民法改正要点まとめ ①時効

主要論点についての要点整理・備忘のためのものです。今後疑問点などが解消されたらこちらに追記していくかもしれません。

時効について、主な改正点は、以下のとおり。

1.時効の期間

(1)原則的な債権の消滅時効

従前、原則10年だった消滅時効期間について、以下のとおり変更。

①権利行使することができることを知った時(主観的起算点)から5年

②権利を行使することができる時(客観的起算点)から10年

のいずれか早い方(民法166条1項)。

契約に基づく債権の場合、通常、契約書上の履行期が到来した時点から権利を行使でき、かつ、同時点で権利行使可能であると認識することが通常なので、主観的起算点と客観的起算点は一致することが多いと思われる。

したがって、契約に基づく債権については、「権利行使可能となった時点から5年」として時効管理しておくことが吉。

これにより、

①商事債権の消滅時効に関する規定(商法522条)

②短期消滅時効

の各規定が削除。

商事債権と非商事債権とで区別する実益が乏しくなってきた、というのが大きな改正理由のよう(確かに、銀行債権と信用金庫の債権とで区別する実益は乏しい)。
これまで非商事債権として、10年で管理してきた債権については注意が必要。

これまで非商事債権として時効期間10年であったものが、この改正で時効期間が5年に変わることで、消滅時効が完成してしまった場合はどうするのか(返済期から6年が経過している信金債権はすでに時効か?)??

(2)人の生命身体の侵害による損害賠償債権の時効期間

人の生命身体の侵害による損害賠償請求権については、「主観的起算点から5年、客観的起算点から20年」の時効期間にかかる。これは、請求原因が債務不履行であっても、不法行為であっても同様。

債務不履行責任としての損害賠償請求については、民法166条・167条が、不法行為責任としての損害賠償請求については、民法724条・724条の2が適用。

民法166条と民法724条では、起算点の規定ぶりが異なるが、主観的起算点については、民法724条の規定ぶり「損害および加害者を知った時」と整合的に解釈されるのではないか。

2.時効の完成猶予・更新

これまで「中断」としてひとくくりにされてきた概念を「完成猶予」と「更新」の2軸に分けて整理。

完成猶予:時効の完成が妨げられる、という効力。

更新:新たな時効期間がスタートする、という効力。

(1)完成猶予

基本的には、「権利行使の意思を示すこと」が、時効の完成猶予事由。

①裁判上の請求、②強制執行の着手、③保全処分の着手、④催告、⑤自発的紛争解決の着手

完成猶予期間は、その事由によって異なる。

裁判上の請求、強制執行の着手の場合、手続が係属している間は時効完成猶予。また、取り下げ等により終了した場合には、終了時から6か月が経過するまでは時効完成猶予。

保全処分は、事由終了時から6か月が経過するまでは時効完成猶予。

催告は、催告時から6か月が経過するまでは、時効完成猶予。

今回の改正で新たに規定された「協議を行う旨の合意による時効完成猶予」。

協議を行う旨の合意が書面でされた場合、

①合意時から1年間が経過したとき

②合意において当事者が協議を行う期間(1年未満)を定めたときはその期間が経過したとき

③一方から相手方に対して協議続行を拒絶する旨の通知が書面でされたときは、その時から6か月を経過したとき

のいずれか早い時点まで、時効完成が猶予される。

実務上は、紛争相手方と交渉に入った時点で、協議合意を締結するのか。

ただ、催告による時効完成猶予期間中にされた協議合意は、時効完成猶予の効果を有しないとされている(民法151条3項)ところ、通常は催告書を先方に送るところから交渉がスタートすると思われるので、催告書を送ってから6か月間は、協議合意は使えない。

「催告書送付→協議継続→6か月経過するかも、でもこのまま任意交渉でまとまりそう」という時に協議合意を使うイメージかな。

(2)時効の更新

基本的には、「権利が確定したとき」が、時効の更新とされる。

①裁判上の請求により、確定判決またはこれと同一の効力を有するものにより権利が確定したとき

②債務者が承認したとき

なお、①のケースでは、時効期間は10年に伸長される(民法169条1項)。この点は、改正前民法と同じ。

時効完成後の債務承認については、今回法令には反映されていないと思われるので、これまでの議論どおり、時効援用権の放棄という整理は維持かと思われる。

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