VR専用アニメ制作ツール「AniCastMaker」(現RiBLA Studio)1万字レビュー
【重要な追記】
2021年10月1日にAniCastMakerの名称が変更になるとの発表がありました。
AniCastの商標は開発を担当するXVI社のものですので、名称変更やリリースを読む限りでは同ソフトはXVIの手を離れるものかと思います。
本記事は残りますが、後半部分に書いた今後への期待などは意味のないものとなる可能性が高いので、そのつもりでお読みください。
また、投稿されていた動画も一部非公開となったため、成立していない部分もあります。ご了承ください。
開発に携わった皆様お疲れさまでした。
皆さんこんにちは!今回は4月16日にOculusQuestストアにて発売されたVR専用アニメ制作ツール「AniCastMaker」について書いていきたいと思います。
タイトルにはレビューと書きましたが、気付けば1万字を超える長文となってしまいました。単純にソフトのレビューだけ読みたいという方は、ストアレビューや専用タグ「 #AniCastMaker 」を付けて投稿された感想などを参考にしてみてください。
手軽にアニメーションを作れる次世代ツール
まず前提となる知識が全くない方向けに、AniCastMakerというソフトがどういうものなのか説明すると、公式HPには
AniCast Makerは、VR空間にスタジオを作り、演技、カメラ撮影、舞台設定など、様々な役割を1人で行うことで、最大15秒の短尺アニメを制作できます。
制作した映像をSNSにアップロードし、視聴者から反応を得ることもできます。
と書いてあります。
こちらはリリース1週間前に出たAniCastMakerのPVです
(なぜか旧型機のQuest1が使われている点が気になるところ…)
正直、公式の説明やPVだけ見てもちょっと分かりづらい部分があると思いますが
AniCastMakerは
メインモードの「神の視点」で上空から舞台やキャラクター、アイテムの3Dモデル、カメラ、照明、ファンなどを設置・調整でき
アクターモードに切り替えると、設置したキャラクターの中に「演者」として入り「一人称視点」からキャラに動きを付けることができます(※メインモードで、用意されたプリセットのモーションをキャラに付与することも可能)
カメラモードでは演者ではなく「カメラマン」として、こちらも「一人称視点」から手に持ったカメラを動かして撮影することが可能です。
こうした神視点、演者視点、カメラマン視点をシームレスに切り替えながら、1人で複数の役割を担当してアニメーション制作ができるというわけです。
「【Unite Tokyo 2019】VRアニメ制作ツールAniCast!」スライドより
(※画像はPC版で、Quest版は細かい撮影処理機能は今のところありません)
Unityなど映像制作に使われるソフトの知識がない人でも、一人で、バーチャル空間上で直感的に作品作りができるため、頭の中にある「アイデア」を「形」にするまでのハードルが低く、リテイクを前提とした作りのためトライ&エラーもしやすいのが特徴です。
2019年に出されたAniCastMakerの紹介PVを見てもらうと、このソフトが何を目指して作られたのか、よくわかると思います。
AniCastMakerの作例・作品(PC版含む)
公式が作例として掲載している動画
一応補足しておくと、複数のカメラから出力されたいくつかの動画をPC側に読み込んで別ソフトで編集していると思われます。(15秒以上の動画はQuest単体では作れません)
人気Vtuber「おめがシスターズ」がAniCastMakerを題材に出した動画
※ぶっちゃけ公式の説明やチュートリアルを見るより断然分かりやすいと一部で話題です
ユーザーが投稿した作品たち
片方のアバターに動きを付けた後、それを動かしながらもう一方のアバターの動きを記録するということができるため、それを活用した作品もいくつか投稿されています。
ちなみにAniCastMakerではマイク入力でモデルに口パクをさせることができますが、音声は録音されないため、声を入れるには動画をPCに移動させて編集する必要があります。
参考までに、撮影・編集も含めAniCastMaker以外のツールは一切使わずに制作された映像も紹介しておきます(※これはPC版のもので、Quest版はアプリ内編集を含めていくつかの機能が制限されているようです)
投稿当時、女子高生だったVtuber東雲めぐがツイッターに投稿したこの6秒の動画は、PC版AniCastMakerによりたった10分で作られたそうです。
この動画は現在までに約4000RT、1.3万いいねを記録。人気アニメ「スレイヤーズ」「灼眼のシャナ」シリーズの監督を務めた渡部高志氏から認知されるきっかけにもなりました。
