数理モデルの作り方

こちらは創薬アドベントカレンダー(Wet)22日目の記事です。この記事は医薬品開発における数理モデルの活用・捉え方に関して私見を述べたものです。現在数理モデルを活用する重要な考え方として、MID3(Model-Informed Drug Discovery and Development)があります。まずは、この考え方について簡単に説明したのち、数理モデルに関して私の考えを記載します。

1.MID3について

MID3(Model-Informed Drug Discovery and Development)とは、簡単に言うとモデルから得られた情報を医薬品開発における意思決定に活用することで、医薬品開発の成功確度の向上、および効率の改善を目指す動き・フレームワークのことを指します。きちんとした定義は下記論文に掲載されています。フリーアクセスで読めます。長文ですが気になる方は一度読んでみてください。

2.数理モデルについて

数理モデルといってもピンとこない人が多いと思います(私がそうでした)。定義を確認してみましょう。下記リンクを参照すると、数理モデルとは、”モデル”を”数式”で表したものであるということがわかります。ではモデルとは何でしょうか。モデルとは、現実世界で起きている事象を人間が理解できるように簡素化した表現であることが読み取れます。したがって、数理モデルとは、「人間が、現実世界の詳しく知りたい事の重要な部分(簡素化されたもの)を、数式で表現したもの」と考えることが出来ます。このように数理モデルを作成する人の関心事次第で、モデルの中身や表現は全く異なるものになります。医薬品開発でも、その目的によって数理モデルは様々な表現をとります。

3.数理モデルの作り方 ~PK-PDモデルを例に~

今回はPK-PD(pharmacokinetics - pharmacodynamics)を例に、数理モデルについて解説していきます。PK-PDの定義は下記の通りです。

つまりPK-PDとは化合物を投与したときの体内での動態と薬効との関係を数式で表現した数理モデルとなります。この場合、数式は作成者が考える ”PKの重要な部分” と ”PDの重要な部分” によって決定されます。この "重要な部分" はこれまで取得してきたデータ(実験データなど)やモデル作成の目的によって作成者が判断します。言い換えると、作成者は取得データをもとに「重要な部分は○○である」といったある種の仮説を立て、その仮説をもとに数式に表現する作業を行います。PK-PDモデルの場合は、"PK" と "PD" の両方においてデータをもとに仮説を立て、モデルを作成します。逆にモデルが上手く作成できない場合、"PK" と "PD" のどちらかまたは両方の仮説が間違っていることが想定されます。したがって、PK-PDモデルの作成には"PK" と "PD" に関して知識を有し、それを数式に起こし仮説と現実のギャップを認識し数式に反映させる力が求められます。

4. 数理モデルの未来 ~QSPを例に~

現在医薬品開発ではQSP(Quantitative Systems Pharmacology)が注目されています。QSPをすごく簡単に言うと、先ほどのPK-PDモデルのPDモデルがメカニズムベースでかなり詳しく数式で記述したモデルになります。QSPの医薬品開発領域に関する期待は下記の報告がまとまっていると思います。フリーアクセスです。またリンク先の本文中でも触れられていますが、QSPのオープンなプラットフォームが作成されています。

個人的にはgenomicsデータとQSPを組み合わせた時、臨床開発試験におけるマスタープロトコルの存在もあって、創薬開発の成功確度と効率化が進むのかなと思っています。なおgenomicsデータのモデルへの組み込みには、機械学習手法の活用が有用ではないか、という論文報告もあり今後の進捗に期待しています。

5. 最後に

数理モデルは作成者の目的に応じて現実世界の関心事に関して仮説を立て重要な部分を抽出し数式に表現したものになります。なお簡単に数式に表現、と言ってきましたが、その表現には微積・線形代数・統計等の知識が必要だと思います(無くても見よう見まねでは書けます)。実際に作ろうとすると色々な知識等は必要ですが、モデル活用は昨今のデータ収集と利活用が進む中でさらに進んでいくと思います。数理モデルの更なる活用が医薬品開発に貢献できると信じて今後に期待します。





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?