見出し画像

戦いと技術の神様オグン Ogum

ずっと書くことを迷っていたオグンのお話です。オグンは、イラストにあるように、武器を製り、その武器を手に戦いに出る神様です。
戦いと鉄の神、鍛造と技術の神で、道開きの力を持っています。

画像1

イラスト©︎クルプシ

 オグンを守護神にもつ人は不屈で、情熱的ですが根は冷徹です。たいへん働き者で、鋳型を取る手作業、技術的な活動が得意で、警察、兵士、メカニック、技術者などに多いと言われます。人生における発展を助け旅を容易にしてくれる神様です。
有名なブラジル料理「フェイジョアーダ」は彼のためのお供えものです。
オベーというナイフを持っていて、月曜日の担当で番号は7番、あいさつは「オグンエー」。ロイヤルブルーがシンボルカラーです。

ゼカ・パゴジーニョがまさに「オグン」という歌を歌っています。ここでは聖人サォン・ジョルジが一緒に歌詞に出てきます。ゼカさまはオグンと、ふたごのこどもの神様・イベジーを守護神に持っているそうですね。

 オグンが自分の守護神だったら、かっこいいな、というコメントをいただき、さて、オグンはどんな神さまなのか、少しだけ、ヘジナウド・プランジさんの「イファー(預言者)」の本から、読んでみたいと思います。


王になりたくなかった鍛冶屋


 イレーの街には、オグンという名前の鍛冶屋がいました。
彼は錬術を発明し、武器や道具の生産を可能にしました。
オグンはイエマンジャー・海の主の息子で、とても頼りにしている二人の兄弟がいました。
オショーシ。オグンが狩りを教えました。そしてエシュー・メッセンジャー、道に暮らすもの。オグンも道に出ることを好んでおり、家でみかけることはまれでした。オグンは狩りをし、闘いながら、世界を渡っています。
ある時、戦争から戻ってみると、自分の集落が沈黙で静まり返っているではありませんか。誰も歓迎も、お祝いもしません。オグンは悲しみこう思いました。
「戦いで敵に勝って、家に戻っても、誰ひとりの臣下も構ってくれない。なんという恩知らずだ!」
オグンは怒り、みずからが作った剣を抜いて、前を行くもの全ての首を落としてしまいました。
血が!殺される!
 やっと太陽が沈み、生き残ったものたちはオグンにひれ伏し、お帰りなさいと歓迎の意を表しました。
 オグンはそこで、自分の大きな過ちに気が付きました。
到着したその日は、民たちはこの国を作った遠い、何代も何代も前の祖先に敬意を表する日だったのです。
祖先はイレーの国にやってきた最初のひとたちで、その日は陽が沈むまで誰も、誰とも話してはならぬという「敬意の沈黙」が古くからの習わしでありました。
みんなオグン・戦士のことはわかっていたのです。みんなオグンの帰還を喜んでいました。
ただ、挨拶をするのに適した時を待っていたのです。

オグンは心の底から悔やんで、血まみれの身をヤシの葉でくるんで、自らを恥じ、落ち込んで、ほぼ人口壊滅になった街を後にしました。
オグン・戦士は、街から遠く離れて、森で暮らしました。
独り、もともとは最初の職だった狩りをただして、暮らしました。

オグンが剣を地面に突き刺すと、大地がたちまち割け開き、オグンは大地に飲み込まれてしまいました。

そして、オグンはもう人間ではなく、オリシャーになったのです。


 オグンには他の神さまと同様、様々なエピソードがあります。ライバルであるシャンゴーとの死をかけた賭けや、最長老の知恵の女神ナナーに生意気にたてつく話、父オバタラの留守をついて母イエムーと性的関係をもつ話や、ライバルのシャンゴーから美しい妻オシュンを奪おうとする話も有名です。オグンは自分の森に女性を連れていっては力づくで関係を持ち、時に暴力に及びます。森で彼と一晩を過ごしたイエマンジャー(前述のお話では母親となっていますが、このお話では恋人)は「名声をもつ男と一晩過ごす」ことに喜びを感じ、もう一夜を彼と過ごしたいと願うも、オグンに断られてしまい、愛の女神オシュンに知恵を求めると、なんとオシュンは自分の家だと騙してオグンをおびき寄せ、いざ夜になると寝床から逃げ出してイエマンジャーと入れ替わります。目が覚めたオグンは隣に寝ていたイエマンジャーを見て怒り、殴ってしまうという話があります。

 オグンは強くてかっこいいというイメージがあるかもしれません。しかしこのようにオグンには奥底にものすごいパワーを感じるところが私には恐ろしく感じられます…。

 オリシャーのお話は素朴で面白いのですが、このようにお話の中では何度か女性神が殴られるシーンが出てきます。大好きなオムルーも、あんなに内気でかわいい神様なのですが、妻のエウアーが他の男に気があるのではと嫉妬し、なんと彼女を蟻塚に放つという奇行に及びます。蟻に噛まれて痕だらけになったエウアーをオムルーが藁でくるみ、もう一人オムルーができるという、恐ろしいエピソードなのですが、生々しい嫉妬や暴力も神々の世界には存在するのだなと、身近に感じるとともに人間の変わらぬ欲望の深さを感じます。

最後に、このお話の続きです。ヘジナウド・プランヂさんのお話「イファー」に戻りましょう。

画像2

...イファー・預言者によって語られる別のおはなしがあり、オグンを人里離れた森から連れ帰ったのはオシュンだといいます。

オグンはイレーの国の偉大な戦士で、王様でした。
しかしそれより以前に、鍛冶屋でした。
オグンが全てを捨てて、森で暮らそうとしたとき、同時に鍛冶場も冷え切って荒廃しました。
もう鉄の製品を作らなくなってしまいました。
ナイフも、鍬も、鋏も、鎌も、剣も…
街ではそれらがないと暮らしが成り立たないので、必要なのですが。
そして、作り方を知っているのはオグンだけです。
たくさんの遣いの者が、説得して街に連れ帰るためにオグンを探して訪ねてきました。
ですがオグンはいつも断りました。
それで、ある美しい人、誰よりも美しい、オシュン・美が、王様を取り戻すために差し出されました。オシュンに踊りを誘われて断る人はいません。
最もきれいな宝石で裸の胸を覆い、生来の美しさを輝き際立たせて、オグンを説得に森へ行きました。
オシュンはひとことの言葉も使わず、ひとことも発せず、戻って欲しいとすら言いませんでした。ただ、戦士のために踊ったのです。
今まで踊ったこともないような、踊りを。
オグンは魅せられてしまい、めまいがしました!

そのうっとりするような踊りをやめることなく、オシュンは時々後ずさり、オグンはすぐについてきます。
オシュンが後ろにステップするたび、オグンは我慢できなくてついて行ってしまいます。

ダンスも、後ずさりも続き、オグンに気づかれることなく、二人は街へ戻っていました。
市場の真ん中の広場にたどり着いて、イレーの市民たちがみな、拍手をして迎えました。
民は熱狂してオグン・鍛冶屋の帰りに挨拶をしました。
そうです。オグンは民とともにあることを約束し、再び鍛冶屋が統治することになりました。
鍛冶場に再び火がともりました。民はオグン・狩人を落ち着けました。
オグンは鍛冶屋(フェヘイロ)
オグンは戦士(ゲヘイロ)
オグンはイレーの国の王
オグンはたくさんの名前があり、この国を永遠に統治しました。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?