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3月6日(月)原由子スペシャルライブ2023「婦人の肖像〜Portrait of a Lady」@鎌倉芸術館 大ホール

 私に与えられた席は7列目。かなりの良席だ。場内には原由子の青春を彩ったエリック・クラプトンのナンバーが流れている。いつもはステージに向かって左後方に設置されているキーボード(サザンファンならわかるはず)がセンターに据え置かれている。今日の主役はハラボーなのだと実感する。
 ハラボーとの逢瀬は2019年のサザン「ふざけるなツアー」札幌公演以来4年ぶり。否応にも胸が高鳴る。久しぶりのサポートメンバー入りとなるバイオリンの金原千恵子やコーラスの村石有香との再会も嬉しい。
 午後6時30分、客電が落ちる。画面いっぱいに舞い踊る桜の花びらとともに「さくらさくら」のメロディ。やがてメンバーが登場する。最後に登場したのは、原由子。満面の笑顔にほんわかした雰囲気となる。

 
【1】鎌倉物語
 待っていたあのイントロ。鎌倉に来た実感がこみ上げる。

〽泣かないつもりが笑顔になれない あの日の思い出を溢れる江ノ電見つめて

 ついさっき乗ったばかりの江ノ電を思い出す。
【2】涙の天使に微笑みを

※〽少女の頃の燃える夕日が黄昏に変わる時だから

という歌詞に原由子自身の姿を重ね合わせる。

【3】少女時代
※少女の頃の瑞々しい心情を鮮やかに映し出す。私が好きなのは、

〽Ah金色に輝いた少女達 おしゃべりをしながらお互いの恋の行方を
Ah教室の片隅で占って 窓辺ではいくつもため息を落とした

 輪唱になるのも美しい。

 今日は歌われなかった「ガール」でも少女の頃のせつない心情が歌われている。
【4】千の扉〜Thousand doors

※〽幸せ掴まなきゃと世間に脅迫されて

「幸せになろうよ」とか「幸せになりたい」という幸せ真理教の影響で、幸せを追い求める人達は大体髪を振り乱し、目は充血して、ハタから見てるととても幸せには見えない。まるで幸せという名の強迫観念に囚われているみたい。幸せって、マナジリを決して求めるものでもないと思うけど…。
 こういう人には次のフレーズを捧げたい。

〽『歩』くという文字は『少』しは『止』まれって書くんだよ

【5】オモタイキズナ
※通常はいい意味に使われる「キズナ」や「愛」が、ここでは人に襲いかかる。

〽思い出に蓋をして 明日を生きるには 千切れたふたりだけの腐れ縁(きずな)が重い

〽どれだけ逃げても 愛という魔性が妖しく闇夜を駆ける

 どうやら「キズナ」や「愛」も現代人にとっては強迫観念のようだ。 
【6】花咲く旅路
※ここからは旅もの3曲。
 トップは日本の四季を愛でるような名曲。

〽はるかなる空の果て 思い出が駆けめぐる

は、松尾芭蕉の「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」に通ずる。
 昔、「美しい国」なんて言ってた人がいたけど、そんな嘘くさいキャッチコピーでは無しに、本当の美しさがここにある。 
【7】旅情
※桑田佳祐は「曲先」と言って、メロディを先に作って詞は後から作るタイプであったが、最近は詞を先につくる「詞先」の場合もあるようだ。この曲はその典型であろう。

〽風立つ野辺に茅の穂が揺れる

からもう旅が始まっている。
 ラストは、「お元気で」と締められるが、桑田佳祐のソロ曲「ほととぎす[杜鵑草]」にもこの言葉が登場する。
【8】京都物語
※渚ゆう子の「京都慕情」やチェリッシュの「なのにあなたは京都へゆくの」に連なる系譜といってもいい。こういういわゆる「歌謡曲」もサラリと歌ってしまう原由子は本当に歌心があると思う。
【9】恋は、ご多忙申し上げます
※ウキウキなイントロとともに極上のポップスがやってくる。

〽あなただけは愛・視点・ルール
〽二人だけは恋・視点・ルール

は桑田佳祐の恋愛の因数分解である。
 今まで座っていたお客も総立ちに。
〜メンバー紹介〜
 ※昆虫博士こと山本拓夫にカエルの鳴き声の聞き分けクイズが出される。正解率は芳しくなかった。
 金原千恵子と笠原あやののストリングスは桑田佳祐「銀河の星屑」の間奏を演奏する。
 そして、村石有香はYUKA名義で出した「お料理行進曲」(「キテレツ大百科」op)を熱唱する。お見事ナリ。
【10】ぐでたま行進曲
※行進曲つながりで。画面いっぱいにぐでたまが遊び、お気楽モードでいっぱいになる。私も、

