君は光る、みんな笑顔(後編) 定期演奏会を見た、聞いた
(この話は後編です。前編はこちら↓
君は光る、みんな笑顔(前編) 定期演奏会を見た、聞いた|熱き心の若人 (note.com))
第60回早稲田大学応援部吹奏楽団定期演奏会は第2部に入ります。衣装が白から黒に代わりました。
第2部はポップスステージです。
定演の役割というのは時代によって移り変わり、
私が現役のころは「座奏はクラシック中心」という不文律がありました。
しかし、ある時からポップスも演奏されるようになり、今では定演に欠かせないパートになりました。
紅白歌合戦も昔は
●グループの出場は禁止
(=剣道の紅白戦がモデルのため、一対一の勝負しか認めない)
●メドレーは禁止
(=潔くないから、という変な理由)
●男性は髪を肩より伸ばしてはならない
というルールが厳格に適用されていましたが、今は全部撤廃されています。
時代にあわせて変わるというのは大事なことです。
今回はまず「カーペンターズ・フォーエバー」が演奏されました。
ソロが光っていました。
サックスもエレキもトランペットもトロンボーンもしっかり聞かせてくれました。かっこよかったですね。
定演のいいところは、楽団部員の一人一人の顔がしっかり見えるところです。
神宮だと横から見る形になるので、前からしっかり見られるのは本当に豪華で貴重な時間です。
今回のソロを見ていると、ソロを担当している部員のよさはもちろんなのですが、その演奏に耳を傾ける他の部員の表情もよく、さらにはソロが終わったあとのほっとした表情もよくて、幸せな時間が流れていました。
また、カーペンターズは兄と妹のコンビで、「男女競演によって音楽性を高めた」という点が今も高く評価されていますが、応援部吹奏楽団も、男女が競演して早稲田の力を高めてきた団体です。言うまでもなく、男女が協力して互いに高めあっていくのは、これからの時代ますます大事になっていきます。その意味でも象徴的で、いい選曲でした。
2曲目は「タイタニックメドレー」です。
1曲目は音楽の美しさを端的に表す曲でしたが、今度は情景を思い浮かべて聞く曲になりました。
ホルンから深みのある音が聞けました。制御の難しい楽器だと思いますが、しっかり曲の序盤をリードしていたと思います。木管と金管の音色をきれいにつないでいました。
オーボエも存在感を発揮していました。いつも息を頑張っている様子を見てきましたが、練習を重ねた深みのある音が聞けました。うまい歌手の歌声を聞いているようでした。
フルートにはパワーがみなぎっていました。腹式呼吸がきちんとできていることがうかがえる音色でした。それでいて透明感もあって、瑞々しさがあふれていました。
サックスはカッコよさ全開でしたね。音に華やかさがありました。このカッコよさと華やかさを醸し出すために、どれだけ練習したのだろうか…とソロを聞きながら思いました。
ホリゾントもよかったですね。こういう曲だと結構動かしたくなってしまうところではありますが、音楽に邪魔にならないよう、それでいてしっかりと船の存在感は示すという絶妙なバランスで構成されていました。
また、第2部は学生が指揮者を務めました。
神宮で私が見た限り、今年は8人の学生が指揮を務めたと思います。(違っていたらすみません)
それぞれ個性があって、とてもいいと思って見ていました。
私がひそかに楽しみにしているのが、第1試合が始まるだいぶ前に神宮に行って、音を合わせているところから聞くことです。
ここで指揮者が修正を入れるのですが、みんないろんな視点や切り口があります。それを聞くたびに私も勉強になりました。
今回の定演でもそれぞれ個性を発揮していたと思います。神宮とは違って後ろ姿ですが、気持ちと気合いがみなぎっていることは十分わかりましたし、しっかり楽団を引っ張っていくという気概にそれぞれがあふれていました。
司会者についても触れたいと思います。
声がよかったですね。司会の声って難しくて
●マイクにうまく乗せる(大きすぎても小さすぎてもいけない)
●客席に向かって語りかけないといけない
●発音が正確でないといけない
という3点が満たされていないといけないのですが、どれも十分に満たしていて感服しました。
さらに言うと、マイクを握ると人間は語尾が上がったり下がったりすることが往々にしてあるのですが、語尾がしっかりと安定していました。
こんな私も昔は放送でステージの司会をしたことや、結婚式の司会もたくさん務めたのですが、昔の私もこんなふうにできていたらなあ、と思いながら見ていました。
