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アフガニスタンから撤退 --なぜバイデン政権はトランプ時代の政策を全否定しているのにアフガニスタン撤退は否定しなかったのか?

 タリバンが、電光石火のごとく首都カブールを支配し数日経過しました。米軍撤退に端を発したこの出来事。ただ、この出来事に関する疑問や、一部に誤解が蔓延していると思い、過去の米国など主要国の対アフガニスタン政策などの整理を試みました。

 ちなみに、この投稿をするきっかけがあり、自身ツイートに対するRTに以下の内容がありました。

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結論から言うと、米国市況にアフガン情勢はなどないと断言できます。
アフガン情勢は、安全保障はもとより米国経済にはほぼ関係がない。

 なお、アフガンの歴史ついて整理したノートも参考に・・・

アフガニスタン情勢に中国の影?

 米軍の徹底はトランプ前大統領の時から決まっており、20年4月にタリバンとの合意がなされた。

 その合意において、テロ組織との関係を持たないと約束している。しかし、将来にアルカイーダやイスラム国(IS)と関係回復する可能性は否定しないものの、今それを懸念と思う根拠はない。 

中国がタリバン政権を陰で支えており、一帯一路構想をより強力に進めることができ、以て中国の影響力が更に大きくなる。」

 一部報道に上記の内容・趣旨のソースがある。事実かどうか不明であるが、憶測に基づく報道であることが以下の内容から明確である。

華報道官の談話(関連部分を抜粋・省略)
「中国はアフガニスタンの主権、国内各派の意向を十分に尊重した上で、タリバンと連絡、意思疎通を維持、アフガニスタン問題の政治的解決を後押しするために建設的な役割を果たし続けている。」
王毅国務委員兼外交部長(外相)
「バラダル氏一行と天津で会談、我々はタリバンが各党派、各民族と団結し、国情に合った幅広く包摂的な政治的枠組を構築し、永続的平和実現にを希望する。」
更に、「タリバンは、中国との良好な関係の発展を望み、アフガニスタンの復興と発展への中国の参加を期待していること、いかなる勢力がアフガニスタンの領土を利用して中国に危害を加える事も決して認めないことを、繰り返し表明し、我々はこれを歓迎する。」

 つまり、中国国境を接するアフガニスタンにおける情勢不安は、中国にとって懸案事項であることを表明している。一部報道機関とはいえ、陰謀論を展開し秘密裏に繋がってとの憶測に基づく報道は根拠を欠く。ましてや、一帯一路を引き合いに出すことも見識を疑う。一帯一路構想の別名は

「中国・パキスタン経済回廊」(CPEC)

とも言われ、本構想で重要な国はパキスタン。事実、アフガンは終始構想外です。ただし、タリバンは20年前に原理主義に走り、人権侵害を繰り返した過去はあり、警戒は必要であるとの見解には同意できます。同時にパキスタンとの関係を緊密にすると言う事実があればかなりの懸案となる。

米国にとっての脅威はパキスタンであり、地政学的にも重要な国です

バイデン大統領が否定しなかった「アフガン撤退」

 本題です。バイデン大統領は、前政権の政策、とりわけトランプ前大統領の行った政策には徹底して否定しました。しかし・・・

米軍のアフガニスタン撤退は否定しなかった

 この疑問は意外と簡単に整理でき、結論を先に言うと「今、時代が変わりテロリズムとの戦いに区切りをつける」という国内情勢だからと考えることで整理できるのです。つまり、トランプは嫌いだが「国民が撤退すべき」と考えることへの否定は出来ない、そう考えます。
 米国は建国以来、常に負けることなく世界の覇権を握ってきました。しかし、テロリズムとの戦いにおいて勝利を掴むことは非常に困難なことでした。軍隊駐留に相当の費用を要するなど、武力で覇権を奪ってきた米国も少しずつ変化しています。その背景についてもう少し触れます。

まず、米国の覇権が決まったのは90年代である。

 出発点は「覇権が決まった90年代」になります。冷戦に勝った瞬間です。その「真の覇権を取る」これに至るまでの間で重要だったのは、約50年前のニクソン時代だと言えます。
 そのニクソン政権における2大敗北が要点となり、それらは1971年8月15日、1973年8月にそれぞれ端を発します。

