民法改正要点まとめ ②保証

今回は「保証」に関する改正を総ざらい。

保証に関する改正のコンセプトは、ずばり「個人保証人の保護を手厚く」

1.公正証書による保証意思の確認

事業のために負担した貸金等債務(金銭の借入、手形の割引によって負担する債務)について、個人(法人の代表者等を除く)が保証契約や根保証契約を締結しようとする場合その締結日前1か月以内に作成された公正証書によって、保証債務を履行する意思を表示していなければならず、これがなければ保証契約や根保証契約は無効とされた(465条の6第1項)。

また、この公正証書は、

・主債務の内容

・主債務者が債務を履行しないときはその債務の全額について履行する意思を有していること

・連帯保証の場合には主債務者に催告したかどうか、主債務者が債務を弁済できるかどうかにかかわらず、全額について履行する意思を有していること

を、保証人となろうとする者が公証人に口授する方法で作成されることが必要とされている(同第2項)。

このように、改正後民法下では、事業資金に関する第三者による個人保証について、保証人の自発的な意思を公正証書によって確認することで、本意ならざる保証契約の締結を抑制する形としている。

この改正に関する背景として、従前、「形だけだから」「迷惑はかけないから」などと言われて保証人になったものの、主債務者が返済不能に陥り、当初想定していなかった過大な保証債務を負担する結果となるケースが多く存在していた。しかも、第三者による個人保証の場合、主債務者との人的な関係から断りにくいという問題もあるうえ、上記の問題は、動機の錯誤によっては救いきれない部分が大きい。

そのため、審議会の中では、第三者保証を一切無効とする案も検討されていたところではあるが、例えば起業準備にあたり金融機関から事業資金を借りる際、起業支援のために第三者が、自発的にその保証をする、といったケースもあり、そのようなケースは社会にとっても有用といえる。

また、現行のガイドライン等においても、保証人となろうとする者が自発的に保証の申し出を行った場合には例外的に第三者保証が認められているところでもある。

そこで、保証人の自発性を厳格に確認することを条件として、第三者による個人保証も可とする改正がされたものである。

なお、これはあくまで第三者による個人保証の要件であるため、保証人が法人である場合には適用されない(465条の6第3項)。
また、保証人となろうとする者が、主債務者法人の理事、取締役、執行役等である場合や、主債務者法人の過半数の議決権を有する者等である場合には、適用されない(465条の9)。

実務的には、個人の第三者保証を取ろうとすると、時間・手間ともにかかることとなるため、起業家が第三者保証を必要とする場合には、例えば、その方の資産管理会社など、法人に保証人になっていただくのが良いのだろう。

事業資金について個人の第三者保証を取らざるを得ないケース(社員に保証してもらうようなケース?)では、今回の改正法によって、丁寧なコミュニケーションを事前に取ることがより一層必要となるので、とても有意義な改正だと思っている。

ちなみに、465条の8でいう

「事業のために負担した貸金等債務を主たる債務とする保証契約又は主たる債務の範囲に事業のために負担する貸金等債務が含まれる根保証契約の保証人の主たる債務者に対する求償権に係る債務を主たる債務とする保証契約」

は、字面だとわかりにくいが、保証協会や保証会社が保証債務を履行した場合に取得する求償権を主債務とする保証契約のこと。これについても、公正証書作成義務が適用される。

2.契約締結時の主債務者による情報提供義務

主債務者は、個人に対し、事業のために負担する債務を主債務とする保証、又は同債務が含まれる根保証の委託をするときは、以下の情報を保証人となろうとする者に提供しなければならない(465条の10第1項)。

・財産及び収支の状況

・主債務以外に負担している債務の有無、その額、履行状況

・主債務の担保として他に提供し、又は提供しようとする者があるときは、その旨とその内容。

そして、

①これらの情報を主債務者が提供せず、又は事実と異なる情報を提供し、

②これによって、保証人となろうとする者が上記事項について誤認をし、

③それによって保証契約の申し込み又は承諾をした場合で、

④上記①について債権者が悪意有過失であるとき

保証人は、保証契約を取り消すことができる(465条の10第2項)。

規定の枠組みとしては、第三者による詐欺取消の規定を敷衍した枠組みとなっている。

実務上の争点として予想されるのは、どういった場合に④債権者の過失が認められるのか、というところかなと。ここは、保証人の性質と、債権者の性質の相関によって変わりうるところかなと思う。

ただ、債権者において保証意思の確認を怠った場合には、過失ありと言われる可能性が高いのではないか。

では、債権者において、保証意思の確認を公正証書によって確認した場合はどうか?

