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コンサートを超えた名舞台・スプリングコンサート

スプリングコンサートの開演前の話です。

私の近くに座ったご年配の方がパンフを見て、ぽつりと一言。


「ミュージカル、みたいだね」。


単なるコンサートではなく、ミュージカルの舞台のようだと思ってつぶやかれたようです。

この言葉は的を射ていて…今回はコンサートを超えた名舞台になりました。

順を追って、振り返ります。


幕開けは「The Bandwagon」でした。衛星ラジオ局の音楽番組のオープニングテーマとして作られた曲で、軽快さが印象的です。

バンドワゴンは「流れや勢いに乗る」という意味もあるので、選曲としてもよかったと思います。

そして、軽快な中に芯の通った演奏ができていたのが印象に残りました。


2曲目は行進曲で「勇気の旗を掲げて」。これぞマーチというマーチです。

楽団の元気のよさが伝わってきました。この曲は高校の数学の先生が作った曲で、奇をてらうところが無いだけに、まずは枠の中でどこまで勝負できるかが求められると思いますが枠をきっちり使い切ることができていて、しかも華やかに仕上がっていました。


3曲目は「風がきらめくとき」。

「風光る」という春の季語を音楽で表現した曲です。和音がキュッキュッと変化するところがよく表現できていたと思います。

たぶんこの変化が、ちょっと不安だったりちょっと期待だったりする春を表しているところだと思いながら聞いていました。

スプリングコンサートが定着しつつある中、春のコンサートは定演よりも季節感が強く求められるのではないか、と思うようになりました。

それは、新入生を迎えるという意味でもそうですし、これからさまざまなスポーツで戦いが始まる、という時期なので、春という季節感、つまり「これから始まる」という感じを前面に出していくのがいいと思うためです。その意味でもいい選曲でしたし、いい演奏でした。


4曲目は「ミス・サイゴン」です。

よかったのは、夢が破れたあとのメロディーが美しく表現できていたところでした。ここでの美しさは単なる美しさとは違い、悲しみとか切なさとか怒りなどのマイナスの感情が内に渦巻く中での覚悟をもった美しさ…という難しさがあるのですが、部員一人一人がこの曲を少しでも表現したいという思いが音に載って伝わってきて、「何があっても生きてゆく」という登場人物の思いが迫力十分に伝わりました。


私は、楽団がこうした物語性の強い曲に取り組んでいることをとても素晴らしいと思っています。

というのも、以前あるオーケストラの人と話しているときに
「音楽は生きざまであり、物語です」
「その生きざまや物語を、どこまで音で表現できるのかが勝負です」
という話を聞いたことがあるのですが、応援部吹奏楽団のみなさんはふだん、早稲田スポーツ各部の試合で、選手の「生きざま」「物語」を見ながら演奏しています。


その楽団のみなさんが、攻守ところを変えて、自分たちが主体となって「生きざま」「物語」を演奏することによって、各部を応援する際にも役に立つ経験になる、と思うためです。


そうした意味でも意義のある一曲でした。今回のコンサートのみにとどまらない、今後の活動に向けてもパワーになると思います。いい選曲でしたね。



ここで司会についても触れます。

落ち着いていていい司会でした。特に1曲目でなかなか照明がつかなかったときもあわてずに対応していて、客席にはすっかり安心感が広がっていました。明るくて、一生懸命で、好感が持てましたし、音楽が好きだという気持ちがしっかり伝わりました。


次にパンフです。

センスの光る、素晴らしいパンフでした。桜色を基調として先ほど言った季節感も十分に伝わってきました。

そして、表紙につぼみも含めた絵を持ってきたのが印象に残りました。

かつて「さくら銀行」(現・三井住友銀行)という銀行があったのですが、その銀行のシンボルも「さくらとつぼみ」で、これから咲こうとする花も忘れずに描いていました。


今回のパンフにも、いま咲いている花とつぼみが両方あしらわれていて、いま咲き誇っている部分とこれから花開こうとしている部分がともに表現されていたのが秀逸でした。


また、わずか3ページの中に必要な要素(挨拶・スタッフ紹介・目標紹介・プログラム・パート紹介)がきっちり盛り込まれていました。まるで、彩りたっぷりの美しいお弁当を見ているようでした。演奏会広報部門、素晴らしいですね。