① ドルショック
② ベトナム撤退

 特にドルショックは、見方を変えると実は今の米国の繁栄を説明できる「成功」であると考えることができます。

金兌換制を廃止「金からドルへ」

 それ以前は、「金」を持っている国が強い国。従って、金を多く持っている国の通貨は基本的には強かったのです。しかし、今や米ドルは基軸通貨であり、通貨においても覇権を奪った、と言いっても間違いではありません。そして、米ドルが基軸となるきっかけとなったのは、金兌換の廃止です。その当時はドルショックを引き起こし大失敗と言われました。が、今では米ドルを基軸通貨することのきっかけとなり、武力のみならず経済も覇権国家となりました。では、米ドルが基軸通貨になる要因についてです。
 一つ目は、グローバルな経済活動が活発になったことです。経済発展に伴い製造業が大きく発展し、そのため石油など資源需要も比例して増大します。そうすると輸出・輸入額が大きく伸びてきます。その資金決済を全てドル行うようにしました。輸出産品は米国企業は決済通貨の決定権をもち、容易です。しかし、輸入品はそうは行きません。そこで米国は、石油の決済をドルで行うようにしました。そうすることで石油の決済には米ドルが使用され、グルーバルな経済活動が加速する時代背景もあり、ドルの地位は向上しました。そして、石油のみならず国際商品のほとんどは米ドル決済となり、現在でも米ドル決済となっています。

 なぜ、円やユーロはだめなのか・・・石油購入するのは各国の石油会社です。一度米ドル決済で取引を始めると、他通貨に変更するわけにもいきません。なぜなら、各石油会社の財務部門「米ドル」を扱い慣れているからです。為替予約、入出金で多量の米ドルを取扱うことで効率化し、合わせて財務コストも低減できます。また石油市場の上下も激しいのです。従って、現業部門では「通貨を統一」することで採算計算を容易に作成できます。石油は世界中に需要があります。どこに売れば一番高く売れ、どこから買えば一番安く買えるかを日々チェックしてます。米ドル以外の通貨にすると、為替変動リスクを織り込む必要が発生し面倒です。

グローバル経済活動が活発化し冷戦に勝利

 ニクソンは、グローバル経済活動を活発にする政策も進めました。中国との国交正常化は進めたのは、グローバリズムを進めるための政策であったとされます。経済的にWIN-WINとなり仲良くしていく。その中で、米ドルを基軸通貨とした金融システムが生まれることになります。グローバル化と相まって、金融システムを発展させます。そうして、米国は経済力を背景とする覇権国家となっていきます。ベトナム撤退の失点回復もする必要からも、グローバル化を進めていき、世界経済の急激な変化のもと、ソ連はやむなく以下の2つの改革を進めることになったのです。

「ペレストロイカ」と「グラスノスチ」

 しかし、ソ連はその改革に失敗し、自ら崩壊することになります。その瞬間、米国は冷戦にも勝利したことになりました。
 グローバル経済を発展させることでソ連に対し「勝利」したとも言えます。ソ連は、米国の経済力にキャッチアップできず、そして米国はゴルバチョフに対し改革を強要し、遂に国家を崩壊させたのです。

 そうして、90年代までに米国は真の覇権国家となったのです。

ドルショック後の米国内で起こった変化

 70年代の米国はドルショックに加え、ベトナム撤退と相まって米国の威信が下落する状況にありました。特にドルショックの影響を受け、スタグフレーション的な経済状況となりました。
 ところで、ベトナム戦争はニクソンの前のジョンソン時代に拡大したのです。その戦争に対する予算増加を決めたのもジョンソン元大統領。その一方で、ジョンソンは公民権を法制化したことでも知られます。
 ケネディ暗殺事件により、急遽大統領となり、そして2期目を迎えた時には貧困対策にも力を注ぎました。そんなこともあり、「大砲かバター」と揶揄されたとのことです。というわけで、ニクソンもジョンソン時代の政策を引き継ぎました。貧困対策をする一方で戦争をする。それらにより国民に負担を強いる結果となります。そこにドルショックが加わり、スタグフレーション的な経済状況となります。

リベラルな米国の誕生?!

