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働きはじめた頃、やや高めのトーンで電話に出るように、と指導された記憶がある。その記憶をたどると細かなところはモヤの中で、覚えてはいない。本や映画の断片と、自分の記憶とが混同している、わたしのいつもの状態なのかもしれない。

実際に働きはじめると、社歴の長い女性先輩の電話応対は低音だった。わたしは、女の声はナメられると次第に体感していくことになる。

反対に、営業の電話や、こちらから頼みにくい話は、女も男も猫なで声になる。

いつもはアシスタント役をしている女性アナウンサーがある日、メインパーソナリティーを任された。その日の彼女の声は普段よりやや低くて、好ましかった。

役割で声色が変わるのは自然だ。
自分の体から発せられる音のひとつが声なのだから、寝不足のとき、満腹のとき、走っているとき、体の状態によって声(音)は変わる。心と体はつながっているのだから、声は当然変わる。それは自分次第であるべきで、やっぱり電話応対の声色について人から指図されたくない。

そういえばわたしの友人に、声が素直な人がいる。満たされている声。心配事がある声。良くない恋人がいる時期の声。ぜんぶわかってしまう。

最近の彼女にはきっと心配事があって、でもわたしとは生活がまったく違ってしまっていて、お互いにそのことについて喋っても何にもならない。愚痴をこぼす相手に、わたしはなれない。そういうことがわかってしまったので、連絡をひかえている。

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