フォローしませんか?
シェア
──この酒、味がしない。 それに気付いたのは、皿に零した酒を啜った時だった。 半年に渡る週7バイトと夕飯モヤシ生活を経てようやく購入した幻の酒、<龍の声>。芳醇な香りと裏腹に飲み口は軽やかで、後から健やかな甘みと爽やかな酸味、そして暴力的な旨味が押し寄せる、龍をも唸らす銘酒……の、はずなのだが。 「……?」 俺は手元の皿──酒浸しになったエイヒレの皿から、銘酒をもうひと啜り。 ……やはり味がない。水のほうがマシだ。 「いや、え、エイヒレのせいかも……」