”エタ”ーナル・ザ・カキカケノママホウチ3

メモから流用できるデータのサルベージを行うといくらでも出てくるカキカケの供養。

ルカード-卓上部のウィザード-

「ねえ羊さん」
 誰もいない部室。
 よくいう『たそがれる』主人公気取りで少し古い小説を読んでいると、彼女が部屋に来て言い始めたのだ。
 彼女の名前は【Suiren《スイレン》 Sornein】、名前からもある程度分かる通り和の国の人間ではない。僕にはインパクトが強すぎるくらいキラキラした金髪を、スマートにポニーテールにしてまとめており、皆と同じはずのよくある冬物ブレザーも同じくスマートな体躯に強調され、よく、つまりは美しく見える。
 みてくれでは完全に一流であるが、僕は少し彼女に苦手意識を抱いている。彼女は性格が悪いのである。若くて美しい女性によくある傲慢さとはちょっと違うようにも思えるし、もしかしたらモデルケースかもしれない。
「手伝ってほしいことがあるのですが」別に注目したわけではないが、いやにみずみずしい唇がそうつむぐ。
「僕に? 急用ならまあ」いいけど、と言おうとしたが、簡単に言ってはならないことだと思い直して、そこで口を閉じる。
 扉から一番近い椅子に座ると、カバンから深紅の四角のケースを取り出した。その時点で僕には彼女が何を考えているのか手に取るように分かった。わざとらしいな、と口から出かかったほどである。
「私が勝ったら、頼みますね」そして、ケースからは紙の束が現れた。これはつまり、カードゲームのデッキである。そう、ここは卓上部、見目麗しいSuirenも、そう目立つほうでもない僕【羊良太】も部員だ。
 毎度のことながら、そういわれるとテンションが上がってしまう、異常かな。
「遊勝負!!」

 僕らが今から始めるゲーム『LuCard』は40枚のデッキと30枚のマナデッキを用いて、1vs1で戦うカードゲームだ。勝利条件は初期Hp30を削りきること、もしくはデッキを0枚にしてカードを引けなくすること。
 コイントスでもダイスロールでもじゃんけんでもいいが、先手後手を決める。今回は僕が先手になった。
 ゲームの準備段階としてお互いにデッキから4枚、マナデッキから3枚を引く。そして先手のターンが始まった。
 このゲームでは先手に2種類のボーナスを選ぶ権利がある。カードを一枚余分に引くか、1マナカードをデッキから直接出すかだ、なぜなら先手とは言葉だけで、後手のほうがマナで先行するルールだからである。
 僕は手札を確認し、ボーナスを選んだ。僕のデッキは低速型黒青というゆっくり戦うデッキなのでカード一枚のほうが通常いいのだが、手札にちょうどよくコンボできるカードがあったので、山札から直接出す、通称<ワンスタ>を選ぶことにした。マナを置いてから、山札を探し1マナカード<唄雀草>を召喚した。とがめられても面白くないからなと思いつつマナを横に向ける。「<唄雀草>を召喚」
「へぇ」カードをにらんで集中していると、目の前の金色もそんなに気にならなくて実にカードゲーマーだという気分だ。
「じゃあ私は…」後手のボーナスでマナは二つ出ている。つまり、既に2マナ使用できる彼女は、あれだこれだと迷ってから1マナのカードを召喚した。「Eマナ1つで<メタリックQ-2>召喚です」
 特に注目すべきカードではないがキラキラしていた。レアリティだけ高い換金カードである。「僕が勝ったらそれくれよ、それで賭け成立」何気なくそういって、少し静寂が生まれて焦る。
「…」「いいですよ」その間に、彼女の口角が上がったような気がする。何か踏んでしまったのか、と思っている間にちょうどよく「エンドです」と言われ、流れるままデュエルを続けた。
「僕のターン」マナを一枚追加し、それの種類を確認する。それはM(魔力)マナで、最初のEマナと合わせてうまく引けた。「よしっ」
E1とM1を払って手札から<ウィザーズガーデン>を少し強めに(常識的な範囲で)場に叩きつけた。
ウィザーズガーデンは植物系のキャラクターに作用するフィールドカードで、2ターン目で植物と一緒に置かれると、少し厄介になるカードである。
「ふふふ、メタリックQ-2をコストに、これ発動しちゃいますね」おや、1マナで打てるカウンター行動なんてあったかな、と思って提示されたカードを見た。
「M1払って<電磁誘導>です、機械キャラクターを代償にすれば[カウンター]のタイミングでフィールドカードを壊せちゃうんです」ほほう、なかなか完璧なタイミングである。してやられたなとも思うが、ばりばりに直接的なメタカードを使ってきた彼女に恐れおののいた。

