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中華製EVに苦戦するテスラ

Tradingeconomics

年初から7割下落したテスラ株。今夏、250ドル付近での反転期待で買った20年組の投資家は多いだろう。そこから200ドルを割り、難平地獄または塩漬けになってしまった人が多いのはこのチャートから容易に想像できる。

現在は化石燃料高騰、エネルギー関連企業の逆襲が続いているので新エネルギー関連は低迷が続いている。テスラに期待している投資家はもう少しだけ我慢する必要がありそうだ。具体的には難平ロンガーが焼かれる下ヒゲを確認するまでは買いたくはない。

FRBの金融引き締めにプラスして中国のゼロコロナ政策。テスラの上海ギガファクトリーは間違いなくゼロコロナ政策の影響を受けることとなったが、実はテスラ株の下落の要因はそれだけではないことが伺える。

まずはイーロン・マスクのTwitter買収。これは実際はそこまでテスラの業績に影響はないと思われるが、投資家の間では不安要素に繋がったとされている。

それよりも気になるのが中国市場での中華製EVの台頭である。

cnevpost

12月の4週の中国市場での新エネルギー車の保険登録台数の速報値だが、BYDの圧倒的な数字とその他の中華製EVテスラ猛追がよく分かる。(テスラは著しく落ち込んでいる)

中国市場でのテスラは2022年夏に上海ギガファクトリーを改造し、年間100万台規模の生産が出来るようになっている。これにより、オーストラリアやニュージーランド、シンガポールや日本などの右ハンドル市場にもModel Yで参入することが可能になった。

しかしながら、圧倒的ガラパゴス市場である日本では販売がなかなか進まず、そして最重要市場である中国国内市場でのシェアはご覧の通り伸び悩んでいる。

これはゼロコロナ政策というよりも、BYDが独走体制に入ったことにより、消費者の中国国産メーカー意識というものが高まった可能性を指摘したい。また、電池の最大企業であるCATLのお膝元にある中華製EVのコストパフォーマンスがテスラ車に匹敵するレベルになってきているということも仮説立て出来る。

もちろんテスラ車に詰まった技術というのは凄まじいものがあり、これを日本メーカーや新興EVメーカーが真似するのは仕組みを分かっていても出来ないと思えるものばかりである。

しかし、EVの性能を最も左右するのはバッテリーマネジメントシステムであり、CATLはもちろん、BYDのBMSも相当なレベルの高さである。つまり、中国電池メーカーがいる限り、中華製EVとの性能差別化は相当難しくなる。

この次のステージに移行した場合はEVのハード面ではなく、ソフトウェアとそこに付随するサービスの戦いになってくるのだが、そうなってくると米国企業のテスラがBYDに勝るサービスを展開するのはなかなかに難しい。

中国という国のIT最大手はテンセントであり、WeChat無くして生活は成り立たない。物流では日本で無双しているAmazonも中国市場には入っていけていない。

こういう点からも、中国市場ではやはり中国系企業が強く、ソフトウェアと連携したサービスの展開という次なるステージを考えてみても、テスラの中国市場での苦戦と投資家の不安いうのは納得できるものである。

中国市場の重要性

FOURIN

中国自動車市場は2021年に前年比3.8%増の2,627万台(出荷ベース)と、世界でも最も重要な自動車マーケットである。NEV(新エネルギー車:EV+PHEV+FCEV)は同2.6倍の350.2万台と大幅に増加し、自動車出荷台数全体に占める割合は13.3%に達するまでに増加。

2016年時には世界のEV保有台数は160万台であったが、2022年には2,500万台にまで膨張しており、その要因が中国市場なのは明白である。

Bloomberg

中国は国策として2035年までにガソリン車とディーゼル車の新車販売を禁止するとしている。電池の生産が追い付かないのでしばらくはハイブリッド車はOKとも言われているが、世界で最もEVを推進しているのは紛れもなく中国である。

これは様々な理由があるが、シンプルに、自動車のサプライチェーンを握れば中国14億人の雇用創出に繋がるからである。そしてもう1つは、中国がレアメタルや電池技術、再エネに必要な資源やメーカーが圧倒的に強いという点である。

GWEC

昭和の化石のような半導体である太陽電池はもちろん中国強し。風力発電のタービンメーカーもご覧の通りで中国無双。ヴェスタス、シーメンスガメサ、GEという欧米企業以外はほぼ中国メーカーだと言って良い。

「中国は原発だらけだし石炭火力も未だに大量に使っている」という批判はあるものの、こうした新エネルギーの勢力図を見る限り、習近平が化石燃料にこだわるとは到底思えないし、だからこそEVへの補助金政策などを一生懸命にやっている。