第2部最後の曲は「SING,SING,SING」です。
ドラムが力強くてよかったです。そして何といっても楽しそうでした。今年のパーカッションは神宮でいろんな工夫がありましたが、それは楽しさを伝えるためだった…と改めて思いました。
クラリネットは表現力が豊かでいいと思いました。まるでクラリネットが歌っているような…直球の音でこれだけいろいろできるのは素晴らしいですね。ソロのマイクとの距離感も絶妙でした。
トランペットは明るさ満点の音色が鋭く響きました。一方でやさしい音や温かみのある音も出せていて、今のメンバーはいいなあと思って聞いていました。これも練習の賜物ですね。
バスパートはやっぱり存在感がありますね。と同時に繊細な表現にも長けていました。テンポが揃っていて息が合っているところもよくて、しっかり演奏を支えている様子がわかりました。
トロンボーンはハーモニーがよかったですね。みんなの個性が錦を織りなしているようでした。神宮でもそうですが、盛り上がった時のもう一押しがこの日も決まっていて、印象的でした。
ここまでで、開会からすでに1時間12分なのですが、どのパートも疲れを見せていなかったのがすごいと思いました。これはチアステでも感じましたが、それだけ持久力が部員みんなについたということなのだと思います。
特に、最後の「SING,SING,SING」は立ったり座ったり、楽器を振ったりと動きが激しいのですが見事にこなしていました。神宮で「ザッ」という音とともに一斉に立ち上がって演奏するシーンを思い出しながら見ていました。
それにしても早稲田の応援部の吹奏楽団が素晴らしいのは、それぞれの思いが音楽を通じて表現できるところなのですよね。放送でもそうなのですが、朗読やナレーションや歌や演奏がうまい人は一定数いつもいます。
しかし、本当に大事なのは、そこに思いや他者へのベクトルを乗せて表現できるか…です。
応吹(つい短縮形で言ってしまった) はそこが出色で、思いの表現がこの定演でもほとばしっていました。
また、最近は舞台背景にLEDなどの映像装置が据え付けられて、動画とともに音楽が奏でられるのが当たり前の時代になりました。弊社の年末の音楽番組もそうです。
しかし、応吹の演奏は背景の動画なしで、音からいろいろな情景を思い浮かべることができます。音にパワーと思いがこもっているから…ですね。音に輝きがありました。大満足の第2部でしたね。
そして舞台は休憩に。
休憩時間は男子8人による男祭りアンサンブル(私が勝手に命名)でした。
ものすごく楽しそうで、よかったです。
神宮で非常に存在感のあったメンバーが一堂に会している様子は壮観でした。最後の深いお辞儀も含めていいなあと思いました。
ちなみに、私が学生のときの応吹は、男女比が1対1に近く、女子部員が少しだけ多かった…という時代でした。今から思うと隔世の感がありますが、「男女が協力して、高めあっていく」という点は昔から変わりません。来年も男女が一緒に盛り上げていってほしいと思います。
続いてのクリスマスメドレーもいい感じでした。男祭りのメンバーも2人残っていました。昔から定演はクリスマスにからめるのが定番ですが、今年はかっこいいクリスマスでした。定演そのものが見に来た人へのプレゼントでもありますが、さらにプラスアルファという感じでしたね。
さて、刻一刻と別れの時が迫ってきました。
私は定演がとても楽しみなのですが、進行するにつれて「もうこれでこのメンバーによる演奏は聞けなくなる」という現実が迫ってくるので、少しずつ切なくなってきます。
19時36分。吹奏楽団責任者挨拶が始まりました。
「音楽を届ける」という言葉が3回ありました。大事なことだと思います。入学当時、コロナ禍で届けることができなかった音楽が、いま届けることができる。その喜びと責任感がひしひしと伝わってきました。
そして「部員・新人が楽しんで活動を行って、観客やお世話になっている方に波及させることで、周りの方々を笑顔にできる。そんな団体にしたい」という話がありました。
今年度の楽団がどういう思いで活動してきたかがよくわかる、素晴らしい挨拶でした。
祝電が披露された後、19時43分にブザーが鳴りました。
ついに第3部のドリルです。
メンツ51人が見事でした。一糸乱れぬ黒い靴。動きもよく鍛えられていました。感服したのは後ろへの下がり方がみんな美しかったことです。楽器を演奏しながら後ろに下がるのはかなり大変なことですが、みんな自信をもって後ろに下がっていました。
