方丈記
鴨長明の方丈記の一節である。
世のはかなさを綴った随筆集であり、 現代文に訳しても十分読み応えのある内容だ。
平安時代から鎌倉時代へ移り変わる時期であって、飢饉や大火など天災もあったころである。
驕れる平家久しからずであって、栄華を極めた平家も陰がさし始める。
歴史の授業からでは当時の庶民の実際などを知るよしもないが、方丈記では事細かに記されている。
養和の飢饉とされる章があり、その一節に
前の年は、こうしてやっとのことで暮れた。
翌年は立ち直るだろうかと思っていると、立ち直るどころか、その上に疫病までが重なって、いっそうひどい状況となり、何もかもだめになった。
世間の人々は皆飢えきっており、日が経つにつれて行き詰っていくありさまは、「少水の魚」のたとえにも等しい。
ついには、笠をかぶり、足を包んで、よい身なりをした婦人までが、一途に家々に物乞いをして歩いている。
このように困窮した人々は、今歩いていたかと見れば、いきなり倒れてしまう。
土塀の前や道端には、飢え死にした者らの数が計り知れない。
死体を取りかたづける術もなく、死臭があたり一面に充満し、腐って変わっていく顔や姿は、むごたらしくて目も当てられないのが多い。
まして、河原などは死体の山で馬や牛車が通れる道さえない。
身分の低い農夫や木こりも力が尽き果て、薪さえ乏しくなっていき、頼るところがない人は自分の家を壊し、それを市に出して売る。
それでも一人が持ち出して売った価は、一日の命をつなぐのにさえ間に合わないという。
けしからんことに、そういう薪の中に赤い丹の塗料がつき、金や銀の箔などが所々にある木がまじっていたので、調べてみると、どうしようもなくなった者が古寺に行き、仏像を盗み、堂の中の仏具を壊して取ってきて、割り砕いて売り出したという。
濁りきった末法の世に生れあい、このような情けない行いを見てしまった。
とある。
政が乱れれば乱世となる。
そこに天災が加わればかくの如しだ。
況や、今日びの日本。
1000年近く昔の話を過日の話と聞き流すことなかれ、である。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?