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8月3日(木)柳家喬太郎 牡丹灯籠 恋の闇路@渋谷区文化総合センター大和田 伝承ホール

ひろ馬「狸鯉」

喬太郎「お露新三郎」

 玉川奈々福との北海道巡業、飛行機の中で泣く子供、日大時代に二度卒業旅行に行った話などをする。いつになく長いマクラ。
 根岸に住んでいる浪人者の萩原新三郎はお幇間(たいこ)医者の山本志丈の紹介で飯島平左衛門の娘・お露と出逢う。たちまち惹かれ合う二人。だが、お露は旗本の娘であり、山本志丈の思惑もあって、その後は逢えずにいた二人であった。

 爽やかな初恋の味さえする前半。近づきそうで近づかない二人にもどかしさと甘酸っぱさを感じる。お露の香箱がロマンスを演出する。

ー仲入りー

喬太郎「お札はがし」

 久方ぶりに新三郎の前に現れた山本志丈はお露と女中のお米(よね)が死んだと告げる。ところがある夜、死んだはずのお露とお米が新三郎のもとにやってきて、私達は死んでいないと主張する。それから夜毎の逢瀬が始まる。この二人を悪霊と見抜いた人相見の白翁堂勇斎は新三郎に新幡随院に行くよう勧める。そこで良石和尚にお札と海音如来像を授けられる。新三郎は部屋中にお札を貼り、海音如来像を肌身離さず身につける。新三郎に近づけなくなったお露はお米に泣きつく。お米は新三郎の隣人である伴蔵にお札をはがすよう頼む。

 三遊亭圓朝作の『怪談牡丹灯籠』は父親を殺された息子・黒川孝助の仇討ち物語が基本ラインであるが、このお露と新三郎のくだりは怪談として有名である。だが、私はこの話を純愛ラブ・ストーリーとして受け取りたい。新三郎に恋い焦がれるあまり、恋煩いで死んでしまったお露。自ら死霊となり、新三郎をとり殺しても添い遂げようとする執念はおそろしくもけなげだ。現代のストーカーの心理に通ずるのではないか?
 一方の新三郎はどちらかというと受け身だ。いろんな人にアドバイスされるが、近くにいた裏切り者によって命を落とす。
 伴蔵お峰夫婦は「破れ鍋に綴じ蓋」のたとえ通り、お似合いの夫婦だ。「雌鶏勧めて雄鶏、時を作る」の言葉通り、お米にお札をはがす代償として百両を要求するよう、お峰は伴蔵に提案する。おそろしく打算的で冷酷な女。さぞかし伴蔵はこの女房に恐怖を感じたであろう。
 ともあれ物語は、この後、伴蔵お峰の逃避行「栗橋宿」へ進み、思わぬ展開を見せるが、それはあとのおはなし。笑いを交えつつもいつもと違い落ち着いたトーンでこの壮大な純愛奇譚を牽引した柳家喬太郎の巧みなストーリーテリングに酔いしれた渋谷の蒸し暑い一夜であった。

 

 

 

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