「人生で大事にしたいもの」を問いかけてくれた、フィンランド人夫婦との出会い #自分史上最高の旅
大学の卒業旅行でたまたま訪れた北欧4ヶ国。時期は2月、これまで経験したことのない寒さに震えながらも、ノルウェーで見たフィヨルドの絶景に感動したり、デンマークのお洒落な街並みを楽しんだり、思う存分満喫した。
中でも「居心地がよい」と直感的に感じたのは、フィンランドだった。
旅を終えた2ヶ月後、私は就職した。入社半年後には先輩だらけの部署に配属。優秀な上司と先輩に囲まれ営業先をかけまわる日々。それはそれは刺激的で、目の当たりにするのは自分のできなさばかりだった。
自分で自分を追い込む日々はそう長くは続かず、「もっとがんばらなきゃ」は気づけば「もうがんばりたくない」に変わっていた。でも不器用だから自分でブレーキを踏めない。もういっそのこと、会社からも日本からも離れたい。そんな時に思い出したのが、フィンランドだった。
フィンランドでは、夏になると社会人も1ヶ月ほどの休みをとり、サマーハウスと呼ばれる森の中の別荘で過ごす。たまたま友人が紹介してくれたご家庭で、私は一週間だけホームステイをさせてもらうことになった。
こだわりの家具で埋め尽くされた家。一歩外に出れば森、少し歩けば湖。そんな環境に身を置いて、私はすっかり肩の力を抜くことができた。気づけば出会ったばかりのホストマザーに、あれこれ身の上話をしていた。
気づけば仕事のことを考えてしまうこと。自分のダメなところばかり目についてしまうこと。もう今の調子では頑張りたくないこと。でも走り出したらうまく止まれないこと。だから逃げるようにここへ来たこと。
話しきると、それまで穏やかに話を聞いてくれていたホストマザーは、少しの沈黙のあと、まっすぐ私を見てこう言った。
突然のまっすぐな問い。なんならちょっと詰められてる。予想外の反応に、いやぁ、そんなん考えたこともないですよ〜と笑って返す余裕もなく、沈黙する私。
見かねたホストマザーは、ふふっと笑ったあとこう続けた。
「すぐに答えが出なくて良いから考えてみて。これは他の誰でもない、あなたの人生の話よ。」
それから3年後。さまざまなきっかけが重なって、私は会社を辞めてフリーランスになり、家族が住む神奈川と富山の二拠点で生活することを決めた。
周囲から見たら突飛な行動だったかもしれない。けれど私にとっては、彼女に問いかけられてから3年かかってやっと出した答えだった。私が大事にしたいものは、仕事や自分のやりたいことよりも、まず自分の家族だと行き着いた。
きっと彼女に問いかけられていなければ「人生で大事にしたいもの」なんて考えることもなかっただろう。今どんなに仕事が忙しくなろうと、大変な出来事があろうと、自分なりの優先順位に立ち返って前を向けるのは彼女のおかげだ。
まだまだ気軽に海外に行けない今。もしまた旅に出れるようになったら、真っ先に彼女に会いに行って、あの話の続きをしようと思う。
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こちらの記事は、ZIPAIRTokyoさんの投稿コンテスト「#自分史上最高の旅」で受賞作品に選ばれました。企画してくださったZIPAIR note編集部のみなさん、記事を読んでくださったみなさん、ありがとうございました!