Study85_1.「リンゴ」を一番シンプルで香り良いアップル・バターにするには?(下調べ編)
今回目指すのは、砂糖もバターも使用しない一番シンプルなアップルバター。まだアップルバターを食べたことがなかったので、どんな味がするのか試してみるところからのスタートとなりました。
アップルバターってどんなもの?
試してみたのはこちらの2種類。
どちらも食材はシンプルで、EDENの「Organic Apple Butter Spread」はリンゴとリンゴジュースのみ。池上ジェニーさんが作る「ジェニーさんのりんご畑 APPLE BUTTER」はリンゴとシナモンのみでできています。アップルバターと言ってもさまざまで、その名の通りバターが入っている商品や砂糖などの甘味料が入っている商品も多い中で、この2つはとてもシンプルに作られていました。
仲間を集めて食べてみる
1人で食べてもつまらないので、仲間を呼んで味の違いや合う食材をあれこれ試食。
用意したのはパン・チョコスコーン・カカオニブ・豆乳バター・シナモン(追いシナモンしたくなるかなと…)・ナツメグ。この中でちょっと変わっているのは「ソイレブール」という豆乳バター。この時私も初めて試しました。
驚くことに原材料は植物油脂・豆乳クリーム・豆乳・大豆粉・食塩。動物性食品は使われていません。味はバターのようなしっかりしたコクがあります。そして、アップルバターととっても良く合いました*
アップルバターはそれぞれの個性が
2つのアップルバターの味の違いはというと、それぞれ個性がありました。「Organic Apple Butter Spread」はリンゴジュースが入っているのですが、本当に「濃縮されたリンゴジュースの味」がしてきます。リンゴの味が濃いのでヨーグルトなどを食べるときのジャムとしてとても良さそうな感じ。
「ジェニーさんのりんご畑 APPLE BUTTER」は、ほのかにシナモンの香りがして上品な味。少量ずつを大切に食べたくなりました。今回は試食会で人気があった「ジェニーさんのりんご畑 APPLE BUTTER」を目指してつくっていきたいと思います。短時間で・より香りよくアップルバターをつくれるでしょうか!まずは論文読みからスタートです。
まずは文献調査から
そもそもアップルバターとは
ピューレにしてゆっくり煮詰めたものが「アップル・バター」。では作り方のポイントはどこにあるのでしょうか?文献から情報をかき集めていきます。
リンゴの種類は?
紅玉とふじを比較
リンゴの種類は何を選べば良いでしょうか?リンゴ5品種を用いて生鮮果実と天然果汁の加熱殺菌に伴う香気成分の変化について調査した実験があります。
リンゴの美味しさの大切な要素「香り」。加熱してもその「香り」がより多く残るのが「紅玉」だそう。一番よく売られている「ふじ」は「紅玉」の1/5分ほどしか香りが残らないそう。この2つを比較してみたい。
リンゴのどの部分まで入れるか?
皮は一旦入れてみることに
リンゴのどの部分まで入れるかを検討していきます。
よく言われることではありますが、香りが多いのは外皮の内側の部分。皮を剥くと一緒に除かれてしまいます。皮はぜひ入れたいですが、舌触りに関わるのでこれも悩みどろです。ですが、一旦やってみないと分からないので入れてみることに。香りがより出るといいなあ。
切り方と加熱方法について
低温・短時間で加熱して風味を残したい
続いて、切り方と加熱方法はどうしていくか検討していきます。
このことから、今回は柔らかいジャムにしたいので低い温度で長時間加熱しないように気をつける必要がありそうです。なので、リンゴは予め細かくして素早く55〜60℃を通り過ぎ高温にした方が良さそう。さらにピューレの作り方に関してこんな記述も。
すりおろしてから加熱はどうだろう?とも考えましたが、加熱してからミキサーにかけた方が、色・風味が良くなる可能性が出てきました。
つぶし方によってもなめらかさが変わってくるようです。舌触りは美味しさに大きく関わってくることは体感しているので、つぶし方もしっかり比較していきたい。候補となる道具はハンドブレンダーとミルの2つ。滑らかさの比較もするために粗さに差が出そうなこの3つにすることに。
ハンドブレンダー
ミル
煮崩す
この記述はブリザーブ(砂糖煮)に関する記述ですが、風味に関しては今回にも当てはまると予想。でも、おやおや?ちょっと前半に記述した「55~60℃で20〜30分間加熱した場合,その後に長時間加熱しても硬さが保たれる.」の内容と矛盾します。どうしよう…
少し迷いましたが、後々ミキサーにかけることを考え今回は低温で調理することに。煮込みにはフライパンを使い、水分を飛ばすのに時間がかかりすぎないように一度につくる量に注意する必要がありそうです。加熱前のカット方法についてはこの2つとしました。
ミンチ
いちょう切り
あまり大きいと加熱に時間がかかり風味が飛んでしまう可能性があるので、基本小さめにカットすることにします。
冷却方法について
冷ましてから瓶詰め・日をおくとプルプルする
いろいろ調べていると、冷まし方にもコツが必要な可能性が出てきました。リンゴジャムの冷まし方や保存温度ごとのゲル強度(どのくらいプルプルしているか)に関する実験です。今回つくるアップルバターよりはだいぶ糖度が高いジャムを対象にしたものではありますが、無視できそうにない内容です。
ちょっと分かりにくいですが、つまり熱いうちに瓶詰めしてしまうと表面と中心部で温度の差が大きくなってしまう(中心がなかなか冷めない)ので、表面はプルプルになっても中心部がプルプルしない。その差が出てしまうと商品としては品質が悪いことになってしまう。このことから言えるのは、冷まし切ってから瓶詰めした方がプルプルする。つくってから時間をおいた方がプルプルする。ということ。そもそもペクチンってどういう性質?と思い調べてみると、こちらの記述も。
糖濃度が60%〜でゲル化するそうですが、今回試食したアップルバターの「栄養成分表示」をみても、炭水化物が5g(15gあたり)なので、糖濃度が60%までは高くならなそう。なので今回は気にしなくても良い可能性がありますが一旦、頭においておこうと思います。
そんなこんなで、実験項目をこのように決めました。
実験内容を決定!
リンゴの種類:紅玉・ふじ
使う部位:皮ごと
カット方法:ミンチ・いちょう切り
加熱方法:フライパンで60℃以下加熱を目指し速やかに
ペーストにする方法:ハンドブレンダー・ミル・煮崩す
水分の煮飛ばし方:フライパンで60℃以下加熱を目指す速やかに
冷まし方:バットに広げて速やかに
続いて実験に移っていきたいと思います。続きをお楽しみに*
<今回読んだ文献>
松本 時子, 中村 百合子, 畑江 敬子, 島田 淳子:熟度の異なるリンゴから調製したジャムの嗜好性について,日本調理科学会誌,1995 年 28 巻 1 号 p. 46-49
白井 裕, 永田 善次:リンゴジャムにおけるゲルのセット(凝結)について,日本食品工業学会誌1963 年 10 巻 7 号 p. 283-288
垣内 典夫, 森口 早苗, 市村 信友, 加藤 豊, 馬場 良明:リンゴ果汁の加熱殺菌に件う香気成分の変化,1987 年 34 巻 2 号 p. 115-122
濟渡 久美, 吉成 愛未, 石川 伸一:低温長時間処理が真空調理したリンゴの物理化学および官能特性に及ぼす影響,日本食生活学会誌,2020 年 31 巻 3 号 p. 123-130
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