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エスキスのコツ〜条件整理・試算①②③(2022版)

はじめに

Twitterにも書きましたが、例年以上にエスキスに苦しんでいる人が多い印象を受けます。一つには資格学校の課題が難易度的に高めなこともあると思います。また『2022年一級建築士製図試験課題「事務所ビル」』で触れたように基準階タイプが想定されるとはいえゾーニング要素の多い(というより相性が良い)用途のためゾーニングタイプのエスキスの理解が必要な課題用途であることも理由でしょう。本試験で同等難易度程度のものが出るかというと昨年、一昨年を考えると無さそうな気もしますが、R1年の本試験の難易度を考えると難しいものにも対応する力、準備は必要になります。
この記事では「そもそも」の話から本質的な所までを整理したいと思っていますが、資格学校(S資格)に通われているならば全て講義でやっているはずですし、何ならテキストに書いてある内容です。それでもエスキスがわからなくなっている人がいる原因は、講義を受けた時やテキストを読んだ時にリテラシーが備わっていなかったからだと思っています(つまり学習の進んだ今であれば、動画やテキストの復習でわかるようになっている部分がある、ということです)。英語を全く知らない人に「アップル」と言っても「赤い果物のりんご」がイメージ出来ないのと同じで、講義やテキストでこれが「解法です」と習ってもそれを「解法」として認識出来ていなかったのだろうな、という印象を持っています。この記事ではその辺りを丁寧に書いていくことにします。
なお、エスキス手法としてはS資格の方法によっているため他の資格学校や教材での方法との相違や齟齬については質問等されてもお答えできないことご承知おきください。

エスキスの構成

エスキスは大きく分けて平面検討(1/1000)=左半分までと、それ以降1/400プランニング=右半分の2つの部分から成ります。純粋にプランニングが下手くそ、やり方がわかっていないという方もおられますがそういう方向けの記事としては『エスキスのコツ〜平面検討・プランニング』というものを既に書いています。エスキスの左側、断面検討まで(試算③まで)は分かっているし問題ないけどプランが上手くいかない、という方はこの記事ではなく『エスキスのコツ〜平面検討・プランニング』を読んで頂いた方が実際的な役に立つと思います。ただ、試算③までは完璧だと思っていてもこちらから見るとそうなっていない受講生が多い、というのがこの記事を書こうと思った理由でもあります。1/400が上手くいかないと思っている受講生は1/400プランニング自体が問題だと決めてしまう前にもしかしてそこまでの検討に問題が発生しているのかも知れない、と疑うことも必要かと思います。出来れば担当講師に聞くと良いでしょう。講師も様々ですがどうしても10人〜15人を担当しているため見きれていない可能性は大いにあります。エスキスの添削は全く行わず、図面だけの添削をしている講師ならなおさらエスキスに失敗の原因があっても把握していない可能性が高いです。ダメ講師でない限り「こうしたかったけどこう出来なかった、なぜでしょうか?」と具体的に聞くことでその根本原因の指摘、ひいてはエスキスの問題点にたどり着けるはずです。お金を払っている方は講師を上手く活用してください(私の知る限り、わかっているのに労力削減のためそこまでやらないという講師も存在するので)。
この記事ではプランニングではなく、主に平面検討(1/1000)までのエスキスについて言及していきます。

この記事の対象読者

改めて、以下のどれかに当てはまるような方をこの記事の対象読者として想定しています。

❶そもそもエスキスの左側で何をやっているのかわからない(目的がわからない)
❷条件整理をどこまで細かくやるべきか判断がつかない
❸建築可能範囲はいくつも出す必要があるのか判断できない
❹基準階のスパン割にパタンがある時決めきれない
❺最大外形とか仮想床とか理解できない
❻廊下係数検討の意味がわからない(結局どんな数字でも1/1000に移行している)
❼明らかにおさまらない廊下係数が出た時の対処がわからない
❽検討は正しいはずなのにプランしたら廊下がなく法違反(避難経路)になった

