なぜ応援が必要なのか その理由
3年前の連続テレビ小説「エール」で、古関裕而さんがモデルの裕一は、応援歌を書いてほしいと頼んできた早稲田の応援団長にこんなことを言ってしまいました。
「書けない」
「応援歌って勝ち負けに関係ありますか?」
「早稲田が負けるのは弱いからです。実力不足です」
これにショックを受けた早稲田の応援団長は自問します。
「応援って自己満足じゃないですか」
「勝敗に関係ありますか」
このシーンを見たとき、私は胸をえぐられるような思いがしました。学生時代から長年思っていたことを、朝ドラのセリフとして突き付けられたからです。
しかし、中学時代野球部で投手だった早稲田の応援団長は、バッテリーを組んできたもののケガで野球を続けられなくなった親友からこんな言葉をもらいます。
「早稲田を勝たせてほしい」
「早慶戦をラジオで聞くことが一番の楽しみだ」
ここで団長は「野球を頑張る人のおかげで頑張れる人がどこかにいる、頑張ることはつながる」ということに気づきます。
そして団長は「その思いをつなげるために応援はあるんだ」ということに気づいて、裕一に改めて応援歌を依頼し「紺碧の空」が生まれる…という話です。
私は息をのみました。
「野球を頑張る人」と「それを見て頑張りたいと思う人」をつなぐ役割として応援はある、ということに初めて気づいたのです。
リーダーがテクを振ることも、チアが演技をすることも、楽団が演奏をすることも、そして観衆が応援歌を歌ったり声援を送ったりすることも含めて、応援部の頑張りは、全部「人と人をつなぐ」という役割を果たしているのです。
ですので、応援部員が少しでもいいテク、少しでもいい演技、少しでもいい音色を届けることと、観衆が少しでも声を出して歌を歌うことは重要です。
これが弱いと野球部と応援している学生や一般の人とのつながりが断ち切られてしまうからです。
さらに私は思います。
実際にプレーしている選手に話を聞くと「応援は心強い」と言います。そして「自分の力が100%出せる」という選手もいます。
というのも、選手はあの広いグラウンドの中で、孤軍奮闘しているからです。基本的には1人で何でもこなしていかないといけません。判断も瞬時に1人でしなければなりません。役割をきっちり果たすことが求められます。プレッシャーも尋常ではありません。
そこに「がんばれ」「大丈夫」「いいよ」と声援を送ることで選手は前向きな気持ちを維持しやすくなります。
社会心理学が専門の、九州大学の山口裕幸教授は、次のように述べています。
「応援の効果を考えてみると、応援すれば選手の客観的なパフォーマンスが良くなるとは限らないものの、少なからず影響を及ぼすことは間違いないと言えるだろう」
「選手のパフォーマンスを高めるような、本当の意味での応援として機能するためには、応援の仕方が意味を持ってくるように思われる」
まさに応援部の出番です。応援の仕方をリードするのが応援部です。
早慶戦では応援部の役割はとても大きく、とても期待されています。
私は昨日の稲穂祭で部員に
「今回の早慶戦ではリミッターを外したような応援を見てみたい」
と言いました。
リーグ戦でやってきたことに何かプラスがあるといいのではないかと私は思います。
例をあげます。
3年前の秋の早慶2回戦。勝った方が優勝の早慶戦になりました。私は神宮ではなく、職場の大きなモニターとスピーカーの前にいました。
(これはこれで貴重な経験でした)
早稲田は1点リードされ、9回2アウトランナー無し。慶応の優勝まであと1人になりました。完全に追い込まれていました。
するとその瞬間です。
カメラは外野席の早稲田の応援部をとらえました。コンバットマーチです。リーダー4年の必死の突き。腕が千切れるよというくらいに。
そして、その後ろに控えていたチアがこれでもかというくらいの必死の演技。ポンポンが飛びそうでした。ちょっとヤバかったです。そして、前を思いつめたように見つめている様子が映りました。私は息をのみました。こんな迫力のある演技があるのか?と思いました。
さらに驚いたのは、大太鼓の音がはっきり聞こえてきたことです。
内野応援と違い、外野の太鼓は中段にあるため、収音マイクからかなり遠い位置にあります。ですので、普通は太鼓の音はあまり入りません。
しかしこのとき、太鼓の音がマイクに入るまでになり、スピーカーからはっきり聞こえてきたのです。私は衝撃を受けました。
みんなの思いが、すごく前に出てきていました。
「これだ。この雰囲気だ。これが早稲田の応援部だ」と私は思いました。
すると、この大逆転ホームランが生まれました。
打った蛭間は文句なしにすごいです。そして、その蛭間に渾身の応援を送り続け、リミッターを吹っ飛ばしたような応援部の応援もすごかったです。
今回の早慶戦でも、こういう何かを超えた応援をぜひ見たいと思います。
みんななら、できます。
明後日からの早慶戦、神宮でみんなに会うのが楽しみです。応援しています。
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