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補助線で起こす、イノベーション。

名詞ではなく、動詞。

お話を聞いたのです。ユニバーサルデザイン総合研究所の赤池学さんに。
科学技術ジャーナリスト、プロジェクトデザイナーとしても活躍される赤池さんが語るテーマは、ずばり「イノベーションデザインとは何か」。かつては顧客のニーズをマーケティングしてそれに応える製品を作っていれば良かったけれど、モノが行き渡ったコモディティな世の中になってから、パナソニックや日産、サントリーや日立といった大企業の中枢にデザインセンターが入るようになりました。そんな時代を象徴するスティーブ・ジョブスの言葉を、赤池さんが引きます。「私たちがデザインしようとしているのは、名詞ではなく動詞なのだ」。日産セレナの“モノより思い出”というコピーを思い出しますが、5GBのMP3プレイヤーを売るソニーに対して、“1,000曲をポケットに”とi-Podを出して世界を席巻したアップルが物語っています。スペックの高いモノでなく、新しい素敵な体験が人々を動かすのだ、と。

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ハンディキャップが生む価値。

2,000社以上の町工場を見てきた赤池さんは、パナソニックの斜めドラム洗濯機や燕三条のバリアフリーカトラリー、大島紬のベビーズギフト等々、ユニバーサルデザインを通してさまざまなメーカーやプロジェクトの製品開発にブレイクスルーをもたらします。なかでも心惹かれたのは、今治タオルで視覚障がい者の方々と生み出した“ダイアログ・イン・ザ・ダーク・タオル”。視力にハンディキャップを持つ人は、だからこそ常人にはない素晴らしい感性を持っていて、触り心地のスペシャリストなんだ、と。なんて素敵な話でしょう。「タオル片を水に落としたとき、5秒以内に沈み始めないといけない」という厳格な吸水性の品質基準を持つ今治タオルを、スペシャルな感覚を持つハンディキャッパーの方々がさらに磨き抜いたタオル。このストーリーにもう目がハートマークになります。赤池さんは言います。品質を開発するのに大事な視点は、ハードウェア、ソフトウェアだけでなく、センスウェア、ソーシャルウェアなんだ、と。その中でもセンスウェア、心と五感を動かす感性価値を持てているかどうかが重要と言いながら、チャーミングな表情で教えてくれたのが、焼酎「いまかの/もとかの/となりのおくさん」。わはは、確かにネーミングだけで心と五感を動かされました。

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見えない線で世の中を豊かに。

そんな赤池さんの根底に流れているのは、氏が若き日に師事した建築家ロナルド・メイスの“Design for ALL”というフィロソフィー。このALLには、今生きている地球の人々に加えて、これから生まれてくる子孫、それだけでなく知恵を生み出してきた先人、そして全てを包む自然の生態系が意味付けられています。先達が入っている視座が深いですね。そして、これらのALLとデザインをシェアするために、意味と価値のイノベーションを通じ、ステークホルダーとの補助線を引き直して、新しい価値の連鎖を創造することが何より大事、と説きます。“補助線”というキーワードがおもしろい。僕は、数学は好きな方だったのですが、その対象は圧倒的に幾何で、数字や数式だけになっていくとてんで迷子になっていました。図形問題を解く時に、見えない補助線を1本引くだけで、すべてが見えてくる。この解法と歓びって、非常にイノベーションに通じるものがあります。補助線を探すのって、まったくロジックじゃないんです。図形を見ながら、違う見方をひたすらイメージする作業。“ここに補助線引くと、この図形に違う意味が出てくるかも”、そんなイマジネーションで答えへの道を見つけるのですが、違う見方を探して意味のイノベーションを起こしてるわけです。なるほど~、これから補助線という意識で世の中のあらゆる場面を見てみたいと心しました。


武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科 クリエイティブリーダーシップコース クリエイティブリーダーシップ特論/第14回/赤池学さんの講義を聞いて 2020/8/17

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