※ちなみにこの東雲めぐは、それまで個人で開発されていたソフト「PlayAniMaker」が「AniCast」として商用化されるきっかけとなった人物ですが、経緯を書くには長すぎるため、詳しいことはこちらの記事を見てみてください。
プロが同ソフトを使った事例としては
人気VRアドベンチャーゲーム「東京クロノス」の柏倉晴樹監督が同作のPV制作ツールとして使用。
従来なら3人体制で2週間ほどかかるアニメーション映像を、柏倉さん1人だけで1日半で作ることができた、と後の講演で明かされています。
また、実証実験としてフルリモートかつ6人という少人数で7分弱の短編アニメ作品を制作した事例も。
監督へのインタビュー記事↓
記事を読むと分かりますが、TVアニメや映画といった高コスト、高品質が前提の作品制作はともかく、販促用のPVや短編アニメといった分野では特に力を発揮するツールとされています(少なくとも企業向けのPC版AniCastMakerは)
リリース発表時に一番大きかった落胆はVRM非対応
さて、ここから具体的にAniCastMakerについて感じたことを書いていきますが、おそらく今回のQuest版に不満を持つか持たないかは、任意のキャラクターモデルを扱える…と思っていたかどうかも大きいと思います。
Clusterやバーチャルキャストといったバーチャルプラットフォームでは、手軽にアバターをバーチャル空間に持ち込むため、「VRM」という人型3Dモデルを扱うファイル形式に対応しており、AniCastMakerでも採用されることが期待されていました。(実際、AniCastのベースであるPlayAniMakerはVRMに対応しています)
発表直後のツイッターを見ると
といった感想が多くみられ
発売後のストアのレビュー(mizutamaxさん)でも
自分のキャラを入れられなかった
既存のデータセットのみだったとこが残念。
撮りたいのは自分のキャラなのに!
といった意見が出ています。
さらに、発売日から約2日間で17本の動画を投稿したユーザーが書いたレビュー記事では、直感的な操作や制作の手軽さなどの利点を高く評価する一方で
現状「VRMファイルやGLBファイルなどを取り込んで制作する、というような使い方は想定されていない」ことが、「既成作品の二次創作という壁を超えられない」原因となっていると指摘。今後、(Quest版)AniCastMakerがより使えるものになるためには、根本的なコンセプトの変更が必要になってくるのではないか、という厳しいコメントがありました。
前述のおめがシスターズの動画でも、要望としてVRMへの対応が言及されていました。2人は過去にも多くのVR関連動画を出しており、特にレイさん(青い髪の方)はVR通のVtuberとして知られています。
引用元→https://www.youtube.com/watch?v=qOEG_SUrZls
実は示唆されていたリリース時のVRM非対応
SNS上やレビューでは落胆するユーザーが多かったVRM非対応ですが、実は2020年12月に行われたxR開発者・クリエイター向けカンファレンス「XR Kaigi2020」での講演で、AniCastMakerを手掛けるXVI社の代表・GOROman(近藤義仁)氏が
「(Quest版は)もちろん制約も沢山あります。例えばですね、PC版で作っていたポストエフェクトのような処理、カラーグレーディング(色彩補正)ですとか、被写界深度のような処理はなかなかこのスタンドアローン機では難しい。いずれ解決したいと思っていますけれども、現状はまだ対応しておりません」
「それにまだ自由に皆さんのアバターですとかキャラクターを入れる機能はありません。ですがこういった問題は一つ一つ解決して、ファンアニメを作れる世界…そういったものを我々は構築していきたいと思っています」
と語っており、VRM(あるいはそれに準ずる)機能は少なくともリリース時には実装されないことが示唆されていました。とはいえ、非開発者の人々が目にするようなカンファレンスではないため、一般的なユーザーは発売直前に非対応ときいてガックリきたという印象です。
XR Kaigi2020での講演は↑から視聴可(リンクはGOROman氏のまとめ部分から
上記の動画を見ればわかりますが、プリインストールのモデルはXVI社のエンジニアによって細かい調整が入っており、商業ベースの品質を前提としたVRM対応が現段階で出来るのかという問題もあります。(AniCastMakerは制作ツールであり、バーチャルキャストやCluster等のSNS寄りのソフトとはその点が異なる)
個人的にユーザー側の不安や不満が大きくなっている原因はリリース時にVRMが非対応だったということより、今後対応するかどうかというロードマップが公式から一切提示されていない事ではないでしょうか。GOROman氏本人はVRM機能の実装を目指したいというメッセージをこの講演で発していますが、公式では現在に至るまで出ていません。