パート紹介の手書き文字も美しかったです。最近ネット上で平成生まれの人が書く「美しい手書き文字」が話題になっていますが、これはまさにそれでした。いい演奏ができてなおかつ字もきれいというのはすごいことです。



さて、第2部ポップスステージです。

めったに見られない学年別の演奏を楽しみに聞きました。


まず2年生の強く美しいディズニープリンセス。

ディズニーの魅力というのは「安心感&華やかさ」だと私は思うのですが、それがよく表現されていていい演奏だったと思います。

また、ディズニーの演奏は「間」が大事だと思うのですが、そこにも息の合ったところが見られ、これから2年生とても楽しみだと思いました。


2年生のいいところを一つ挙げると、よく気が付くところです。去年、みなさんが新人で入ってすぐの春の神宮の対法政戦で、早稲田に少し分かりにくい形で得点が入った時、いち早く声を上げて演奏に夢中になっている先輩に知らせていたことを思い出します。

この気づきの力で、今度入ってくる新人にたくさんのことを教えていただくとともに、さらによくするにはどうしたらいいのか、みんなで声を出し合っていただくとよいかと思います。



さあ3年生です。

来ました「宿命」。ヒゲ男です。この曲は生まれて5年。テレビ朝日系列の番組「熱闘甲子園」のテーマとして広く知られる名曲になりました。

この曲は、放送のジングル(短い音楽)用にサビの5秒だけ切り出せるように作られており、しかも大阪のABCラジオの高校野球中継で、半イニングごとのCM明けに毎回かけるため、何度聞いても耐えられるような鉄板のサビが構築されています。


3年生はそのサビに負けない演奏を披露してくれました。しかもこのサビ、輝きが半端ないのですが、演奏していた3年生にも輝きがあって、十分対抗できていました。戦える演奏でした。

3年生のいいところは、リズム感、集中力、チャレンジ精神…などで、去年は新人をよく見ていたところも印象に残りました。今年はさらに力を発揮する場が増えます。「戦える演奏」で全体にパワーをもたらしてくれると思いますので楽しみです。



そして4年生です。
アニーのTomorrowを演奏しました。


一部の人には直接お伝えしましたが、演奏に力強さが増したことと、表現力が高くなったところが素晴らしいと思って見ていました。

この曲は逆境の中で前向きに生きることの大切さを歌っています。

「昨日など振り返らない 前を見つめ進むの」という歌詞が印象的です。

この曲のもつ意味をしっかりと表現し、聞いている人の気持ちを明るくさせる演奏になっていました。


神宮でもそうですが、試合でリードされるとつい沈みがちになることがあります。でも、そんなときに声を出したり、一層力強い演奏で応援席を勇気づけてくれている4年生の力をしっかりこの舞台でも見せてくれました。


また、歌もよかったです。しかも、みんな口角が下がらずに歌っていました。演奏しながらなので歌い続けるのは結構大変だと思うのですが、口角を下げずに歌えたので、歌もはっきり届きましたし、明るい雰囲気を伝えることもできました。

4年生のいいところは、今までの「良きわちゃわちゃ感」に加えて、それぞれが個性をしっかりと発揮し、楽団全体をまとめ上げているところだと私は思っています。

みんなやること山盛りのはずで、よくここまでいろいろなことができているなあ、と外部の人間である私も思うくらいなので、きっともっとたくさんいろいろなことに取り組んでいるのだと思います。この力量の高さで、今後も楽団、そして部を引っ張っていってほしいと思います。