カラーガード9人も鮮やかでした。絶妙の旗さばき。今年は特に切れ味がありました。投げるのもうまかったし、旗の動かし方もよかったと思います。まるで旗が生き物のようになっていました。
そしてここにチア25人が入り、見事な演技を見せてくれました。
「THX」と文字を作り、感謝の思いを表していたのが印象に残りました。私が学生の頃からチアは定演のドリルに参加していますが、年々ブラッシュアップされているので、毎年見るのが楽しみです。チアもほんとに優秀ですね。
また、スタンツにカラーガードも入ったのが印象的でした。今年の応援部の「一丸」が表されていましたね。
全体的にはアクションが例年より多くあったような気がします。これだけ動きがあると、設計段階で大変なのはもちろん、練習も複雑だと思うし、何より体力を使います。よくここまで盛り込んだなあと思いながら見ていました。
そして私は、ドリルを見ながら1か月ほど前のことを思い出していました。
私は11月上旬のある日の夜、大学付近で秋のリーグ戦の打ち上げをするため、職場から西早稲田駅に向かい、西早稲田駅から学習院女子大の前を歩いていました。
すると、向こうから次々と楽団部員がやってきました。みんな楽器を持っています。
戸山公園に、ドリルの練習をしに行くところでした。歩いている私をすぐ見つけてくれたりして、有難いなあと思って見ていました。
私には「大学に行くと、応援部員5人以上に必ず遭遇する法則」というものがあって、コロナ前はよく発動されていたのですが、コロナ禍ですっかりなくなり、この秋ようやくこの法則が少し復活したところでした。
そんな中で、大学の敷地内に着いたわけでもないのにこれだけの応援部員に会えて私は幸せでした。
そして何よりうれしかったのは、すれ違う部員がみんないい表情をしていたことです。
この楽団には、練習の段階からエネルギーがある。そしてプラスの雰囲気がある。これは絶対定演はうまくいくなと思っていました。
いま、目の前に楽団部員の練習の成果が形になっているのを見て、私はとても感慨深い思いがしました。
ドリルはどれも素晴らしい出来栄えでしたが、特に秀逸だったのが「ウエストサイドストーリー」でした。もう、ミュージカルか映画でしたね。一人一人の部員が俳優のように見えました。
なぜドリルが大事なのか、ということにもつながるのですが、こうした完成された演技を披露することで、舞台は夢の世界になります。私はこれをシュール(超現実)と呼んでいます。
シュールを見せることで、見に来た人の心は洗われ、気持ちが切り替わったり、明日からまた頑張ろうという気になったりします。
応援というのは、頑張ろう・頑張れという気持ちをつないでいくこと=選手の頑張り、観衆の頑張れという思いをつないでいくこと=に大きな意義があると私は思います。
その意味でこれだけ完成された演技を披露できるのは、まさに応援部にふさわしいと私は感じました。
そしてドリル終盤。メンツが一斉に前に出てくる見せ場が圧巻でした。みんなの顔が輝いていました。
そして、少し風を感じました。送風機は使っていないはずなのに、どうして風が…今も不思議なのですが、それだけ部員の気持ちが前に出ていたのだと思います。
20時08分にドリルはいったん終わりました。
しかし、客席からは激しい拍手。
1分余り後に、幕が再び開き、メンバー紹介が行われました。
1年生の笑顔が印象的でした。2年生のアクションがまとまっていてよかったです。3年生はまさかラインダンスをするとは思いませんでした笑。4年生は晴れやかでしたね。「ありがとうボード」も間に合ってよかったです。
そして、主将が出てきて、学生注目の後、ついに今年も応援曲ドリルが始まりました。
毎年言っていますが、大事なことなので何度でも言います。
5年前に応援曲ドリルを考えた人は、控えめに言って大天才です。「応吹にしかできないことを」という思いで始めたこの取り組みは歴史的に見ても素晴らしく、定演を大きく変えました。
これで座奏・ドリルと並ぶ応吹の活動の柱である「応援」も定演で表現することができて、定演が「応吹の魅力全部見せます」という場になりました。
平成元年に紅白歌合戦が2部制になり、過去の歌も全面解禁されて紅白は大きく変わりましたが、平成最後の年に応援曲ドリルを始めた定演も大きな転換に成功し、より素晴らしい場になりました。応援曲ドリルを考えた卒業生に、深く敬意を表します。