ただ、VRM対応が期待できる要素として、GOROman氏らは2020年11月末、同規格の策定・普及を目的とした「一般社団法人VRMコンソーシアム」のセミナーに登壇、VRMとAniCastMakerを絡めた講演を行っています。
また、提携先であるエイベックス・テクノロジーズは同コンソーシアムの正会員であり、会員一覧にVRM関連の機能やサービスを提供している、Clusterやバーチャルキャスト、pixiv社などと名を連ねています。
今後はゲーム・アニメのキャラが使用可能になるが…
VRMによる任意の3Dモデルは現状使えないAniCastMakerですが、今後はプリセットモデル2体に加え、コラボアセットとして人気ゲームやアニメ、Vtuberのキャラクターモデルや周辺素材が販売されます。
キャラクター+周辺素材は
・ライザのアトリエ 〜常闇の女王と秘密の隠れ家〜
・東京クロノス
・映画大好きポンポさん
周辺素材のみのコラボは
・SSSS.GRIDMAN
・東雲めぐ
となっています。
「東京クロノス」は過去にAniCastMakerでPVを制作、「東雲めぐ」はAniCastが商用化されるきっかけを作ったVtuber、アニメ映画「映画大好きポンポ」さんはAniCastMakerを採用しているバーチャルシンガー・花譜が挿入歌を担当するなど、同ソフトに縁の深いコンテンツが参加しています。
が、今年6月公開予定のポンポさんと現役で活動している東雲めぐはともかく、ライザのアトリエ1、SSSS.GRIDMAN、東京クロノスはそれぞれ今もシリーズ作品が出ている人気作品ではあるものの、発売や放送自体は2018~2019年と若干古かったりします。
また、コラボアセットの発売時期は未定、価格も未発表となっており、VRソフトとしては安くはない2990円(大ヒット作Beat Saberと同価格)に加えてどの程度の追加投資が必要なのか、今後どれだけ待たされるのかもわかっていない状態です。クロノスとライザはそれぞれ3体のキャラクターが登場するため、あまり安くはないと予想しています。
さらに言えば、まだ詳細が分からないポンポさん以外、登場予定があるものは全て女性キャラであることも、一部ユーザーからの不満を呼びそうな気がしたりします。
ナゾの動画出力「15秒制限」
VRM非対応に次いで不満が多いように見える要素は、出力できる動画の長さが15秒に制限されていることです。
ベースとなっているソフト(PlayAniMaker)にはこうした制限はないので、15秒という話を聞いた時に考えたのは
「コラボするキャラクターのイメージ保護のため、配信行為などに使わせたくないのでは」ということでしたが
発売日の4月16日に放送されたWBSの「トレたま」にて、AniCastMakerが紹介された際の説明は「(15秒は)初心者でも簡単に作れる尺だから」というものでした。
であるのであれば、無制限は無理でも30秒、1分などといった尺の長さをユーザー側がある程度選択できてもいいのではないかと思ってしまいました。
ストアページにbansamaさんという方が投稿した英語のレビューでも
This has the potential of doing so much good for the VTuber scene. But it needs the 15 second time limit to be removed. Honestly, that's far too short anyway. Let us set the time limit to a maximum of 10 mins (preferably, no limit at all)
と評価自体は4つ星ながら15秒の尺は短すぎるという意見が述べられています。
少なくとも公式で「15秒である理由」が全く説明されていないことには問題を感じます。(ユーザーからすると15秒制限に対する納得感がゼロ)
プリインストールモデル「Jane」について
AniCastMakerでは今後提供されるコラボアセット以外に、最初から使えるプリインストールのモデルが2体用意されています。DNP(大日本印刷)「FUN'S PROJECT」のイメージキャラクター「ファンズちゃん」と、おそらく今回AniCastMaker向けに新規で作られたオリキャラ「Jane」です。
Janeのキャラクター原案を担当されたshirone氏は、花譜などをプロデュースする神椿スタジオと業務提携しているイラストレーター。カンザキイオリ氏や花譜のCDパッケージ、MVイラストなども担当されているので目にしたことがある方も多いかもしれません。
私もその繊細で憂いのある絵柄は好きですが、東雲めぐや輝夜月、マシマヒメコ(サンリオ)、あすかな(ジャニーズ)といったこれまでAniCastに関わってきたキャラクターの生き生きとしたイメージとは「真逆」に感じました。
AniCastLive(配信向けAniCast)による東雲めぐとマシマヒメコの配信
