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HHOガスでエンジンを回す試みの顛末

HHOガスという魅力的な情報に触れる

 HHOガスという情報を知ってから、その実験を行うことになりました。ガスの発生方法によってブラウンガスまたはオオマサガスと呼ばれます。一般的には、水を電気分解して作った水素と酸素の混合ガス(爆鳴気)で、火をつけるとパンッと爆発して水に戻ります。ガスの発生方法によっては、火をつけても爆発しない特殊なガスになることがありますが、自分では再現することができず、不思議な現象を目にすることはありませんでした。当時、動画サイトでよく見たのは細い炎を噴射して金属を焼き切るトーチや、ガスでエンジンを回して発電するシーンでした。また、このガスで走る車の動画もありました。一部のサイトでは、ガスでエンジン発電機を回した方が、電気分解するエネルギーよりも得られるエネルギーが多いと書かれていました。

HHO Cell

 電気分解するには、ステンレス板を狭いピッチで多数重ね合わせたHHOセルというものを使用します。Anton HHO Cellなどが代表で、写真のように非常に美しいデザインであることが確認できます。
組み立てる動画も魅力的です https://www.youtube.com/watch?v=pSknOBL2It4

Anton HHO Cell 

 Anton HHO Cellと発電機を組み合わせると、生成したHHOガスでエンジンを回して発電し、その電力でまたHHOガスを発生させ、ずっと動き続けるという摩訶不思議な解説もあり、本当かどうか疑いつつも非常に惹かれるものがありました。

まぁやってみようよ

 試してみずにはいられないので、いろいろなものを購入して実験をすることになりました。まずは、アメリカからHHOドライセルを購入しました。左のバブラーという小タンクで水を通して逆火を食い止める安全な仕組みになっています。大きいタンクに火がついたら大爆発して大変なことになるでしょう。

アメリカから買ったHHO Cell

オリジナルのHHO cellを作る

 ドライセルのプレートと上部タンク内の電解液の流れがわかると自分でもドライセルを作ってみたくなります。3D CADを勉強して、個人でも対応してくれる加工業者を探して図面を描いて加工してもらいました。
 アクリルブロックとステンレス板を加工して、絶縁のゴムシートはカッターで切り抜きます。アクリルプレートにねじ込み継ぎ手をねじ込んでホースでつなぎます。

3D CADでデザインしたオリジナルのドライセル

水と電解液について

 水道水ではほとんど電流が流れないため、電解質を水に入れます。電解質はネットでいろいろ調べて試しました。手に入れやすいのは塩や重曹などですが、塩はステンレス電極を傷つける可能性があり、重曹はHHOガスの他に炭酸ガスが多く生成されるため、水酸化カリウムKOHがおすすめです。ただし、KOHは薬局で取り寄せる必要があるため、少し手間がかかります。KOHは配管の掃除にも使えます。水に関する情報もネットで調べるとたくさん出てきます。たとえば、電流をじわじわと流すとステンレス電極の表面に絶妙な層ができ、超効率でHHOが生成されるといった情報もあります。また、水の硬度は高い方が良いという情報に触れてContrexを購入したり、湧き水が良いという情報に触れて山までドライブして湧き水を汲んだりしましたが、水の違いを確かめることはできませんでした。

エンジンも買う

最初に、ラジコン飛行機用に小型のOSエンジン(容量5ccの2ストローク)を購入しました。しかし、これは回転が速すぎてHHOの実験には適していなかったため、遊んだ後に廃棄しました。次に、三菱のカセットガス発電機を購入しました。これを分解して改造し、エンジンの仕組みを勉強しました。インテークマニホールドに穴を開けて、生成したHHOガスをそこから取り込むようにしました。また、4ストロークサイクルと点火タイミングについても、調査しました。ガスに点火してからピストンを押し下げるまでの時間は、本来のイソブタンとHHOガスでは異なります。この違いは実用上はあまり影響がないかもしれませんが、私はこのタイミングにこだわって複雑な工作を行いました。スパークプラグへの電気供給は、フライホイール上のマグネトーによりイソブタン用のタイミングに固定されているため、PICマイコンを使用した磁気センサとスパークプラグ駆動回路を作り、点火タイミングを調整できるようにしました。後で考えると、HHOガスは爆発圧力でピストンを押すのではなく、爆発後に作られた真空でピストンを引くのが正しいタイミングだと思います。

ガス発電機をHHOガス駆動用に魔改造

HHOガスでエンジンを回せ(1)

 HHO Cellで生成したHHOガスを発電機に入れて発電機のスターターを引くとゴトゴトとエンジンが動く感触がありました。セルから発電機までのチューブには逆火防止弁を設置していましたが、数回やっているうちにエンジンの逆火が遡り逆火防止弁を通過し、バブラー内で爆発が起こりました!バブラーの蓋は弾けてカバーしていたダンボールに突き刺さり、あまりの爆音に自分の耳は数分間何も聞こえなくなりました!恐ろしいHHOガス、いや、爆鳴気です。
おそらく近隣の住人もびっくりしたことでしょう。

