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シナジーについて- DCFモデル

今回は事業会社が企業を買収する際に論点になりやすいシナジーについて。バイサイドのM&Aでは、特に買手が事業会社で同業他社を買収する場合は必ずと言っていいほど論点になるシナジーであるが、実際にバリュエーションに反映する際に、どのような点を考慮するのか、モデルの組み方はどうするのか、という点を書いたものは少ない気がしている

末尾にテンプレートモデルを付属させているが、ここでは概括的に、シナジー分析の例を実際の計算例をもとに書いていきたい


シナジーとは

シナジー(Synergy)とは、相乗効果とも呼ばれ、M&Aにおいてはある企業Aがある企業Bを買収することにより販売・生産・調達等の機能が一体化することにより、売上高増加・コスト削減等の経済的なアップサイドが見込まれることを指すことが多い。

買収における売上高増加の要因としては下記がある。
①:追加的な知的財産(IP)取得:IP取得により派生して売上高が稼得できることが期待される。特にコンテンツ産業においてより競争力のある商品を提供できたり、製造業において他社にはない競争優位性を有する製品販売が可能になる等が考えられる。

②:補完的なパイプライン・製品群の取得 >> 買収企業が有していない製品群を有する企業を買収する場合、製品ライン・パイプラインの拡充が可能になる。

③:補完的な地域・顧客の獲得:②と類似するが、同一製品カテゴリであっても被買収側企業の地理的なカバレッジや、顧客層等で魅力的である場合、買収する側の企業にとってはメリットが認められる。例えば、投資銀行が他の投資銀行やアドバイザリーファームを買収することがあるが、これは正に、被買収企業の有する顧客層や地域へのアクセスを可能にするものであろう。

買収におけるコスト削減(Cost savings)の要因としては下記が例として考えられる
①:サプライチェーンの効率化
②:ITシステムの統合によるコスト節減
③:営業・マーケティング機能の改善によるコスト削減
④:研究開発機能の改善

財務モデル(DCF)への反映方法

シナジーによる分析を実際に反映させる場合にどのようにモデルを組むかどうかについては、あまり説明されたものがないと思うので下記にモデルの例を示しながら解説していきたい。ここの設例では、シナジーによる増分は売上高増大とコスト削減の2つで定義されるとしよう。

まずは下記のCONTROL SHEETにおいて、必要な項目を入力する。

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Control Sheet

モデルではCaseを1-3で選択できるようにプルダウン方式にしており、Case1であれば上のセルにBase case, Case2であれば同様にUpside case, Case3であれば、Downside caseと赤字で表示されるように関数式を組んでおくと見やすい。

上のCONTROL SHEETでは青字にしている箇所はハードコードされた数値であり、モデルを使用する側がいつでも変更できることを意味している。Valuation date as ofは評価基準日であり、簡単にするために評価日=決算日にしている。Diluted shares outstandingは希薄化調整後の発行済み株式総数である。
PGRは永久成長率、WACCは加重平均資本コストと、いつものDCFモデルで見かける変数である。

なお、感応度分析を行う上では、WACCの範囲を設定するためのWACC Step, PGRの範囲を設定するためのPGR StepをCONTROL SHEETに設けている。

シナジーモデルで特徴的なのは、最後の2行に記載されているシナジー増分に関するものである。Synergy 1は将来の計画期間全体における売上増加、Synergy 2は将来の計画期間全体におけるコスト削減効果である。いずれもEBITDAおよびアンレバードフリーキャッシュフローを増加させる効果があるのでM&Aにより、見込まれる増分を手入力する。

キャッシュフローへの反映

上記で述べたCONTROLS SHEETにおいてケースの設定が終わった後は、これをキャッシュフローに反映させる。非常にシンプルなモデルではあるが、以下のようなイメージになろう。

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上記でBOPはBeginning of Period(会計期間の始まり)、EOPはEnd of Period(会計期間の終わり)意味している。Realization - Revenue,およびRealization - Cost savingsは売上増加とコスト削減の2つのシナジー効果が、計画期間の各年度においてどの程度発現するかを%で標記している。

即ち、Incremental revenue * realization at each projected period = 売上増分、Cost savings * realization at each projected period = コスト削減によるUFCF増分となっている。

最終的にDCFモデルに反映されるUFCFの増分は、オレンジ色にハイライトされた数値(税引後の数値)を、割引計算前の行にリンクさせバリュエーションを行うことが望ましい。
なお、割引計算は期央主義で行うため、将来の各期間におけるUFCFの現在価値合計は下のテーブルで各割引率ごとに表示させるようにしている。

なお、1点留意すべきことがある点としては、継続価値の現在価値は期末主義により割引計算を行う必要がある(継続価値はストック項目であり、キャッシュフローとは異なり期中を通じて平均的に発生する項目ではないからである)

ちなみに売上増大およびコスト削減の実現スケジュールは下記のテーブルで表現している。

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Schedule Images

Base caseでは、売上高増加の効果が2022年に出始める。Upside caseでは売上高増加の効果が翌年の2021年から出始めるという設定になっている。Downside caseでは、シナジー効果の発現は遅く、2022年以降という設定である。

なお、着目すべきは計画期間最終年度の2027年ではシナジー効果のRealizationは15%となっており各ケース共通である。

これはモデル上継続価値を計算する際に、最終年度のUFCFをベースに計算するので各ケースで違いを設けるとシナジー効果の発現時期のタイミングでどの程度バリュエーションが変わるのかという点分かりにくくなるため、配慮して設計している。

即ち、割引計算をする以上はシナジー効果の発現が早いほど、高いバリュエーションにあるということがモデルで確認できるようにSynergy realizationのタイミングを調整している。

感応度分析

感応度分析は、一般的なDCF法における加重平均資本コスト(WACC)と永久成長率(PGR)で行うのと同様、シナジー分析に関しても同様である。下記が感応度分析のテーブルの一例である。

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感応度分析イメージ

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