「いやはや参った参った」
数ターン続けるも、機械系キャラクターの自爆特攻で体力も育成したい植物も焼かれ、こうした戦法に有効なカードも引けずにボロボロに負けてしまった。
彼女の深紅のデッキケースにいつもは別の穏やかなランダムクソゲーデッキが入っていたはずだが、あれだけ苦手だといった性格の部分に目をつぶりすぎてたかな。
「では賭けの報酬として、今から二人で出かけましょう!」おいおい、それは他の部員たちに一言二言言われないか? 
しかも僕でなくスイレンがだ。彼女は自由奔放でよくわからないうえ、がちがちに対戦相手メタなデッキを使って僕をぼこぼこに打ち負かす性格の悪いやつなのである。 [ここまで]

-2-

禍々しい雷で化け物花が焼けて、目前から姿を消す。それを見た魔術師<Suiren>は勝ち誇って言う。
「それきりだったみたいですね!」
 彼女はトドメの魔法にわざわざと時間をかける。オレンジに光る魔法陣がゆっくりと展開され、その迫力に観戦者達は度肝を抜く。
 じりじりとした緊張が彼女に走る。たが数秒後魔法陣が安定してきたことをいいことに、表情に驕りをみせた。
「イービルフォール! これで私の勝ちだ!」

 大きく叫ぶと同時に魔法陣上の模様が回り、オレンジから黒紫色へと色を変え、更に中心の六芒星が大きくなり、全体のシルエットが円からギザギザした攻撃的なものに変化した。
 ふと自身を顧みると、失敗に気が付いた。これはいつもの癖だった。途端に魔法陣は輝きを衰えさせ、あっけなく消滅する。
 それと同時か少し早く、対戦相手の羊という男が待ったをかけた。
「それマナ足りてる?」
 あっけらかんに言い放った。決して派手な演出が嫌いなわけではなく、ルールという前提を守って欲しくてこうなっているだけである。自治中と言い換えてもいい、彼はそれだ。
「ん…、そうですね、これ忘れてました。<蛍の石>手札から発動してマナ出します、これで勝ちです。ゆるして」
 とびきりの演出をだめにしてしょぼくれながら、それでも勝ちに手を伸ばす一手をさす。短い謝罪はルールへ向けたものだ。
「いや許さん、それと蛍の石に<封印>発動して無効化」
「えぇ…一回の命乞いに二度命絶ってませんかそれ」
「おまえの命乞いが不正対象とっただけだろ、んで俺にターン返していいのか」
「はい…私の魔法陣返して」
 そして彼女<Suiren>にターンが返ってくることはなかった。新たに召喚された<桜林鬼>がフィールド<ウィザーズガーデン>により成長スタックを10も一度に得て、ほぼ全快のHPを吹き飛ばしたからである。
「対あり」
「あざっしたー………」
暴力的なコンボを決めてうきうきの羊良太と、とびっきりの光魔法『見せかけの魔法陣』を失敗してどんよりしているSuiren《スイレン》 sorneinが対比的な決闘直後の挨拶がすみ、観戦者たちがやっと茶々を入れる。
「それにしても派手な魔法だったねー」
「めっちゃんこ頑張って光魔法やってんすよ実は」
「なかなか文字回せる人いないよー、魔法陣文字回しで世界チャンピオン目指せるかもねー」
「それ本職さんでてきちゃううやつでしょ」
「魔術つかって金稼ぐ奴らはそりゃできるでしょうね」

 A世界にあるA高等学校に存在する卓上部。学校の一部屋を占領して楽しみたかったことはゲームだった。
 机を数人で囲んで、カードを並べて文字と絵と数字でにらめっこ。彼らは紙切れや人形にファンタジーと青春を見つけたのだ。

『luCard』
A世界で展開されているCCGであり、セカイ没入型ゲーム『IntheLame』のコレクターカード群のこと。
レアカードには魔法が封印されており、実際に一度だけ魔法を放つこともでき、違法な取引のまととしても注目されている。
そんな事つゆ知らず、現在卓上部で大流行中のカードゲームである。

【Suiren】のデッキ紹介
 <イービルフォール>2M(2の魔法マナ必要)
{さいころを振って奇数ならば相手プレイヤーに、そうでないなら相手が自分のモンスターから一体選び、それに5ダメージ}
さいころや運要素が絡んだカードで運ゲーするデッキを好む。現在そこそこ根が張る高価な運ゲーデッキを製作中で、よく『IntheLame』に潜りにいく。

【羊】のデッキ紹介
 <桜林鬼>4M[1](4の魔力マナと1の自由なマナで召喚する。) 攻撃力4/体力5
{ターン終了時に成長スタックを得る。成長スタック1につき攻撃力1を得る}
成長する植物カードたちで相手を追い詰めていくコンセプトのデッキを使っている。Suirenの次のデッキはこのタイプのコントロールデッキに強いため、デッキ作りをあまり手伝いたくないと思っている。(が手伝う) [ここまで]

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?