「難聴児の早期発見・早期療育推進のための基本方針(案)」にパブリックコメントを投稿しました。

e-GOV「難聴児の早期発見・早期療育推進のための基本方針(案)」に関するご意見の募集について

「難聴児の早期発見・早期療育推進のための基本方針(案)」の
IGB伊藤芳浩氏ら有志の皆さんによる手話翻訳版はこちら(Youtube動画)

※本当はもっといろいろ言いたいことはあったのですが、2000字以内という文字数制限の中で、そぎ落として提出したのが下記の文面です。

<パブコメ提出文>
方針案では、重度聴覚障害児への手話支援についての具体的な方策が読み取れません。第3回検討会で酒井構成員が指摘したように、難聴児の早期発見・早期療育を進めたとしても、すべての難聴児が音声日本語の獲得にいたる訳ではなく、音声日本語の獲得にいたらない難聴児には、手話を母語として獲得するための早期支援が必要です。しかし方針案では、このための専門家(早期療育期においてはいわゆる手話支援員、聴覚支援学校(級)においては第1回検討会で玉田さとみ氏から説明のあった私立明晴学園のような、日本手話で教育可能な教員およびろう者教員・保育士など)の育成・確保などについては具体的には触れていません。この点については、同じく酒井構成員が第4回検討会で指摘したように、聴覚の有無だけでなく、言語の獲得という側面での総合的な支援体制の検討という視点が必要なのではないでしょうか。
検討会の議事録や録画をみると、多くの構成員やヒアリング対象者のいう「言語」が「音声日本語」のみを想定しているように感じられます。また、第3回議事録でも触れられていましたが、聴覚障害女児の交通事故損害賠償請求事件で、聴覚「障害」のある「女」児ということで、逸失利益は二重に減額されるべきだとの主張が被告側から提起されました。また、聴覚障害があることを理由に、断種手術を受けた人々の補償問題なども記憶に新しいところです。これらを考えると、日本社会における聴覚障害への認識は、本人が障害を解決すべきという「障害の医療モデル」に基づいているように思われます。本検討会およびモデル事業報告を見ても、ほとんどが音声言語の習得をサポートするための耳鼻咽喉科医や言語聴覚士を含む多職種連携や、音声日本語を中心としたアセスメント(ALADJINの利用など)が中心に議論されています。豊かな社会生活を送るためには、音声の日本語を話す力が要求されるという考え方は、「障害の医療モデル」に基づいています。しかし、これは日本も加盟している障害者権利条約の基本的立場である「障害の社会モデル」に、さらには手話を言語と認める障害者基本法第3条の趣旨にも反する議論構成なのではないでしょうか。このような議論構成で「様々なコミュニケーション手段の選択」の構想が本当に可能なのでしょうか。関連して、地方公共団体の担当職員、医師、保健師、言語聴覚士等が、「言語としての手話」についてどの程度の理解・知識を有しているのか、その点の理解の促進策の構築も必要と思われます。そうでないと、結果として、日本の少数言語としての日本手話のジェノサイドに、検討会の議論が加担してしまう惧れすらあります。
本検討会が手話の獲得についてはあまり配慮していないと思わざるを得ない理由は他にもあります。まず、検討会議事録が最新のもの以外は手話翻訳映像が残されていないこと、このパブリックコメント自体が日本語でしか受けつけられていないことです(なお、本意見執筆中に、「上記以外(文書以外)の方法で(中略)提出前に御相談ください。」という文言が付加されましたが、そのような注記が最初からあった訳ではありません)。どうしてこの問題について、手話による情報保障やパブコメの受付けは不要と考えられるのか、不思議でなりません(なお、私個人は、障害者基本法の上述の趣旨からして、日本政府のあらゆるパブリックコメントは、手話によるものも受けつけるべきだと考えます)。
財政面での提言について意見を述べます。方針案には、手話を母語にした場合の保護者・ろう児の負担軽減についての財政支援策への具体的な言及がありません。検討会でも、聴覚障害児教育における補助金と人材の地域差を調整する必要性が指摘されてきましたし、方針案では、聴覚スクリーニング検査の全国展開、検査結果の共有システムの構築、補聴器や人工内耳の利用についての補助、療育情報へのアクセス、聴覚障害児の療育の拠点としてのろう学校の人員・予算の増強や、専門家の育成・配置などについては財政措置の必要性に触れらていたと思います。しかし、先述したいわゆる手話支援員の養成・制度化、手話のできる心理職の養成、聴教員や保育士への日本手話研修の機会提供、ろう者教員や保育士の養成(および進学体制・奨学金制度の構築)、日本手話による教育教材の開発、聴親への日本手話学習機会の提供、ろう成人に対する学び直しの機会提供などについては、財政措置の必要性についての議論が不十分だと思います。今後の議論に期待します。
なお、共働き親や母子家庭への支援は、どのような育て方を選択をしたとしても、喫緊の課題ではないでしょうか。支援のあり方として、親からの申し出を待つプル型ではなく、医療ケア児のように様々な専門家が積極的に介入して一緒に育てるプッシュ型の体制を検討する必要もあると思われます。



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