この場合でも、主債務者の財産状況等については公正証書には記載されないので、主債務者の財産状況等について虚偽の説明をしたか否かについては確認ができない。
債権者としては、公正証書の確認以上に、主債務者が正確に情報を提供したことについて、一定の確認フローを取らなければならないのだろうか。

ここはもう少し深堀りが必要。

なお、この取消権について、465条の9による適用排除が適用されないため、取締役等に上記①~④が認められる場合にも、この取消権は認められることになるが、実際に適用される事例は乏しいだろうなと思う。

3.履行過程における債権者による情報提供

保証人が主債務者の委託を受けて保証した場合で、保証人の請求があった時は、債権者は、保証人に対し、遅滞なく、主債務者の不履行の有無や弁済期にある残債務の額について情報を提供しなければならない(458条の2)。

また、主債務者が期限の利益を喪失した場合、債権者は期限の利益の喪失を知ったときから2か月以内に、個人である保証人に通知をしなければならず、また、それを怠った場合には、期限の利益喪失から通知までの遅延損害金を保証人に請求できない(458条の3)。

実務上は、請求期失の場合も、当然期失の場合も、期限の利益喪失通知を、主債務者のみならず保証人にも送付することが必要となると考えられる。

4.根保証

根保証とは、一定の範囲の債務について保証する、という保証の形態。

例えば、「賃貸期間中の賃借人の債務の一切について保証する」というような形態。

根保証については、従前、貸金等についてのみ規定されていたところではあったが、今回の改正により、貸金等以外の債務(例えば、賃貸借契約における賃借人の賃料債務)にも拡大された。

これにより、個人による根保証については、すべからく、極度額=保証債務の上限額を定めなければ無効となる(465条の2第2項)。
すなわち、改正前は、上記の「賃貸期間中の賃借人の債務の一切について保証する」でも有効だったところが、改正によって、「極度額を100万円として、賃貸期間中の賃借人の債務の一切について保証する」というように極度額を定める必要がある。

貸金等と、賃料債務に代表されるその他の債務とでは、要所で考慮が異なることから、貸金等以外の債務について一般的な規定を定め、貸金等はそこにアドオンする形で規定されている。

例えば、元本確定(保証の対象となる債務が特定されること)の期日について、465条の3で定められているが、これは主債務に貸金等が含まれる根保証にのみ適用され、その他については適用されない。

これは、仮に同条の定めるとおり、契約締結から3年後を元本確定期日としてしまうと、賃貸借契約のような長期間にわたる契約の場合、最初の3年分しか保証されないこととなり、債権者が被る不利益が大きいこと、極度額が定められることで、保証人の責任範囲が一定に限られるため、元本確定期日を定めなくても、保証人の保護としては十分との考慮に基づく。

実務上は、根保証については極度額の定めが必要、というところが、最大のポイントかな。貸金等とそれ以外の債権の違いについて深堀しても、あんまり実務には影響しないだろうな。。。

5.保証人債務と主債務の時効管理

ちょっとポイントなのが、保証人に対する請求は、原則として主債務者には及ばない(458条、441条、441条による請求については原則相対効)。これによって、主債務の時効管理が影響を受ける。

これまでは、請求が絶対効を有していたことから、保証人に対する請求によって主債務の時効も中断していたが、今後は、時効管理のために、

①主債務者と債権者において、保証人に対する請求が、主債務者に対する効力を有する旨を別途合意する

②保証人への請求と同時に主債務についても請求する

といった対応が必要となる。



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