つまり、このまま行けば中国は原発をベースロード電源として安定発電をし、電力ひっ迫の時間帯は再エネ+蓄電+EVで補うという新たなるエネルギー覇権を握ることは容易に想像できる。自国で成功した近代型エネルギーモデルをアフリカに輸出することで外貨を稼ぐことも可能。もちろんこれは半導体が最後の鍵になるので日本が半導体製造装置を中国に輸出し続けることで成立する。そして出来上がる今までの中国とはまた違った形の社会主義国家。

このような背景があるからこそ、電池とEV(NEV)に関しては今後も重点政策から変わりようがない。塾やIT、不動産セクターのような制裁を習近平が行うことは考えにくい。EV推進が止まることはない。

だからこそ、EVにとっての中国市場というのは非常に大事なマーケットであり、ここでの成功が世界市場での成功に直結する。

テスラの中国市場攻略の鍵

テスラ車というのは富裕層向けのEVである。しかし、さらに販売台数を増やすのであれば価格が100~300万円程度の軽EVの投入が必要不可欠である。宏光MINIのような50万円のちょい乗りEVが中国市場では人気であり、Good Catのような女性向けのEVも登場している。

つまり、テスラに関しては噂されているModel2の販売をしてシェアを拡大していくことが必要である。

300万円弱で航続距離が600㎞以上という日本人とっては異常なコスパを誇るモデルを発売するという噂も出ている。発表時点では株価は上昇するだろうが、問題はBYDや中国版テスラと言われるNIOとの勝負である。こればかりは当方には想像しようがない世界線なので、Model2の発表とその性能の確認を待つしかない。

電池はパナソニックのNCM(ニッケル・コバルト・マンガン)バッテリーではなく、CATL製のLFP(リチウム・鉄・リン)バッテリーを搭載すると思われる。これはリン酸鉄系と言われる電池でコバルトフリーなのが特徴であり、安価に量産が出来る。デメリットはエネルギー密度の低さであるが、Cell-to-packというセルの直接搭載方式を採用することで大量にLFP電池を敷き詰めることができる。おそらくはこの電池で勝負するのだろう。

テスラの発表待ちの新車種と言えば「サイバートラック」があるが、これはアメリカで市場拡大が続いているピックアップトラック市場向けの商品となる。当初の発表ではデザインが独特で万人受けするようなモノでは無かったが、実際にどのようなトラックを発売するのかは未だ不明。

水上でも使用できるボートにもなると言われている。確かにEVは水に強い。内燃車と違って豪雨時にも止まらずに帰宅することができる。しかし、サイバートラックが事故なく水上運航できるかは分からないし、実績が増えるまでは新しいモノ好き以外はしばらく様子見をすることをオススメしたい。

Tesla

テスラの場合はアルミボディを一体型でプレス成形するという恐るべき製造プロセスをギガファクトリーに構えているが、サイバートラックの生産となるとまた別の金型が必要になる。そこでイタリアのダイキャストメーカーであるIDRA社に特注し、テキサス工場にサイバートラック専用のプロセスを組むとされている。試作や検査などがスムーズに行けば来年2023年の冬か2024年の春くらいから販売開始になる気がしている。

Model Yの圧倒的スペック

Tesla:Model Y

ここまでの記事を読むとテスラが落ちぶれている印象を受けるかもしれないが、依然としてテスラのEVは圧倒的な性能、コストパフォーマンスを誇っていることは記載しておく。株価は下がっているが反転するときはそのうち来るだけの実力がある。

エントリーグレードでも航続距離400㎞程度であり、ソフトウェアのアップデートや独自の急速充電器であるスーパーチャージャーの利便性の高さを考えると現在発売されているEVの中では最も優れているEVの1つと言うにふさわしい。

やはりギガファクトリーでのアルミ一体型成形やパナソニック、CATL製バッテリーの大量確保、バッテリーマネジメントシステム、テスラバルブと呼ばれる独自設計の優秀さ、空気抵抗の低さによる電費の良さなど、あらゆる技術面でレベルの高いEVとなっている。

日本という充電インフラ脆弱国家では今後もトヨタのハイブリッド車に乗ることをオススメするが、もしも太陽光パネル付きの一軒家で夜間充電できる家に住んでいるのであれば、次の車はテスラModel Yを購入するというのも選択肢に入るだろう。

しかしこれは2022年末時点での話であり、ここからGMやフォード、ルノーやVWなど中華製EVメーカー以外のプレイヤーも本気を出してくることから、テスラの成長率が今後どうなるかは分からない。EV戦線は日本人が思っている以上に熾烈を極めている。

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