『三丁目の夕日』シンドローム

 「職場より家族に評価されたい」、「上司より顧客に評価されたい」、「会社より社会に評価されたい」そう考えている私は、給料は下がったものの、2回転職した。
 20数年前、最初の職場は、朝、部の掲示板に「部内会議、午前2時スタート」と書いてあるような長時間労働職場だった。男性上司や先輩の大半は片働きで、過多働きだった。心底、嫌気がさして辞めた際に、失業も経験した。妻に養ってもらい、今も感謝している。別原稿で書いた通り、「共働きは保険」だ。

 日本は20年前から、片働き世帯数よりも共働き世帯数を上回る傾向が続いている。一方で、夫は仕事をひたすらがんばり、妻は専業主婦でひたすら家を守る……というスタイルが「昔は良かった」と美化され続けてきた。このため、共働き主流モデルへの社会システムの転換がおざなりにされてきた。毎春の恒例行事のように報道されている保育所や学童保育に入れない待機児童の問題はその一例だ。

 失われた15年と呼ばれた1990年代から2000年代前半において、一世を風靡したNHKの『プロジェクトX』では、毎回、判で押したように「そして男たちは立ち上がった・・・。夫の背後で見守る身重の妻』というパターンが繰り返されていた。唯一の例外は、男女雇用機会均等法のために立ち上がった労働省の女性官僚たちだけだった。どうして、立ち上がるのはいつも男たちなのか・・・なぜ、妻はいつも身重なのか・・・。

 かつて社会的に大きな反響を呼んだ『半沢直樹』でも原作では半沢花(主人公の妻)がキャリアウーマンなのに、どういうわけかテレビドラマでは主婦になっていて、内助の功ぶりを発揮していた。

 待機児童に抗議する写真や映像も大抵は女性ばかりだ。父親も抗議すべきなのに、不思議だ。固定的な性別役割分業意識は今も根強い。

 過去を美化して、社会の変化に抗おうとするような懐古趣味は単なる現実逃避に過ぎない。昔は良かったと称賛する声を、私は皮肉を込めて「三丁目の夕日シンドローム」と呼んでいる。

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