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資産除去債務 (ARO)と財務モデル

今回は資産除去債務についてである。主に製造業でよくみられる勘定科目であるが、アスベスト等、設備撤去時に除去義務のあるようなものは固定資産の取得原価にあらかじめ含めて処理しなさいよ、という趣旨の会計処理である。

有価証券報告書でも資産除去債務を計上している企業は多いので、取り扱いを知っておくに越したことはないであろう。


概要

資産除去債務は製造業などでよく見られるが、有形固定資産を除去する際に一定の費用が掛かる場合に事前にその費用を見積り、負債としてオンバランスするとともに対応する額を固定資産の取得原価に含めて処理するというものである。

細かい会計処理や仕分け例は監査法人のサイトなどに記載されているので割愛するが、pointとしてはEBITDAを計算する際に、資産除去債務の利息費用相当額をPL上は減価償却に含めている点に留意が必要である(後述)

計算例(Excel)

まずは以下のように基礎的な仮定を整理する。

基礎的な仮定

資産除去債務は将来の除去費用を一定の割引率を用いて現在価値に割り引いて第1期目期首の残高にする(この点はリース会計と同じ発想)

会計士試験を受験された方にはお馴染みかもしれないが、資産除去債務(以下ARO)は資産負債の両建て処理を行うので資産サイド、負債サイドに分けてモデルを組むと理解しやすい。

資産サイド

資産側で見る場合は、固定資産の取得原価にARO相当額を含めて、減価償却計算を行う。したがって減価償却計算のベースになるのは、当初の取得原価+AROの割引現在価値になる。

固定資産スケジュールの例

毎期の償却費は上記の合計額を耐用年数(上での例では5年)で割ればいい。

負債サイド

負債側で見る場合は、計算したAROの期首残高に割引計算に使用した利率を乗じて毎期残高を増加させる。

AROのスケジュール

仕訳上は借り方に利息費用、貸方にAROが立つが、利息費用は減価償却の区分(すなわちSGAの区分)に計上される点に注意が必要である。
現在価値はPV関数で計算できる。

実際にAROに付随して履行した現金支出額とBSの差額は履行差額としてPLに計上する。

財務モデル|バリュエーションとの関連

AROに関してバリュエーションとの関連で重要になるのはEBITDAの調整と、デットライクアイテムとしての調整であろう

EBITDAの調整

先ほど少し記載したが、AROの利息費用に対応する部分がPLでは減価償却の区分に計上されているが、実質的に金融費用なのEBITDA(利払い前利益)を計算するためにはAdd backしないといけない。

デットライクアイテム

DCF法やマルチプル法により、デットフリー・キャッシュフリーの事業価値(EV)を計算した後に、ネットデットを控除して株式価値を計算するが、その際にネットデットの構成要素であるデットライクアイテムにAROを含める必要がある。

AROは実際に資産が除去された際に損金算入されるので税効果会計の対象になる(将来減算一時差異)。そのためデットライクアイテムに含める際には税効果分を控除しないといけない。
計算式的には、BS残高×(1ー税率)の数値をデットライクアイテムに含める。

また、税務上留意する点としては、資産除去債務分の“減価償却費”と“利息費用”は税務上損金算入できないので課税所得を計算する際には財務モデル上、税前利益に加算調整をしないといけない点に留意しよう

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