細かく列挙してみましたが、❷〜❻については❶に起因しています。つまりエスキス左側でやっていることが何なのか、何を目指しているのかわかっていないことが原因です。❼については❷〜❻の検討で出てくる「数字の意味」を理解していないことが原因になります。「数字の意味」を理解していれば対処法も見えてきますし、そもそも「どのような数字が必要」なのかも想定出来るようになります。そしてこの記事に興味を持った方には❽のような方が多いのではないかと思っています。法違反にはならなくても室面積が要求以下になる、室欠落が起こる(面積がなくて計画出来ない)といった問題も同様の原因によります(オリ④の2階でこの問題が顕在化している方が多い印象です)。こうした❽に該当する方の多くは「検討は出来ている」と思い込んでいて出来ていない、という状態です。出来ている、と思い込んでいるのでプランニングするまで気付かない、ということが起こります。この❽のような方が抱えている問題が『エスキスが苦手な受講生の共通点』で書いた、「情報の不採用」です。❼の原因でもある「数字の意味」が理解出来ていないので「情報が採用出来ているかどうか」に意識が向いていません。そして課題の設定が厳しくない場合、「情報が不採用」であっても何と無くプランニング出来てしまうこともあります(昨年、一昨年の本試験等)。その為自分自身のエスキスの問題が左半分にある、ということに気付きにくくなってしまいます。
一方、課題の難しさが、空間構成に関わるもの(廊下取れない、室面積確保出来ない)ではなく、アプローチの処理(R3本試験)やゾーニングの遵守(R2本試験)である場合、上手くまとまるかどうかはプランニング力(『エスキスのコツ〜平面検討・プランニング』の内容)にかかってきます。自身のエスキスや作図のどういう所に不備があるのかで今後の学習を強化すべき内容も変わってくることは認識した方が良いでしょう。

以下、上記❶〜❽に沿って出来るだけ丁寧に具体例も交えながら書いていきたいと思います。

❶エスキスの目的とは何か

そもそも、の話からします。一番の目的は当然「一級建築士試験合格」です。その為には合格図面(+要点記述)を描きあげる必要があります。合格図面とは「明らかに不合格ではない図面」のことです。エスキスとはその「明らかに不合格ではない図面」の下書きを完成させることです。上述したようにエスキスは左半分(平面検討まで)と右半分(1/400)に大きく2分されますが、極論すれば右半分、完成した下書きさえあれば最終目的である「一級建築士試験合格」には届くのです。

私は検討が曖昧な、なんとなくやってしまっている受講生に毎年のように言うのですが、左半分の意味をわからずにやっているのならば最初から下書き(1/400)をやればいいのです。その方が幾分か時間も短縮出来るし、そもそも断面検討で決めた階構成や1/1000で決めた室配置を変えるのならば、その検討に使った時間は無駄以外の何物でもありません。ただそう言って「わかりました、次から1/400をいきなりやってみますね」という受講生は当然いません。直感的に、そのようにいきなり書く1/400は「明らかに不合格ではない図面」の下書きにはならないことがわかっているからです。

このことからも理解してもらえると思いますが、この記事で言及するエスキスの左半分つまり平面検討までに行っていること、その目的は、不合格図面にならないように可能性を限定していくことです。いきなり1/400のプランをしようとするとそれこそ無限の可能性があるわけですが、その中から不合格になるプランに進む可能性を排除していくことで、結果「明らかに不合格ではない図面」の下書きが完成するのです(この辺りのことは表現は違えど『エスキスとは何か』という記事にも書いてますので時間ある方は読んでみてください)。
つまり試算①、②、③は(以下❷〜❻の内容は)いくつもの選択肢から合格に近いもの(不合格にならないもの)へと限定していく作業であり、そこでの決定(=1/1000)は必ず1/400に反映しないとエスキス左半分の意味がないことになります。

最後に、どのようなものが合格に近い(不合格にならない)下書きに繋がるのか、です。
当たり前のことですが、決められた敷地におさまり(試算①)、決められた大きさ(容積・形状)にもおさまり(試算②)、諸室が決められた各階にある(試算③)ものが不自然なく不合格にならないプランが出来るはずです。
エスキスの左半分では、この当たり前のことを確認している「だけ」(プランニングなど行わない)です。
次項目以降では、この当たり前を導くための試算①、②、③について詳しく言及します。

まとめ:エスキス左半分の目的は「可能性の限定作業」

❷条件整理の必須項目

条件整理は人それぞれ、密度も分量も異なっています。機能図を細かに書く人もいれば駐車場、駐輪場を何パタンも書いたり、あるいはそういうものを全く書かない人もいます。

講師によっても考え方は異なるでしょうが私の考えで結論から言えば、何を書くか書かないかは「ほとんど」自由です。機能図などは最終的に左半分で出来上がる1/1000終了時にオレンジマーカーの内容が確認し易いかし難いかの違い程度のものだと考えています。ただ、「ほとんど」自由ということは、「必ず」必要なものもある、ということです。

※以下有料パートになります。
❺以降は箇条書きベースです。今後よりわかりやすく読んで頂けるように本質的な内容は変えず加筆修正していきます。
なお、他の記事でも書いていますが基本的に通学されている方にとっては講師が教えてくれる(あるいは知っているけどあえて伝えていない=消化不良になるのを防ぐ)内容です。目次でタイトルは確認できると思いますので気になる内容は購入前に講師に聞く方が良いかと思います。あくまで講師に恵まれていない方や独学で学習されている方向けに書いています。

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