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たとえよう、さらば開かれん。


未来を描くということ。

お話を聞いたのです。ビジョンデザイナーの三澤直加さんに。
ビジョンデザイナー。単純に響きがかっこいいです。カタカナの肩書は世の中に溢れていて時折「?」と思うものに出会うことも少なくありませんが、この職能には何か実直な未来や光のかけらを感じずにはいられません。そんな三澤さんはグラグリッドという会社のリーダー。さまざまな企業や自治体や学校と共創的にビジョン(=明るい未来)をつくるべく、グラフィックレコーディングを始めデザイン思考の多様なメソッドを活かして精力的に活動されています。大事にされている3本柱が、サービスデザイン、ファシリテーション、ビジュアルシンキング。最高の体験をつくり、共創の仕方をデザインし、描きながら考える。どれも僕が専門外で、だからこそ学びたいことで、ワクワクがムズムズしてきます。

絵の力が生み出すもの。

「議論をすると多数決で決めてしまう」、「すぐ正解を求めたがる」、今の小学生。わかるところもあるけれど、ある種の思考停止の温床がその水面下に見え隠れもしています。そんなイマドキの子どもたちに課題を感じていた校長先生と併走したプロジェクトは、素敵なインスピレーションに満ちていました。その軸となったのが、「絵の力」。体育館にめいっぱい敷き詰めたロール紙に、“新しい星と、そこに住む新しい生き物”を描こうとテーマを投げかけると、子どもたちのペンがワクワクとともに走り出します。そうそうそう、ゲームやアニメもいいけれど、描くっていいよね。きっと最初はおっかなびっくりで描き始めた子どもたちが次第にペンがとまらなくなって、おしゃべりであちこち賑やかになって、どこかでちょっと言い争いなんて起きちゃって、ふと不思議な静けさがやってきたりして。そんな様子が目に浮かびます。アウトプットの大切さ、それは個性そのものであること、個性がぶつかることで共に創り出せるものがあることを知ること。柔軟な創造的思考法を身に付けてもらおうとグラフィックレコーディングの手法で、凝り固まった子どもたちのクリエイティビティを解放していきます。すごいなあ、絵の力。

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今ないものを生み出す技術。

そんな事例だけでなく、物流企業のビジョンづくりや地方自治体のブランディングなど「目指す未来」をステークホルダーと併走しながらグラフィカルに顕在化させていくことで、当事者の皆さんの心を発展的にひとつにしていくのが三澤さんなのです。素敵やん。そんな彼女はいろいろな箴言をもたらしてくれたのですが、ふと漏らした言葉に、僕は釘付けになりました。彼女は何を言ったか。大切に思っているのは……「たとえてみる」こと、と。スタンダールに言わせれば、雷の一撃が脳髄を走りました。そうなんです、これって人類を前進させてきた根源的な力じゃないか、と。ビジョンを明るい未来だとすると、その未来はまだどこにも存在しないし、顕在化していないのです。つまり、ないのです。だからこそ、存在しないものに、存在してほしい姿としての“近しいイメージや具体性のある言葉”をわかりやすく直感的に与えてあげる。その力が大切なんだ、と。これって、構想力とも言えるかもしれません。たとえ話がうまい人は、人々を惹きつけます。メタファーの名手、村上春樹が人々にどれだけ愛されていることか。存在しない未来に、カタチを与える大きな一歩。たとえば、と最初に思う力は、直感です。ロジックで頭をがんじがらめにせず、直観をもっと信じて磨いていこうと思うのです。ないものを生み出すための力。これイノベーションにも使えそうです。

武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科 クリエイティブリーダシップコース
クリエイティブリーダシップ特論/第1回/三澤直加さんの講義を聞いて 2020/5/18

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