削片

関西にいる時、自分が関西弁を喋れないことがコンプレックスだった。どうにも表現したいニュアンスがあの関西弁のイントネーションでしか言えないことがままある、と東京にいる今でも思う。

使う言葉の温度が同じくらいの人と出会いたい。

久々に体調を崩して家に閉じこもっていた。
いつものように映画を観る。一歩も外に出ないと気持ちまでうちにこもってしまって、ぼんやりとした将来への不安とか昔あった嫌だったことで部屋が埋め尽くされてしまう。天気が悪いのも良くない。

映画をたくさん観たい。観たい映画がたくさんある。小説をたくさん読みたい。詩の朗読をやりたい。

この間パストライブスを観た時、仕事が終わった夜のちょうど良い風に吹かれながら自転車を漕いで映画館に向かい、終わってちょうどみんなが2軒目を探している頃に駅の雑踏を走り抜け、暗い大通りを音楽も聴かずに走った。帰り道も映画みたいだった。

毎朝通る道にパジャマを着たおばさんが所在なさげに立っている。ある日少しだけはやく家を出た。
その日、いつものパジャマのおばさんは旦那さんらしきスーツを着込んだおじさんと家から出てきた。
そして、おじさんが曲がり角を曲がるまでずっとずっと手を振っていた。おじさんの背中に向かってずっと。その距離大体50メートルくらいか。
おじさんは曲がり角を曲がる間際に振り向き、小さく手を振り返した。いつかの朝、おじさんはたまたま曲がり角を曲がるタイミングで振り向いておばさんがずっと手を振っていることを知った日があったのだろう。

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