傷痕だらけの手(24/3/3)

僕は二輪業界の人間だ。毎日毎日、ネジを緩めて締めて、パズル解くように分解しては組み立て、1日に2度はエンジンを降ろし、作業着はいくら綺麗にしても、その日のうちに真っ黒になっている。

傷痕が増えるばかりの手。ガソリン染み、歪んだ爪、治りかけては新しい切り傷と擦り傷ができて、オイルの匂いが着いた、痛々しい手。
この仕事を始める前は、そんな手に憧れていた。プロというか、職人というか、まさに技術者という感じ。
でも、僕はこの手を、誇りに思えないでいる。不注意で負った怪我も、努力の末についた傷も、真剣に仕事をやっていたからだ。技術者の手には違いないと思う。

自分の仕事が、誰かの楽しみに繋がることもある。そして、誰かの命を奪うかもしれないことも。バイクで事故に遭ったことがある。バイクが原因ではなく、自分が操作や判断を誤ったり、車にぶつけられたりしただけ。僕は無事だったけれど、そうやって亡くなる人もいる。そんなバイクに、自分の携わった部分があったら。そう思うこともある。
いつもそんなことを思っているわけじゃなくて、専らの理由は待遇に対する身内の僻みなんだけどね。何をもって給料分の仕事をしていると言えるのかは難しいところだと思うけど。学歴や年齢で決まる給料差。「俺の方が実績を出してるのに」なんて言わせたくないから、同じ時間でほとんど倍近くの実績を出す。そこでサボって遊んで実績をかさ増ししてる奴よりも。他チームのフォローだって、他部署の連携だって買って出る。「おちゃらけてる割りにやることやってんじゃん」くらいに見えるように。
こんなの、ほとんど意地だ。そんな意地でやってる結果の手を見て、なんだかなぁという感情があったりするわけ。

本当のところ、大好きな憧れのあの人に誇れるような自分でいたい、それだけなんだ。僕に生きる理由をくれたあの人に見合うような存在でいたいよ。ただそれだけのために、この手をボロボロにしているんだ。

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