HHOガスでエンジンを回せ(2)

 それを教訓にHHOガスの空間は極力小さくした方が安全であると悟り、CELLをタンクやバブラーが必要な平板タイプからシンプルな円筒状のものに切り替えました。JoeCellという名称で知られる形です。このJoeCellも電気分解に要するエネルギーを上回る量のHHOガスが生成されるといった不思議な解説があったりします。

Joe Cellタイプの円筒型電気分解Cell

 動作のセットアップは下の写真の通りです。大きな逆火爆発はなくなりましたが、HHOガス生成は少なくなりエンジンはコトコトと弱々しく反応するだけになってしまいました。

円筒セル。和柄の紙を巻いている。

 実験の最後に標準のカセットガスをセットしてスターターを回したら、ガガガガガと力強く回り発電しました。そうなのです、わざわざ水でエンジンを回す必要なんかなかったのです。
HHOガスで何か不思議な現象を目の当たりにした方がいましたら、コメントで教えてください。私はもう機材はすべて処分してしまいましたがね。フフ

顛末記

 超効率の電気分解を目指す実験を通じて多くの怪しげな情報に振り回されることになりました。JoeCellに入れるのは硬水が良いとか、軟水がよいとか、水道水でよいとか、条件次第では勝手に水素が生成されるというような情報もあったりして、山までドライブして湧水を汲んで試したりしたこともありました。電極に良い感じに酸化膜が付くと生成効率が上がるという情報もあり、数日ちびちびと弱電流で皮膜を作ろうとしたこともありました。
 理屈がわからないまま手法だけ真似てもうまくいくわけはありません。かと言って誰でも再現できるような理屈などなくて全く非科学的です。だからこそ惹かれてしまい、再現実験を試みてしまうのです。そして、何も不思議なことは起こらなかったという顛末になるのです。


HHOも蒸気機関も真空でピストンを引く

 最近読んだ「エネルギー400年史」には蒸気機関を開発した際の試行錯誤の様子が詳しく書かれていました。シリンダー内に入れた水蒸気を冷やして水にすると体積が1/1700になるので、その減圧でピストンを引き下げることが蒸気機関の基本原理です。
 "シリンダー内の水蒸気を冷やす方法"について面白いエピソードが掲載されていました。たまたま水路とシリンダーの境界に小さい穴が空いてしまってシリンダ内に水が噴き出したところ、蒸気が一気に冷やされて鎖が引きちぎられるほどの凄まじい勢いでシリンダが引き下げられたというものです。その冷却方法を描いたのが下図のL(水タンク)とP(送水パイプ)とB(水が蒸気を冷やす様子)です。

ニューコメンの蒸気機関

 一方でガソリンエンジンは燃焼による圧力増加でピストンを押して運動エネルギーに変えるものです。燃焼ガスがピストンを押し切ったらそのタイミングで開いた排気バルブから排出されながら、ピストンは惰性でシリンダ空間を縮める方向に戻ります。それがガソリンでの燃焼機関です。
 ガソリンは炭素と水素からできていますが、内燃機関を理解する上では燃焼成分(炭素)と体積膨張成分(水分)に分けて考えた方がわかりやすいです。 

HHOガスの反応過程

 蒸気機関はトリガとなる冷却水噴霧が起こると体積が縮む。
ガソリン機関はトリガとなるスパークプラグの点火が起こると体積が膨らむ。
 では、シリンダー内に充填されたHHOガスにトリガとなる点火が起こると圧力はどうなるだろう。
そんな実験をやってみました。厚い樹脂容器内でHHOガスを発生させて点火して反応した際の圧力変化を確認する自前の実験です。容器空間は空気も多く入っているので、純粋なHHO機関とは少し状況が異なります。
 動画の通りHHO機関ではトリガとなる点火が起こると体積が膨張した後に縮むことがわかります。

 この性質を利用して運動機関を作るには、ピストンが上死点(Top dead center)に来る手前で点火させるのが動作効率がよくなることが想像できます。
 点火後の減圧量が水蒸気→水よりもHHOガス→水の方が大きければより高い運動効率が期待できます。両者の差については検証はできていません。

 こわいこわい逆火が怖い。ということで私はこれ以上の実験には進めませんでした。逆火や爆発を気にせずガンガン音を出して実験できる地面とガレージが欲しいです。

 フリエネ、永久機関、反重力、こういったテーマはそそられますよね。
 いくらでもお金をかけて実験をしてしまいます。💸

最後まで読んでくれてありがとうございます。
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