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デジタルがすべてを覆った後に。

中国から、アフターデジタルへ。

お話を聞いたのです。株式会社ビービットの藤井保文さんに。
「アフターデジタル」の著者と言った方が早いかもしれません。UXの開発やコンサルティングに黎明期から携わってきたビービットで東アジア営業責任者を担務する藤井さんは、2014年に台湾、2017年に上海へ赴任。そこでモバイルペイメントが進んで現金を誰も使ってない(現金使用率がもはや3%以下)、ICTが社会実装された中国の先進的な状況に危機感とインスピレーションを抱きながら、現地で編集したppt150ページにもなる知見を一冊にまとめ上げ、「アフターデジタル」として上梓するのですが、居場所を問わず社会人が“今、という時代に考えるべき”ことの核心的な示唆を、わかりやすく提示してくれています。そこで語られるのは、オンラインがオフラインを覆う時代。元々オフライン行動だった生活全てがデジタルデータ化して個人に紐付き、あらゆる行動データが利用可能になる、この今という時代です。しかし藤井さん、“概念をきれいに表現する”と評されることもあるそうで、話が本当におもしろい。元々音楽をやっていてレーベルからCDを出していたり、PVを作っていたりと芸術的素養がある方。こういう右脳と左脳がダンスを踊ってるような人の話を聞くのは何とも気持ちがいいです。


UXは消費されるトレンドではない。

アフターデジタルはデジタルとリアルの融合が本質で、それは対立概念でなくデジタルは利便や効率を生み出せるし、リアルには信頼や感動を生み出す力がある、だからこそ、もはや常態であるデジタルを起点にしながらリアルな接点という“レアで貴重な場”をどう活用するかが重要、と藤井さんは説きます。なるほど~と得心することしきりです。そして、得られる顧客情報が属性データから行動データになったからこそ、最適なタイミングで最適なコンテンツを最適なコミュニケーションで届けることが可能かつ重要になり、企業競争の核が“製品”から“体験”になったんだ、と。そのために顧客を真の意味で知る行動データの取得合戦が始まっていて(主導権を握るのはプラットフォーマーだし行動データを利活用できないと負けてしまう)、だからずっと使い続けてもらえる体験品質を備えたUXが求められることになる、と。うんうんうんと得心し過ぎて、首が痛くなりそうです。そこで気が付くのです。UXってデジタルマーケ界隈に数あるキーワードのワンノブゼムで、使いやすいWEBやアプリにすることでしょ、なんて次元で認識してたら痛い目に合う、と。これは本質だ、UXはオンラインがオフラインをマージしていく現代社会の根幹を成す本質的な価値だ、と思い知らされます。


アーキテクチャが良くする社会。

話はここで止まりません。ビジネス視点で見ればマーケティングを最適化する手段となるUXですが、もっと大きな力を持ち得るのだ、と。藤井さんがウーバーよりすごい!とのたまう、中国で展開する“DiDi”という配車アプリ。ドライバーのスコアリングが組み込まれていて、GPSやジャイロセンサーで遠回りや乱暴な運転はすべてモニタリングされ、タクシー運転手が給料を上げようとすればするほど、顧客体験がよくなっていく構造になっているのです。この構造・しくみ=アーキテクチャに藤井さんは着目しています。アリババの信用スコアもそうですが、“良い行動データを残そう!”というモチベーションを喚起するクレバーに設計されたアーキテクチャによって中国の民度が上がったと感じる人が増えている、と。……世の中が良くなっている、改善されているのです。コレ、本来、国の仕事だと思いますが、一企業がテックとUXの力で自社ミッションを伴った社会アーキテクチャの設計まで携わることが可能になったことを意味します。政治の力に依らずより良い社会が実現されていく未来に大きな希望を感じるとともに、裏を返せば企業のミッションや人の倫理観が更に問われる時代にもなることに襟を正しながら、アフターデジタルの世界にワクワクを禁じ得ない2020年の夏なのです。


武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科 クリエイティブリーダーシップコース クリエイティブリーダーシップ特論/第13回/藤井保文さんの講義を聞いて 2020/8/10


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