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TOKI RIVER 第7話

オノダの場合

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 反射ベストの軍団とクラウトロックの一団
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この土地に来て最初の夏。
私は土岐川で長い1日を過ごすことになった。
 
土岐川での平穏な日常を遮るように物々しく張られている立ち入り禁止テープ。
整然と並ぶおびただしい量の赤いカラーコーン。
ゾロゾロとウロつく反射ベストの軍団。
狭い堤防道路を大きなトラックが大挙して通り、河川敷へと降りていく。
 
私はそれらをずっと見ている。
そして、いろんな人に声をかけられる。
 
「川は誰のもんじゃあー!」
「川は川に住んでいる生き物のものですが、今日はですねー」
話を聞かず規制を飛び越え、川へ飛び込むおじいさんと孫ふたり。
 
「なんの権限があって私に注意できるんですか」
「ふつうに考えておかしいことをしてるからやめてくださいと言っているだけです」
休みの会社の敷地にビニールシートを広げようとするなんの権限もない人。
 
「警備員とガードマンっちあー、何が違うの?」
「それはツナとシーチキンみたいなもんでして。ガードマンは、昔宇津井健さんがですねー」
唐突に話しかけてくるおばあさん。
別に今このときに聞かなくても、私も話さなくても。
 
とにかく長い1日だ。
そして、暑い。
 
時間が経つに連れ、
ビニールシート、屋台のテント、
浴衣、揃いのTシャツ・ポロシャツ、そして反射ベスト。
と土岐川の周りがどんどんといろんな色のついた人と物で(景色が)埋まっていく。
 
みんな楽しそうな顔している。
ただみんな全く罪はないのだが、楽しそうな顔をした人たちがあまりにも集まるものだから、恐怖を覚えるほど雑踏が生まれている。
笑顔の雑踏だ。
 
その雑踏の一角でひときわ人だかりを作っている店がある。
マジかー、なんだ?
店の名前をみる。
んー、ん?
クラウトロック?
んなわけないか。
あー、あ?
看板にデザインされてる緑のカラーコーン。
これは間違いない。
クラウトロックの一団だ。
そんなクラウトロックの一団の向かいで、反射ベストの軍団が傷つけないように笑顔の雑踏と戦っている。
 
辺りが暗くなり雑踏が止まる。
アナウンスが流れる。
閃光と爆発が上空で起こる。
閃光と爆発を見上げる笑顔の雑踏。
閃光と爆発を背に笑顔の雑踏と対峙する反射ベストの軍団。
轟音の中に身を置き、外部から音が遮断され穏やかな気持ちになっているのか、
閃光の向こうに自分の記憶を映し出しているのか、
反射ベストの軍団越しにみる笑顔の雑踏の顔はさらに穏やかだ。
方やさらに盛り上がるクラウトロックの一団。
 
やがて閃光と爆発が夜空から消えると、徐々に雑踏が散り、土岐川から色彩が消え、代わりに暗闇がじりじりと広がる。
そんな中で、ちょうちんのように点在する反射ベストの軍団の反射ベストの赤い点滅。
 
雑踏が消え、その後反射ベストの軍団が解散しても、人だかりが消えないあの一角。
クラウトロックの一団だ。
いつまでも終わりが見えない。
笑顔だ。声が聞こえる。
「毎日こんなんやったらえーな」
ああ。
ブロックパーティてこういうことをいうんだな。
 
長い1日が終わった。
これ毎年やるのかと少し気が重くなりつつも。
とりあえず、ココイチでカレー食べて帰ることにした。
 
このときは知る由もない。
反射ベストの軍団の私が、土岐川とクラウトロックの一団とこの先関わっていくことになるとは。
そして、まさかこの時間が途絶えてしまう日が来ることも。

(About Story)

土岐川は、土岐川が流れるそれぞれの地域の河川敷で毎年夏の風物詩が開催されており、私は仕事がら毎年関わらせてもらっています。
朝から晩まで土岐川周辺をウロウロしていることで見えるものを、自分のお仕事目線(=反射ベストの軍団)で書いてみました。
クラウトロックの一団(=分かりますよね)の存在を認知したのもまさにこのときです。
そんな夏の風物詩もここ数年、こんな渦のせいで、土岐川の周りでは行われていません。
来年以降、その姿を変えて土岐川の周りで開催されたら、またどのような景色が見れるのか怖くもあり、楽しみでもあります。

(Author & Selector)

オノダアツシ

オノダアツシ

岐阜市と多治見市を行き交うブラジル音楽が好きなおじさん。
略してブラジルおじさん。
TOKIRIVERの管理人。

川川川川川土川川川川川岐川川川川/||川川川川川魚川川川川川

プレイリストTOKIRIVER オノダセレクト40曲目~46曲目

プレイリストTOKIRIVERは土岐川にまつわるストーリーのサントラです。土岐川の普段の流れのごとく、ゆるっと更新しております。ストーリーと一緒にプレイリストをお楽しみください。プレイリストは、下記のリンクから入るとSpotifyで聴けます。読みながら聴きながら読んで聴いてヨンデキイテ…してみてください!
(オノダアツシ)


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