AniCastLiveによる輝夜月の配信
バーチャルジャニーズこと「あすかな」の配信
Janeのデザインやモデルのクオリティは非常に高いですが、「死者」という要素がモチーフのキャラクターは少なくともプリインストールとして出すモデルには適さないのではという印象を受けました。
キャラクターを生き生きとさせるための工夫
少し話がそれますが、GOROman氏らがAniCastを語る際「生き生き」というキーワードは結構出てくる言葉で
AniCastLiveの採用実績ページでも
従来のモーションキャプチャー撮影に必要だった広いスペースや大掛かりな機材のほか、エンジニアのバックアップなどの要素をVRの技術で代替することにより、誰でも手軽に、生き生きとしたキャラクターの姿をリアルタイムで発信することができます。
という表現が使われています。
GOROman氏らが2018年に登壇したUnite Tokyo 2018での講演「AniCast!東雲めぐちゃんの魔法ができるまで」ではその工夫、こだわりポイントなどが明かされています。(※以下の映像・画像は下記動画から引用)
まず一番分かりやすいのはXVI社のクリエーターたちが、モデルに「魂」を入れる前と入れた後の比較動画です。
入れる前
入れた後
人形的な動きから人間に近い動きになったのが一目瞭然ではないでしょうか。
この講演によれば、この違いを実現するために主に3つのポイントに力を入れているそうで
目の表情に関しては、一般的なモデルが単純に眼球だけが動いていることが多いのに対し
AniCastはまぶたなど目の周辺の筋肉も連動するように調整されています。
口パクについてもアニメで使われる「3コマ打ち」の要素をリップシンクに取り入れており
感情表現も、単に悲しみ→喜びといった様に切り替えるのではなく、そこに至る流れまでを意識したセットアップが行われているそうです。
また、こうした生き生きとした表現だけでなく、見る側が「キャラクターが実際に生きていると感じる」ようなプレゼンス(実在感)を確保するために細かい調整が施されているそうです。
私は彼女の配信を約3年間見ていますが、プレゼンスが失われた瞬間というのはこれまで数えるほどしかないと思います。
ここまで説明してきたように、AniCastはキャラクターに魂を吹き込むためのこだわりがつまったプロダクトなわけです。
チグハグな初期モデルやアセット
こうしたことを踏まえると、私は「魂のない死者」で感情に乏しいJaneのデザインを発注し、Goサインを出した担当者が、AniCastというツールの歴史やコンセプトを十分に理解していたのかという疑問を抱いてしまいました。(イラストレーターに罪はないと思います)
また、マーケティング上、初期モデルによって、VtuberやVRに興味を持つ購入者予備軍からの注目を集める手もあったはずです。例えば元祖Vtuberとしてライト層を含め高い知名度を誇るキズナアイを手掛けた森倉円さんや、AniCastを採用していた輝夜月をデザインされたMika Pikazoさん、またはそれに準ずるイラストレーターに、(明るいイメージの)キャラ原案を依頼するといった選択肢もあったように思いました。(もちろんスケジュールやコスト、政治的な問題等もあるとは思いますが)
ほかにも、初期2体のキャラクターはキャラの生まれた背景の違いからか、頭の大きさや頭身が異なり、同じ画面にそのまま置くと違和感が出てしまい、より自然に見せるためにはファンズちゃんを後ろに下げるなどの工夫が必要で「ストレスだ」という声も私の周囲ではあります。
2体をカメラから同距離に立たせた場合、上のような比率になります
さらに言えば、プリインストールモデル2体がファンタジー寄りの衣装・デザインであるのに対し、初期から用意されている背景アセットは自宅や学校、駅、ファミレス、日本家屋と、日常的なシーンばかりなためキャラと背景がかみ合わず、結果「寄せ集め感」が出てしまっていると思います。
色彩補正機能などがあれば違和感を軽減できたかもしれませんが、Quest版ではスペック上の問題から削られてしまっています。
前述のように、AniCastは東雲めぐに代表されるようにプレゼンスをいかに確保するかということに力を注いできたソフトであったため、こうした違和感は非常に残念です。
全体に漂う「説明不足」「未完成感」
ソフトを立ち上げると、まずチュートリアルを見ることができますが、これを全て通しで見たとしても、実際操作してみると「?」マークが頭に浮かぶ部分があったり、そもそも案内がないものも結構あり、説明不足を感じました。
操作については公式HPのマニュアルやチュートリアルのページ、あるいはおめシスの紹介動画を見ることを強くお勧めします。
UIについても、よくできてはいるものの細かいところでもたつく場面がそこそこあり、こちらもストレスでした。