 70年代のスタグフレーション的な状況下で、特に70年代後半にはスタグフレーションがより加速しました。その状況下で、米国社会では大きな変化が生ました。「女性の社会進出」が加速したのです。
 スタグフレーションとなる前の米国の家計は、お父さん1人の働きでその全てを満たしました。が、70年代後半の経済状況ではお父さんの給与では不足し、奥さんも働きに行くようになりました。一方で公民権運動も活発な社会情勢のもと、女性の権利・主張が活発となりました。

リベラルな米国は、その時代に誕生・確立しました。

 そして、時代は進みソ連との冷戦が終結し、更にリベラル色が加速します。クリントン時代になり、米連邦政府の要職に女性進出を進めるなど、この政権を境に女性の社会進出は大きく変化し、リベラルな政策を全てやり尽くしてしまします。

米国の覇権国家へのこだわり

 WW1、WW2に勝ち、冷戦でも勝利し、敵が不在となる。米国にとって、戦争とは「民主主義」に対する脅威に立ち向かうこととも言えます。一方、民主主義を脅かす「テロリズム」に立ち向かうことは、新たな敵との対峙となりました。言い換えると、クリントン及びブッシュが行なったことは、更に強引に民主主義を進めること、でもあったと言えます。

 その後、ブッシュなどへ政権が引き継がれ、湾岸、イラク、そして今回問題の国である「アフガン」と侵攻し、より高い民主主義を貫く姿勢を強めて行くことになります。ベトナム戦争を含め、民主主義の敵に勝利することが覇権国家の使命であり、米国は建国以来これを貫いてきました。
 当時、テロリズムとは70−80年代において、中東(イスラエルとパレスチナとの間)での紛争であり、無差別殺人的なものを指した。その後、アルカイーダの出現、9.11が勃発し、アフガン侵攻の契機となりました。

 トランプ政権になり、米国内ではテロリズムとの戦いに区切りをつけようと、以前から行なっているグローバリズムを更に促進させ、つまりタリバンと上手く付き合い仲良く平和を構築することを目指す、このような戦略へシフトしてきました。従って、いつまでも紛争解決に武力行使をするのではなく、平和裡にアフガニスタンから米軍を撤退することを決めました。

米国で主役になるミレニアル世代とその考え方

 1990年代に生まれたミレニアル世代は、70年代の当時の「ベトナム撤退」における「敗北感」など全く知らない世代です。また、ミレニアル世代の特徴の一つに「特に何も感じない」がある。
 今社会の中心はミレニアル世代となりつつある。その世代は、90年代以前を知りません。70年代から米国が覇権を取るために行った戦略など、それら価値観を共有できる世代ではない。従って「覇権や威厳が多少低下しても良い」とすら思っている世代であります。そして政権運用上、それら世代の意見を無視できない事情もあり、そのような意見を無視出来なかったのでは、と私は考えている。

 ミレニアル世代は植民地や冷戦などの価値観をもってなく、70年代に端を発する女性の権利、黒人差別などの「敵」は知っている。冷戦や植民地の「敵」は知らない。従って、冷戦の敵より差別をする人の方が大きな「敵」であると考える世代である。
 昨今、宗教やイデオロギーの力が衰え、俗物的な無機的な社会になることが善なんだという発想になりつつある。更に、ディープステート(エリート)、つまりアメリカ特別主義(米国は単独でありナンバーワン)の人たちの力が衰え始め、更に中国との2極化が進むなかで、

・米国の秩序維持
・秩序な不要でグローバルな平和を望む
・いずれも興味なし、どうでも良い

など、ミレニアム世代に多いとされる共産主義に近い社会を目指す時代になりつつある。今回の撤退は、誰かのイデオロギーで進めた訳でなく、グローバリズムの中で女性進出、黒人差別、植民地、戦闘の敵などの覇権争いを知らない世代への引き継ぎとも言える。

 実はアフガニスタンに関して、バイデン政権内でもミレニアル世代の考えるような変化が起こっているのではと私は思う。トランプ前大統領を相当嫌っているバイデン大統領が「アフガニスタン撤退を撤回する」と判断せず、ディープステート系の人たちにとり「撤退は敗北」、その反対を押し切り撤退を決断した。その理由が、今後米国を担う中心世代であるミレニアル世代の考える世界観への変化が政権内で起こっている。

 であれば今回の判断は納得できる。