観察できるが、インタビューでは過去の記憶を聞くので事実ではなく個人の幻想を聞くことになる。
この個人幻想がある相手との関係性に触れた時、対幻想が生まれる。
(吉本隆明「共同幻想論」)
対幻想は相手との関係性(社会性、ネットワーク)の中で個人幻想とは別に立ち現れてくるのである。
個人幻想と個人幻想がある関係性を持つことで対幻想が生まれてくる。
この対幻想は個人幻想2つを合わせたもの以上の情報の豊富さを持ち、インタビューで明らかにできる。
その方法は今のところ、リエゾンインタビューしかないと考える。
<対幻想の創生とリエゾンインタビュー>
短時間に他人同士の関係性を対幻想に仕上げてもらい、そのプロセスを含めて観察インタビューする。
対幻想は人間的に深い関係(夫婦など)にあるペアの間に出来上がる幻想である。(n=2分析)
リエゾンインタビューに参加する対象者2人は他人同士であり、共通項はある商品のユーザーであることぐらいである。
もちろん、性・年齢は似た人であるが、初対面である。
このような条件下で商品や買い物の仕方について情報交換、会話をしてもらいながら対幻想といえるまでの意識の発展・変化を期待しないといけない。しかもモデレーターが積極関与しないので、対幻想創出の援助はできない。
現在のところ考えられる介入は2人に絵を描かせる、メタファー法をやってもらうの2つである。4月3日のセミナーでもこの方法を採用する。
*4月3日マーケティング症例研究会ではチェルシーの終売をテーマにn=2分析:リエゾンインタビューを行います。ぜひ、ご参加を。
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