第2部が終わりました。

私はここまででもうかなり満足でした。


しかしまさかの幕間(まくあい)企画の劇で、私は驚くことになりました。



秀逸な幕間企画でした。


まず、セリフを言う人と役者を分けたのが素晴らしかったと思います。これで役者はセリフを覚える必要がなくなり、長い劇が可能になりました。

そして、神宮を模した演奏をたっぷり見せてくれたのもよかったです。今の早稲田の音楽応援の源流のF1からのコンバットマーチをしっかりPRすることもできました。

さらに、夏のドリル練習なども入れ込んで、楽団が年間で何をしているのかを可視化していました。入部しようと思っている新入生はもちろん、部員の親御さんや、あまり応援部のことを知らない人にも訴えかけるいい企画でした。


尺10分にわたる脚本を書いた人も素晴らしいです。面白いだけではなく、楽団のことをわかってもらう話にするためにいろいろたくさん直しを入れたと思うので、大変だったと思います。

今回のスプリングコンサートは、聞かせるだけでなく見せる舞台になっていました。

近くに座った人が最初に「ミュージカル、みたいだね」と言っていたとおり、もうコンサートを超えていました。


ここまでの名舞台を作り上げたのは、企画運営部門の第1部からの選曲力と随所に見られる企画力の高さによるものだと思います。よく練られていました。

「早稲田の応吹にできること」
「早稲田の応吹にしかできないこと」
この2つを次々と提示し、ナンバーワンかつオンリーワンの魅力を表現できたと思います。




第3部、ドリルステージです。

春のドリルはやることがたくさんあると思うのですが、この舞台に合わせて今できることをしっかり見せてくれるいい舞台だったと思います。

ドラムメジャー、ガードチーフ、ドリルスタッフが一体となって新体制になってからの短い間にここまで仕上げてきたことに敬意を表します。明るい舞台になっていました。

と同時に思ったのは「自分たちのドリルをしよう」という気持ちがあちこちで感じられたこととです。これから新人も迎え、令和6年度ならではのドリルを模索していくことになると思います。これからの進化がますます楽しみです。


また、ドリルステージではチアリーダーズの活躍も非常に印象に残りました。

今回の舞台は奥行きが10メートル余りだったと思います。そこでドリルが行われている中、縫うようにしてチアが演技をするのはなかなか大変だったと思いますが、鍛えられた様子を存分に見せてくれました。


神宮でも思っていたのですが、チアのメンバーはテンポがよくて、集散が早いので流れがよく、素晴らしいと思います。



そして、トリの応援曲ドリルを前にしたリーダー執行委員の学生注目が素晴らしくて、目を引きました。

「応援部吹奏楽団は、応援にも、演奏にも、そして何より、人に対して熱い思いを持っている」。

この言葉に強い力がありました。ここで大きな拍手が上がりましたが、見に来た人もそうだと思った証拠だと思います。

この学生注目で、応援曲ドリルに向かう気持ちが客席にも広がり、場内は熱い一体感に包まれました。


特に昨日はほとんどの席が埋まったので観客がハリセンを叩いて応援する様子は壮観で、まるで早慶戦のようでした。


そしてうれしかったのは、高校生や新入生と思われる人が、応援曲ドリルが始まると、席から身を乗り出してリズムをとっていたことです。


楽団、チア、リーダーが勢ぞろいして早稲田の応援部の力を三位一体で示した素晴らしい舞台でした。

楽団のコンサートが、最後は三位一体の、部全体の舞台になり、壮大さを感じさせてくれました。


今回のスプリングコンサートは、コンサートを超えた素晴らしい名舞台でした。


こうして1時間52分にわたる夢の舞台は締めくくられました。

醒めないでほしい夢でした。



Twitterにも書きましたが、これだけの演奏と演技とテク、そして多彩なメンバーがいれば、今週末の対明治戦は、明治がどんなに大量に応援席に人を集めようと全く問題ないですし、何より、早稲田の力と存在感を見せて勝つことができると思います。対明治戦に向けてもよい舞台でした。



最後に一言申し上げます。


舞台を見ていて思ったのは、部員みんなそれぞれ存在感があるということです。

しかもそれがいい存在感で、みんないい雰囲気を身にまとっています。



大学に素晴らしい後輩がいて、私は幸せです。


春はこれから佳境になります。これからますます楽しみです。

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