AniCastの持つ1人で直感的に手軽にアニメーションを制作できるというコアの部分は「流石!」という感想ですが、これまで述べてきたような制限やアプリ内チュートリアル、UIの詰め切れていない部分など、ソフト全体から調整不足や「未完成感」を感じてしまいました。
今後のライザコラボなどで興味を持ったライト層が現在の仕様で扱いきれるのかという不安と、各種制限によってコア層からも距離を取られる現実がこの先待っているような気が少しします。
↑バーチャルキャストやVRChatと比較するコア層のコメントも
積極的とは言えないプロモーション活動
ここまでソフト自体について書いてきましたが、販売のためのプロモーション、マーケティングについても、積極的とはいえないと個人的には感じています。
発売に前後して実施されたプロモーションとしては
・声優などとして活動する前島亜美さん(エイベックス・マネジメント所属)が、公式PVに出演。
・5,000円分のAmazonギフト券が当たる動画投稿キャンペーン https://anicast-maker.com/news/detail/11
・WBS「トレたま」での紹介
といったことが行われています。
(おめがシスターズの紹介動画は恐らく案件ではなさそう…)
このほか5月21日からはYouTubeにて公式配信が開始される予定ですが、詳細は分かりません。
これらのプロモーションは、VRにノータッチの超ライト層はともかく、すでにOculusQuestを所持していたり、VRやAniCastに興味を持っている若干コア寄りの層にリーチできていないように見えます。
例えば、大手xR系メディアの「MoguraVR」では、発売週の「新作&注目のVRゲーム・アプリ」の記事で少し紹介された程度で、執筆時現在までに単体での紹介・レビュー・関係者インタビューといった記事は出ていません。
そのため、発売されたのを知らなかったというツイートも結構あったり
ちなみに、発売から数日後にはこういった感想ツイートも投稿されてしまっており、SNSやYouTube、HPといった基本的な土台がきちんと運用できていないのではという疑問も…
国産VRゲーム「アルトデウス:BC」の成功
これ以外で積極性を感じない理由は2つあります。その一つは
AniCastMakerとのコラボも決定している「東京クロノス」の後継作「ALTDEUS: Beyond Chronos」(アルトデウス:BC)が国産のQuest対応ソフトとしてマーケティング上、大きな成功を収めているからです。
同作を手掛けるMyDearest社は昨年実施したクラウドファンディングで、日本中の人がVRゲームに熱狂するような「VRムーブメント」を再び日本で起こしたい。という目標を掲げていたほか
・SNS上での前作ファンやQuest所持者などへの積極的なマーケティング
・Cluster上でのファン向けイベントの頻繁な開催
・ストアでのユーザーレビューの重要性の説明
といった「作品と制作会社のファンを作る」ことを戦略的に進めました。
結果として有名ゲーム雑誌でアワードを獲得し、Oculus公式のオススメタイトルにも選ばれたほか、Oculusストアでのユーザー評価(レーティング)で1位を獲得しています。
このアルトデウス:BCのマーケティング上の努力と成功を直近で見た後では、AniCastMakerのプロモーションは定石以上のものとは思えず、積極性だけでなく、これまでGOROman氏らが語っていた「情熱」や「夢」といったものも感じられません。
そして、積極性を感じないもう一つの理由…
正直これがAniCastMakerに対する最大の懸念事項です。
見えないAniCast開発者たちの姿
発売前後のプロモーションからは、GOROman氏らがこれまでVRやAniCastMakerに関して語っていた「情熱」や「夢」といったものが感じられないと書きましたが、それもそのはず
今回のリリースに際して、XVI社社長としてプロジェクトを推進してきたGOROman氏も、実質的な生みの親である同社VR制作ディレクターの室橋雅人(MuRo)氏も、企業アカウントもSNS上でほとんど反応を見せていないからです。
開発開始から現在に至るまでの経緯や時間、「日本におけるVRの第一人者」「VRエヴァンジェリスト(伝道師)」として、黎明期からVR普及のために積極的に情報発信を行ってきたGOROman氏の過去の行動を考えると、コンシューマー向けにソフトが発売された今回に限って無反応なのは、3年以上ファンとして彼を追ってきた私たちには違和感しかありません。
また、発売に先駆けて公開された動画「AniCast Maker Showcase」には、提携先のエイベックステクノロジーズ側の関係者しか出演しておらず、社名を除けばGOROman氏らは名前すら登場していません。
