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疫病と治癒の神 オムルー Omulu

 日本では疫病払いの妖怪が話題になっています。今日はブラジルの疫病と治癒を司る神様「Omuluオムルー」のことをご紹介します。

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※イラスト©︎クルプシ

  この「オムルー」という神様、全身にワラを被っており、なんとなく怖い身なりなのですが、なんだか愛らしくもあり、親近感を感じずにはおれません。友達に連れて行ってもらったカンドンブレーの家(信仰儀式を行う場所)も偶然オムルーの家でしたし、何かとご縁のある方です。
 オムルー(またはオバルアエ)は、カンドンブレーという信仰の中の、天然痘、ペストなどの感染症や病を司る神様です。身体的な悪とつながっており、かつその治し方を知っています。 

 オムルーを守護神に持つ人は、「落ち込み」という側面があり、社交的に見えるけれど、内気で、はずかしがり屋です。
歳をとると、何人かは賢者となりますが、あとの人は世捨て人になり、ひとりでいるのを好みます。 

 カンドンブレーの神様は、それぞれお好みの食べ物と、アイテム、そして決まった番号と曜日、祝詞のような挨拶を持っていますが、オムルーは子ヤギ、豚、雄のニワトリ、ポップコーンが好物なので、これらをお供えすると喜ばれます。
アイテムはシャシャラーという「ほうき」で、このほうきで病を掃き、我々から疫病を遠ざけてくれると言われています。
あいさつは「アトトー」といい、これは「静かに」という意味です。担当の曜日は月曜日、数字は11番。色は白、赤、黒です。

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※こちらはオムルの若い姿、オバルアエの実際のお姿です。

 カンドンブレーはアフリカのヨルバ由来の信仰で、奴隷貿易により奴隷たちとともにブラジルへ渡り、奴隷制の弾圧を受けながらも受け継がれてきました。カポエイラが現在様々な姿や形式を持っているように、カンドンブレーもその起源や生き延びた過程、地域によって現在様々な姿をしています。
 みなさんはカンドンブレーの占いの「貝投げ」をなんとなくご存知なのでは、と思うのですが、あの行為は貝の表裏を数えています。貝の数は16あり、表がいくつで、裏がいくつかによって話すべき内容が決まってくるのですが、実は聖職にあたるひとはその組み合わせによって読むべきストーリーを全部記憶しています。
 ヨルバの文化は文字化されず、口承で伝えられてきました。16の章からなる何千のお話から、その時に話すべきことを引っ張り出してくるのです。
すごいですね。

 さて、今日はそのカンドンブレーのたくさんいるおはなしの神様のうち、疫病を司る神・オムルーのお話です。

 Reginaldo Prandi(ヘジナウド・プランヂ)という作家は、カンドンブレーの神々、オリシャーのお話を読みやすい形で、数多く本に残しています。
彼の書いた神様のイラスト本「オシュマレー」を翻訳したので、ご紹介します。

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「貧しいものの医者は、イエマンジャーの真珠を手に入れる」

 実はオムルーはもともと、ある国の王子でした。昔むかし、遠く東から来た戦士たちは、アフリカ西部の王族を次々侵略しました。そして、死に至る武器を持って来たのです。天然痘という。
ある侵略された村に、オムルーは暮らしていました。オムルーは王様の息子でした。 

 オムルー王子は、伝染病に罹り、天然痘になってしまいました。
天然痘のあばたと、膿で皮膚がおおわれて、高熱が続き、オムルーは死にそうでした。
オムルーは賢かったので、自分の病気を治癒する勉強を始めました。
まず、天然痘、そしてほかのものも。
忍耐をもって、すべての病の秘訣をあばき、体の悪いことの全ての謎を解き明かしました。
そして薬の主となり、魔術の主となって、奇跡の処方箋を得て、生き残りました。
しかし、皮膚にはあとが残ってしまい、母ナナー、サビアーは、そのあとを隠すために、オムルーをわらでおおってやりました。

 オムルーは村を歩いて回り、見放されていたような病も治して、疫病を追い払いました。貧しいものの医者、治療者と呼ばれ、しかし、かなしく貧しいものでもあり続けました。ひとりぐらしで、いつもわらにかくれている自分を恥ずかしいとおもっていました。

 ある日、オムルーは海岸にやってきて、海の神イエマンジャーに出会いました。
オムルーをかわいそうに思った魚の母イエマンジャーは、全てのオリシャの母として、オムルーを養子に受け入れました。
イエマンジャーは、オムルーの悲しみを見て、どの恵みを与えれば、彼を幸せにできるだろうかと考えました。

 海の主イエマンジャーは、大海を治めます。魚たちの、タコやイカの主。
イエマンジャーは法螺貝や巻貝、首飾りを持っていました。
それらは皆、海から来たもので、かつては、イエマンジャーの母、オロクンのものでしたが、オロクンがイエマンジャーに全てあげたのです。
イエマンジャーはたくさんの宝飾品の主で、気高く、藻草で身を飾るのを好みました。海の緑の水をまとって、波の白い泡を好み、髪を月夜の光で飾りました。
 イエマンジャーは、ある「たからもの」を持っていることを思い出しました。
ひとびとが渇望する富。
牡蠣たちが、イエマンジャーのために作った数限りない「真珠」でした。

 イエマンジャーはオムルーを呼んでこう言いました。「今日から、おまえが真珠の面倒をみるんだよ。そうしたら、真珠の主と呼ばれるようになるから」
オムルーは藁の下に真珠の首飾りをつけて、その美しさが傷を隠してくれるように、と飾りました。
 そして苦しむ人を癒しながら、村から村へと歩きました。人々は賢者が、王の息子が目の前にいるとはわからずにいました。

 オムルーはその治癒の神秘と豊かさを誇りに感じていましたが、それでも悲しくて、引っ込んでいました。
 オムルーは健康と病気に関する全ての神秘を支配していましたが、必要があれば疫病の罰を与えることもできました。
 オムルーは、治癒することもできますが、同時に、死を司ることもできるのです。
 みな、敬い、ですが畏れ、もたらされる健康に感謝しました。

 オムルーは、藁に身を包んで、手にもったほうきでペストを遠くへやってしまいます。
 みんなは「アトトー」とくちずさんで挨拶します。
 これは、彼の地で「静かに!敬意を」という意味です。


アトトー!

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※アマビエはお菓子になっているそうですが、オムルーはよく納豆と間違われます。

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