見出し画像

#26 兼業生活「<しっくりくる感じ>を求めて」〜山下裕子さんのお話(4)

傷を直し、そこにあたらしい景色を見る

室谷 お話を伺った中で、「金継ぎは傷を癒す行為」という言葉が印象的でした。

山下 金継ぎは室町時代の茶の湯文化で発展したといわれています。茶の湯は位の高い人たちの嗜みだったから、そこで使う茶器も高価なものばかり。きっと持ち主の愛着が深かったでしょうし、破損したときのショックも大きかったと思います。

そんな背景があって金継ぎが広まったのですが、その際、当時の人びとは傷を隠すのではなく、あえて金や銀で装飾し、傷跡を「景色」と呼んだ。傷を直し、そこにあたらしい景色を見る、楽しむ。それを知ったとき、なんて豊かな発想だろうと感動しました。

私は昔から古いもの、手仕事のぬくもりを感じられるものが好きで、壊れても捨てるという発想がありません。洋服なら繕ったり、技術がある人にリメイクしてもらったりして手元に置き続けています。器も破損してしまったものを、何年も取ってあった。そういう点と点が、金継ぎに出合って全部つながった気がします。

室谷 その「景色」という言葉、すごく良いですね。山下さんはふだん、天然の漆のみを使う「伝統金継ぎ」をなさっています。合成接着剤を使う「簡易金継ぎ」など、ほかの方法で直したことはありますか。

山下 ないですね。どんな感じかを知りたいなとは思うんですけど……。そういえば、友人から「壊れたガラスのピアスを直せないか」と相談されたことがありました。本来、漆は土でできた陶器や木との相性が良く、ガラスは性質上、漆では接着しないのですが、そのときはあえてどこまで天然素材だけで接着できるかを実験してみた。でもやっぱり無理で、くっつかない。結局、金継ぎをせず、ガラス用接着剤でくっつけて返しました(笑)。

やっぱり漆は自然の素材なので、相性の悪いものを無理やり合わせることはなるべくしたくないなと。これからも、そういう自然の流れのなかでやりたいと思っています。

室谷 いまは金継ぎ中心に生活なさっていると思いますが、仕事と暮らしのバランスはどうでしょうか。

山下 そうですね。コロナで主催している金継ぎ教室を一時期お休みしたのですが、そのぶん金継ぎのご依頼が増えて、収入面でのダメージはそこまで大きくありませんでした。おそらくみなさんが内側のことを見始めたというか、ものの見方がちょっと変わったのかなという感じがあって、コロナの流行後、金継ぎの需要はすこし増えています。

まあ、お金のことを考えると不安になりますが……。生活はできても自転車操業みたいなもので、蓄えができませんから。結局、東京にいるとお金がかかることが多すぎて。東京に住んでものづくりをしているお友達と経済とのバランスについて話すことがありますが、 皆何かしら抱えながら頑張っている。そんな仲間の存在が励みになっています。

地方に移り住んだ友人は家賃が抑えれた分、余裕ができてやりたいことに集中できるとか、土地に根ざした暮らしの話を聞くと「そっちのほうが強いんじゃないか」と思いますね。自分で食べるものを育てたり、加工したり、そういう生きる力がある人は強いなあ、と。

だから今回、インタビューのお声がけをいただいたけれど、私もまだ全然「これ」という答えを見つけられていません。考えながら、少しずつ前に進んでいる感じです。

室谷 やりたいこととお金のバランスって、家賃が高い東京だと本当に難しいですよね。東京暮らしをやめて、移住したいと思ったことはありますか。

山下 いまは東京で教室を持っているし、暮らしている場所も気に入っているので、すぐに移ろうとは考えていません。でももっと自然が身近な場所に移って、生きる力を身に付けながら生活をしたい気持ちもあります。

振り返ると自分の根本はあまり変わってなくて、いろいろと探しながら、金継ぎにたどりついた。少なくともいまは、毎日金継ぎに向き合う時間を持てているので、そのことが心地いいです。逆にいうと、金継ぎのおかげで自分の方向性みたいなものがわかったので、いまの生活を軸に、同じように小さくても循環を生み出せるようなこと、そういう活動をしながら自分の世界が広がっていくといいですね。

(取材を終えて)
お話をまとめながら、自分なりの違和感に気づくセンサーって大事だなと思いました。山下さんは、立ち上げから働いていたアクセサリーブランドが規模を拡大したときのことを、「自分の気持ちとの距離が大きくなってしまった」と振り返っていました。「成功」という言葉の意味は人によって違って、世間的にどんなに「成功」といわれていようが、自分のものさしと違ったら離れるほうがいい。そうやって違和感を抱かない場所に身を置くよう試行錯誤した結果、点と点がつながるように、何かに出合うことがあるのかもしれません。

年暮れのにぎやかなロージナ茶房の片隅で、ひそひそとお話した時間がとても楽しかったです。個人的なことをお話いただき、ありがとうございました。

(この回はこれで終わりです)

※写真はすべて友人である写真家の中村紋子さん@ayaconakamura_photostudio によるものです

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?