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PSWを続ける理由

中学の頃から心理学に興味を持った。精神に関わる仕事をしたいという気持ちは変わることなく、大学を経て短期養成所を卒業し、晴れて精神保健福祉士としてデビューすることになった。そんな私だが、PSWを辞めようと思ったことが1度だけある。

社会人1年目でとあるブラックな病院勤をしてしまった私は、精神的におかしくなった時期があった。眠れないし、身体が怠くて起き上がることができない。職場に行こうともがいて、何とか最寄り駅までたどり着くと、途端に足が震えて涙が出てくる。結局自宅まで引き返し、泣きながら上司に休む連絡を入れる日が続いた。

理由は、精神的なストレスしかない。医者のトップと経理のトップはそれぞれ言う事が違って、片方の言う通りに行動すると片方から怒られることが多かったし、医者のトップは止める者がいないため平然とセクハラを言ってのける。患者の事を考えて行動すればするほど、上からの重圧に耐えることになるし、人は足りずに残業は増える。そして言われる言葉は「残業するのは能力がないからだ。」

社会人としてもPSWとしても1年目のこの私に、そもそも効率的に仕事を捌ける能力があるとでも言うのだろうか。それでもその時には、まだ自分が死ぬ気で努力すれば、何とかなると思っていた。

でも、患者が死んだ。

私を自室の部屋に連れ込もうとした30代の男性が、その一ヶ月後に首を括った。正直、後味が悪すぎた。そんな消化不良を抱えたまま、自分の担当患者も死んだ。一人は老衰だった。

もう一人は、自殺。

最後に会話をしたのは、私。

今でも最後に交わした会話を、その表情を、思い出す。きっとこの先も忘れることはないだろう。後悔だけが残った。私が1年目だったから、未熟だったから、もっと違う言葉をかけていれば違ったのか。言葉にできないような複雑な感情が、身体中を巡った。

悼む時間も、上司からのフィードバックやスーパーバイズも特になかった。仕事は変わらずに、慌ただしく進む。彼の座っていた席にも、すぐに違う誰かが座った。

そしてとうとう、おかしくなった。

生活が昼夜逆転し、起きている時間は明け方3時から6時くらいまでの三時間程度。1週間は、ほとんど飲まず食わずで寝たきりのような生活を過ごした。変な話、人間はほとんど飲まず食わずで過ごすと、出すものも無くなるらしい。排泄もほとんどなかった。

精神科に勤めているのに精神科に通うことは正直躊躇われた。しかし、どうにも自分で解決できそうになかったし、このままだとやばいということだけはわかっていた。

そして意を決して、自宅から歩いて行けるメンタルクリニックのドアを叩いたのである。

行ったメンタルクリニックは、まだ平日の昼間だったこともありさほど混んでいる印象はなかった。名前が呼ばれ、最初に優しい雰囲気を纏った心理士がインテークをとってくれた。仕事に行けなくて困っているという相談を最初にしたのだが、さすが心理士は話を聞き出すのが上手い。結局最後の方は泣きながら仕事が辛いことを話していた。

心はズタボロで、自分への自信もプライドも何もなく、仕事への恐怖心でいっぱいだった。もうPSWとして自分は向いていないんじゃないか、他の仕事についたほうが良いのではないかとも考えていた私に、心理士は言った。

「あなたは他人に共感する、PSWとしての素質がある。ただ、患者やクライエントとの距離が取れていないだけ。あなたの心は今、亡くなった人の親族と同じよ。私たちは医療職として、距離を置かなければいけない。それができれば、あなたは素敵なソーシャルワーカーになれるわ。」


その言葉で、私は今もPSWを続けている。


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