AniCast(Maker)が他社がゼロから発注し、XVI社が開発会社として受託したプロダクトであれば別ですが、AniCastは同社のMuRo氏が個人開発のPlayAniMakerなどからスタートさせ、XVI社がAniCastとして発展、開発、ブランディングしてきたソフトです。(その経緯はこちらの記事に載ってます)
2019年に出された過去のPV動画では、GOROman氏らが中心となった構成となっており、その対比が嫌でも目立ちます。
マーケティングの観点から言っても、「日本におけるVRの第一人者」としてコア層を中心とした約3.7万人のフォロワーを抱えるGOROman氏や、定期的にVRやCG関連のツイートがバズっているMuRo氏(フォロワー2.1万人)が、前面に出てPRを行うことは売上につながるはずです…。
AniCastMakerに、彼らに一体何があったのか。いちユーザーでしかない僕らは想像することしかできません。
同ソフトのパブリッシャーである、エイベックステクノロジーズの岩永代表は前述のSHOWCASE動画の中で
「今回のAniCastMakerはいわばエントリーモデル、そしてVer1.00と位置付けております。皆さんが継続してご利用いただけるために、今後もより便利に使いやすくなるよう、アップデートを重ねる予定です」と述べており、これまで書いてきたような問題点が改善される可能性はあります。
が、現在の状況で今後、VRM対応といった「既定路線以上のアップデート」が行われるのか、個人的には不安です。
GOROman氏やXVI社のファンの中には、私と同じような違和感や不満を持っている人もいるようです。
PlayAniMakerという選択肢
このようにAniCastMakerの今後は不透明ですが、15秒制限がストレスだったり自分のキャラクターを使いたい人は、これまで何度か名前が出てきた「PlayAniMaker」を使う選択肢もあります。開発者のMuRo氏が投稿している動画を見ると、どういった機能があるかある程度分かると思います。
Quest版AniCastMakerとの違いは色々あり、キャラクターは1体、カメラは1台、プリセットのモーションが用意されていない、といった部分もありますが、一方でVRM対応やglb形式の3Dモデルを読み込むことが可能といった自由度があります。
現在はOculusRiftシリーズかOculusLinkを使ったQuest1・2でしか動きませんが、先日、Quest向けのライト版の開発にも挑戦するというツイートもあったのでQuest単体で動く日も近いかもしれません。
ただライト版ということで、VRMや3Dモデルを読み込む機能があるかどうかは今のところ不明なため、その点は注意です。
PlayAniMakerはMuRo氏のFANBOX(月500円~)に入ることで使うことができます。紹介ページ→https://sites.google.com/view/playanimaker/
キャラクターをセットアップしてVRM化できる人なら配布・販売されているキャラモデルをこうして扱うことも可能です。
PlayAniMakerによる作品たち
PlayAniMakerで作られた動画で最も再生されているものは、おそらく人気ボカロPのMitchie Mさんが2018年6月に投稿したこの動画で、執筆時現在150万再生を超えています。
Mitchie Mさんは「MVを制作したのは初めて」だそうで、PlayAniMakerのポテンシャルの高さを証明する動画となっています(※ちなみに動画の初音ミクが使えるのは過去のVerで、現在はMuRo氏が調整したVRoidモデルが初期モデルとなっています)
VRMが使えるため、個人勢Vtuberが自身のMVに使う例も
アイテムとして3Dモデルを複数読み込めるのでこんなシーンも
AniCastMakerと同じく自分が中に入って演じる「アバターモード」とは別に、キャラモデルを人形のように動かしてポーズを作る「フィギュアモード」もあり、スライダー機能を使えばコマ撮りの要領でアニメーションを作ることもできます。
このソフトの存在を知らなかった人の中には、AniCastMakerでやりたかったことってこれじゃん!と思った人もいるかもしれません。また、機能が少ない分シンプルで扱いやすい面もあると思います。
まとめ
ここまで約1万字を費やして色々厳しいことを書いてきましたが、決してAniCastMakerに対するネガティブキャンペーンをしたいわけではありません。むしろ、同ソフトがこれまでGOROman氏たちが語ってきた理念を実現する存在になってほしいという願いから書いた1万字です。このままAniCastMakerが終わることを私は望みません。
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GOROmanさん、MuRoさん、私たちファンはあなたたちがVRを通して実現したいと言っていた「ミライ」が来るのをこれからも待ってます。頑張ってください。