〽きっとやる気出す きっと歩き出す

【11】夜の訪問者
※ハラボー立ち上がり、マイクを手にジャジーに歌う。

〽君のハートをおむすびにしたよ  きっと塩っぱい味がするんだろう

という桑田佳祐独特の不思議なフレーズ。

【12】ヤバいね愛てえ奴は
※原由子の美しい歌声とギター演奏、金原千恵子のバイオリンのハーモニーがひたすら美しい。

〽君と寄り添い 街中をクロールしたいと思った

というフレーズに驚く。
【13】Good Times〜あの空は何を語る
※サザンにも時事モノはたくさんある。古くは「かしの木の下で」から最近の「ピースとハイライト」まで。本作はウクライナなど昨今の世界情勢に鑑み、原由子が作詞作曲した。“I read the news today,oh boy”(ビートルズ「A Day in the Life」)の世界。

〽廃墟の中で悲しみの歌が響く遠い街 「愛と平和」が絵空事みたいな時代に誰がした?

という問いかけは重い。
【14】あじさいのうた
※13年前のライブでは、この曲が1曲目だった。ファンファーレのようなイントロが高らかに鳴り響く。私は6月生まれなのであじさいが好きだ。「雨に濡れてたつぶらな花びら」を見れば雨の日もごきげん。
 私が好きなのは、転調する

〽割れた地面に雨が残るよ 揺れる想いを歌にして

の部分。
【15】鎌倉On The Beach
※突然見晴らしが良くなるが如きイントロにライブが佳境に入った事を知る。

〽朝靄漂うモノクロームの海辺で 裸足の指に絡む砂が冷たい

 情景描写と身体的感覚が同居した歌いだしにハッとする。

〽街のざわめきの中 不意に募る切なさは何故?

というフレーズに全面的に共感する。
【16】ハートせつなく
※ハンドクラップしながらのドゥーワップに続き、桑田佳祐の高らかなコーラス(録音)が降りてくる。ハートブレイクを陽気に歌い上げた完全無欠のポップス。佐藤郁実ちゃん達、ダンサーズがゴキゲンに踊りだす。

〽ハートがせつなくて 誰より愛していたのに

というサビでは、おなじみのハンドクラップ👏

【17】スローハンドに抱かれて(Oh Love!!)
※大画面ではベックやペイジやジョージやジョンやポールや(歌詞には出てこない)エリックの似顔絵が乱舞し、客席は大騒ぎ!
【18】じんじん
※ハラボーがキーボードを離れ、踊りながら歌い、右へ左へ。GSと歌謡曲とサイケデリックが渾然一体となり、客席はカオス状態に。「激しい愛」が会場全体を抱きしめて本篇終了。

アンコール

【19】いちょう並木のセレナーデ
※青学時代の思い出をフォークっぽく描く。

〽他の誰かが好きなのはわかってたけど ノートのコピーを見せるのはいつも私

というフレーズに、当時の桑田佳祐と原由子の関係性が現れている。
【20】私はピアノ
※原由子が初めてメインボーカルを取った名曲。

〽ひとしきり泣いたら馬鹿げたことねと思う

というフレーズに女性らしさが表れている。
高田みづえ版にはない「おいらを嫌いになったとちゃう?」の部分は斎藤誠が担当した。
【21】初恋のメロディ
※ともにレコードを聴いた今はもういない人との思い出を丁寧に歌う。
 来年私は五十代に入る。

〽歳を取るのも悪くない

というフレーズに励まされた。

〽お互いあの日に戻れない それでも命に代えて… 一番大事な歌がある

 原由子の歌手としての覚悟を感じた。
【22】いつでも夢を
※歌う前にハラボーが「いつでも夢を持てたらいいですね」と話す。この時、私は「あの男」が現れる事を確信した。曲の途中で、やはり「あの男」は現れた。

桑田佳祐

 ときに夫婦寄り添いながら、吉永小百合&橋幸夫の名曲を軽やかに歌い上げた。

桑田「原由子の夫です」
原「桑田の妻です」

 ハラボーがサポートメンバーを紹介している間、桑田がチャチャを入れる。
 そして、桑田佳祐は原由子に「今度は13年後と言わず、来年やりなさいよ」とハッパをかけた。
 最後は、桑田佳祐を交えての手を繋がずにラインナップ。
 他のメンバーが退出した後も夫婦はステージに残った。桑田佳祐が原由子の手を取り、再び手を上げた。そして、また逢う事をお客に誓って二人は去っていった。

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