今年も素晴らしい応援曲ドリルになりました。
もはや神宮、いや、それ以上。この一年取り組んできたことが全部出た感じの素晴らしい応援曲ドリルでした。
リーダーとチアが客席に入り、場内は最高潮。大盛り上がりでステージは幕となりました。
終了は20時21分。2時間18分の濃厚な空間でした。
前から2列目に座っていた私は、ふと後ろを振り返り、客席を見上げました。
すると、上気した表情の観客が、笑顔になっていました。
「楽しかった」「すごかったねえ」
そんな声も聞こえました。
今年、応吹が目指していた「部員・新人が楽しんで活動を行って、観客やお世話になっている方に波及させることで、周りの方々を笑顔にする」が達成された瞬間を、見ることができました。
さらに私は気づいたのですが、今日の部員はみんな楽しんでいるだけではなく、輝いていました。一人一人に光がありました。
今年10月の稲穂祭を、私は希望のあふれる「光の稲穂祭」と思っていましたが、定演にも光が輝き、その光が、観客をみんな笑顔にしていました。
早稲田の応援歌の「いざ青春の生命のしるし」の2番に、こんな歌詞があります。
輝ける青春よ 伝統は世紀を超えて
われは歌う 君は叫ぶ
声を限りに叫ぶ
ああ早稲田 いざ早稲田
青春の生命(いのち)はたぎる
この日の楽団の部員は「君は光る」でした。
そして「みんな笑顔」ができました。
今年の定演は「君は光る、みんな笑顔」だと私は思いました。
一人一人が光って、みんなを笑顔にする楽団。本当に素晴らしいですね。
最後に、学年別に一言申し上げます。
新人のみなさん、初めての定演おつかれさまでした。チアの新人もチアステで素晴らしい舞台を見せてくれましたが、楽団の新人のみなさんも負けずに定演で素晴らしい舞台を見せてくれてうれしかったです。部員に昇格すると、また新しい世界が見えてくると思います。みんなの熱い思いがこれからの早稲田の応援を作っていきます。頑張ってください。
2年生のみなさん、見どころ満載でしたね。リズム感が抜群だったり、集中力がすごかったり、丁寧に演奏できたり、新しいことにチャレンジしたり、明るく楽しく引っ張ってくれたり、演奏に力があって観客によく伝わったり、新人をいいところで見ていたり…2年生のみなさんのいいところはたくさんあります。来年はみなさんがもっと力を発揮する場が増えるので楽しみです!
3年生のみなさん、すごく楽しかったです。定演も神宮も。僕は3年生のわちゃわちゃ感が大好きです。定演の準備はもちろん、部活のそのほかのこと、そして勉強もあって、やること山盛りで大変な一年間だったと思います。来年、みなさんがどのように下級生を引っ張っていくのか…想像しただけで楽しくなります。大チャンス到来です。頑張ってください。
4年生のみなさん、長い間本当におつかれさまでした。コロナ禍が始まった直後に入学し、応援の場がない中のスタートでしたが、それでもずっと4年生が頑張ってくれたおかげで、早稲田の応援の歴史は続きました。みなさんの努力には卒業生の一人として本当に頭が下がります。神宮の応援席が復活した後、短期間でこれだけ盛り上げることができたのも4年生が引っ張ってくれたおかげです。感謝の気持ちでいっぱいです。これからのご活躍を心よりお祈り申し上げます。
「光っていた定演」は幕を閉じました。
まもなく新年です。
「ひかり」の次は…「のぞみ」。
来年は優勝というのぞみがかなう一年になることを心から願っています。
定演が終わったあと、私は部員にこんな話をしました。
「今年は慶応の年でした」
「夏の甲子園で107年ぶりに高校が優勝し、秋の六大学リーグ戦も優勝」
「神宮大会まで優勝してまさに慶応の一年でした」
「しかし」
「来年は違います」
「来年は40年続いた1万円札の福沢諭吉の肖像に代わり」
「渋沢栄一の肖像の1万円札が発行されます」
「渋沢栄一は大隈重信と大の仲良しで早稲田と関係が非常に深い」
「本当は大隈重信が1万円札になってもいいところなのですが」
「紙幣には政治家の肖像は使わないという不文律ができたため、総理大臣を2回務めた大隈重信は選外に」
「代わって渋沢栄一に、大隈重信の思いが強く託されました」
「つまり」
「来年は慶応に代わって早稲田の年になります!」
来年が今から楽しみです。
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